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第二十章 執念のシャクス

一行は、一度は出たダバインへ戻り、港のある町へ向かった。

包囲網が敷かれているのを覚悟で行く行為。逃亡する犯罪者の心理がよくわかる。

なぜなら、大人の余裕を見せてた三人が緊張しているからだ。


「どうやらまだ大丈夫なようですね」


町へ入り、すぐにダンタリオンが言った。


「油断はしない方がいいよ。シャクスが何もしてないはずがないからね」


一応、オルマが念を押した。

シャクスを知ってるからこそ、包囲網が無いのが不気味に感じられる。


「早いところ大陸を渡る手続きをした方がいい。大陸さえ渡ってしまえば時間を稼げる」


なんのかんの言って、リーダーはケファノスなのだろうか。いつも何かしら指示する。

時間を稼げると言うのは、騎士や賢者、その他国に属する者は安易に大陸を渡れないらしい。もっとも、身分を偽ってしまえば問題はないそうなのだが、バレたらその場で殺されても文句は言えないらしい。

秘密活動を防ぐ為なのだから、罰が重くてもしかたないのだろうが。


「では手続きをして来ます。みなさんはここで待っていて下さい」


雑務がいつの間にかダンタリオンの役割になっている。本人からの苦情が来ない以上、代わることは多分無い。

そんな気もさらさら無いダンタリオンは、さっさと建物に入り手続きを踏む。


「少し働かないといけませんかねぇ」


所持してる金では大陸を渡っても旅をして行くのは難しい。

頼れる国もあるにはあるが、力を貸してくれるかはわからない。最悪な事態も頭に入れて置かなければ。


「はい、『三人』分」


発券機などもちろん無いので、発券してくれたのは無愛想なおばさん。

大柄で横柄なこの女性も、昔は麗しい少女だったのかもしれない。そう思うとむかつくこともなく、笑顔を振る舞えた。


「ありがとうございます」


券を受け取り、腰に提げた巾着に二つに折って忍ばせた。

出航はすぐだ。何事もなく大陸を渡れる。安心したその時、外が騒がしくなった。

バタバタと逃げる人が見え、ダンタリオンは慌てて外に出た。


「シャクス!!」


いたのはシャクス。部下を何人も従えクダイ達を囲んでいた。


「宮廷に使える者が身分を偽って大陸を渡れば死刑だ。知らんとは言わせんぞ」


シャクスはダンタリオンを睨み付けた。


「反逆罪を負わされている以上、どのみち死刑にされてしまうのなら、たいした問題ではないですよ」


「ダバイン城まで滅ぼしたんだ。覚悟は出来てるんだろうな」


シャクスは剣を抜いた。

逃がす気はない。大陸を渡られたら面倒になる。どうしてもケリをつけなければならない。


「わからない人ですねぇ。あれは伯爵がしたこと。私達は一切関係ありません」


「言い訳は聞かん」


シャクスが言うと部下達も剣を手に取る。


「オルマ、クダイを連れて船に急いで下さい」


そう言って巾着を渡す。


「な、あんたはどうすんのさ!」


「ギリギリまで食い止めます。出航まで時間が無いんです」


ダンタリオンも剣を抜く。


「魔法でやっつけらんないの?」


素朴な疑問をクダイが投げると、


「こんな場所で魔法を使えば一般人を巻き込んでしまいます。あなたとケファノスはオルマに着いて行って下さい」


ダンタリオンはシャクスの前に立ち、


「行きなさい!!」


叫んでクダイ達を船に走らせる。


「させるか!」


部下達がクダイを追おうとすると、素早い動きでダンタリオンが阻止する。

華麗な脚技を披露してあっという間に倒してしまう。


「あなたが来なさい……シャクス」


出ようとする部下を抑え、


「お前らはケファノス達を追え。ダンタリオンは俺が相手する」


剣ではシャクスには敵わない。果たしてどこまで食い止められるか。賭けだ。


「魔法を使わないと宣言してくれて助かる。魔法を使われたらさすがに俺も危ないからな」


「皮肉は結構ですよ。それを狙って待ち伏せしてたんでしょうからね」


「知った仲ってのは、面倒なもんだ」


剣を握り直し、ダンタリオンへ向かって行った。










「鎧なんて着てるくせになんであんなに足が速いんだ!?」


「余計なことを考える前にもっと速く走れ」


クダイの愚痴や素朴な疑問にも慣れた。

ケファノスはクダイに合わせて飛んでいるのだ。文句を言われる筋合いはない。


「あの船だよ!」


オルマが出航準備してる一隻を見つけた。


「船に乗ったって追い掛けてくるんじゃないのか!」


クダイがそう言うと、オルマは立ち止まり後ろを向く。


「オルマ?」


「先に行ってて」


何をしようとしてるかは明らか。追ってくるシャクスの部下を相手しようとしてるのだ。

剣を構えたのが証拠だ。


「僕も手伝うよ!」


「行けって言ってんだろ!」


思わずビクッとしてしまうくらいの迫力でクダイを押し返した。


「一度は聖騎士を目指した身。こんな奴ら敵じゃないよ」


仕方なくクダイは券を三枚船員に渡し、


「後から緑色の髪の男と美人が来るから!」


そう言って乗り込んだ。


「大丈夫かな……」


甲板まで上がると、二人が戦う姿が見える。

やっぱり自分も行くべきなのではと思う。


「ケファノス、ジャスティスソードを」


「ダメだ」


「何でだよ!」


「また無眼の構えを使うのだろう?」


「当たり前じゃないか!まともにやり合ったら勝てないし!」


「たわけが」


「何ぃっ!?」


「ダンタリオンが魔法を使わない理由を聞いたはずだ。無眼の構えを使えば同様の威力を発揮する。力の制御も出来ないお前の出る幕ではない」


だからオルマは戦わせなかったのだ。そう言われてしまえば何も言えない。


「この際だ、はっきり言っておく。お前には訓練が必要だ。無眼の構えを使わなくても戦える腕と、無眼の構えを使っても必要なだけの力で戦える技量。いやがおうでも身につけろ。仲間を死なせたくないならな」


「……………っ」


悔しかった。周りが驚くような才能を開花させながら、肝心な時に役に立てないこと。

歯を食いしばって二人を待つしかないのだ。

やがて船員が出航の合図を出す。


「待ってよ!まだ乗って無い人が……」


「悪いね、坊や。時間なんだ」


碇が上がり始める。


「オルマ−−−−ッ!!」


クダイに言われるまでもなく、既に走っている。

オルマは視界にある片付けられようとしていた梯子を身軽に駆け上がり、なんとか甲板に乗れた。


「なんとか間に合ったね」


息を吐いて安堵もつかの間、すぐにダンタリオンを気にかける。

船が動き出すが、この距離なら魔法で瞬間移動出来るはず。


「ダンタリオンッ!!」


クダイの声に反応は見せたが………










「かはっ……」


聖騎士は剣の腕だけではなく、闘気も使う。魔法みたいなものだが、規模は非常に狭い。

闘気を腹に喰らったダンタリオンは、膝を落としそうになりながらも抵抗している。


「仲間が呼んでるぞ」


「シャクス………どうしてもわかってもらえませんか?」


「何をわかれと言うんだ」


「こうしてる間にも伯爵達は野望を叶える道を一歩ずつ進んでるんです」


「……………。」


イタチごっこを続ける時間はない。ダンタリオンは船へと瞬間移動する為の魔法を使う。


「逃がすかっ!」


シャクスは港を離れ行く船を追い掛け、桟橋の端からジャンプして船体に剣を刺すと、それを足場に利用して甲板まで飛び上がる。


「あなたもしつこいですねぇ」


ダンタリオンはふらつく身体をオルマに支えられる。


「任務なんだよ。聖騎士としてのな」


シャクスは腰からナイフを取る。


「いい加減にしたらどうなんだい!私達は何もしてないって言ってるじゃないか!」


「黙れオルマ。それは俺が決めることじゃない」


「手の施しようがないね」


「余計なお世話だ!」


手にしたナイフを投げる。

狙ったのはダンタリオン。子供のクダイと女のオルマは力で捩伏せられる。体力の落ちたダンタリオンは今しか倒せない。

そして甲板に血が飛び散る。


「オ……オルマ……」


ダンタリオンを庇い、ナイフはオルマの左肩に刺さっていた。


「くっ………」


刺さったナイフを抜くと、余計に出血する。


「シャクス……あなたと言う人は……」


温厚なダンタリオンの怒りにも火が点いた。

それはシャクスにだけでなく、オルマを守れなかった自分に対しても。


「聖騎士の称号に縛られて自分を見失うのなら、そんなものに何の価値があると言うのだ」


見兼ねたケファノスがシャクスに問う。


「俺に説教を垂れる気か?」


「あまりに哀れでな」


「なんだとっ!」


「任務に忠実なのは結構だが、真実を見極める力が無いといずれ後悔するぞ」


「脅しか?フン、片腹痛いわ」


剣が無くとも戦える。それなりに訓練はして来たのだ。

そんなシャクスの自信に、


「まだやるって言うなら、僕が相手だ」


クダイが噛み付いた。


「小僧………死にたいのか?」


「ダンタリオンもオルマも僕の大切な仲間だ。傷つけられるのを黙って見てるわけにはいかない!」


その背中。ダンタリオンとオルマにはたくましい男を見た。

クダイがオルマの血で濡れたナイフを拾う。

ジャスティスソードのことなど忘れるくらい本気なのだ。

倒そうと思えば倒せたはずだ。そして船を引き返させることも。そのくらいの権限はある。

でもそうしなかったのは、シャクスの中で迷いがあったからではないだろうか。

クダイの瞳に強い意志を感じた。剣も満足に扱えない少年に負けたのだ。


「…………いいだろう。付き合ってやる」


「へ?」


「貴様らに付き合ってやると言ったのだ」


「それって………」


「伯爵が世界を脅かすのが事実かどうか見定める。もし貴様らの言ってることが嘘だったら、その時は容赦なく斬り捨てる」


面食らったクダイを無視して、


「いいな?」


ダンタリオンに言った。


「フッ………いいですよ。あなたの目で確かめて下さい」


拒む理由はなかった。

聖騎士シャクス。しばらくは味方でいてくれそうだ。


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