第十九章 廻り出した歯車
行き先はわかった。だからクダイは敢えて言ったのだ。
「今回は何日かかるんだ?その輪廻の塔ってとこまで」
車も無い世界。期待した移動魔法も無いのなら、やっぱり歩くしかないのだろう。
旅にも慣れて来た。いい加減こっちから聞いてやってもいい。
ダンタリオンもオルマもセリフを奪われた顔している。
満足。
少しは頼りにしてもらいたいものだ。
「さあ、どうなんだ?」
クダイの満々の笑顔。それを見て、
「輪廻の塔まで約三十日はかかる」
「いっ!?」
ケファノスに悪気はない。簡単に辿り着けると勘違いしたクダイに丁寧に教えてやっただけ。
「輪廻の塔へは海を越えて行かねばなりません。少し長旅にはなりますが、気楽に行きましょう」
なんだこの爽やかな笑顔は。
緑色の髪を靡かせ、ダンタリオンは“余裕”を見せる。
「とりあえずは港に行かないとね」
オルマも。
だから大人は嫌いなんだ。と言わんばかりに、クダイはふて腐れた。
「では行きましょうか。魔王の肉体を取り戻す旅に」
ダンタリオンはそう言うが、不死鳥の存在が確認されていないのに、不死鳥の羽根などあるかなんて定かじゃない。
それでも行くしかないのだろう。ヨウヘイとサン・ジェルマンの企みを止める為に。
屍人の力は次第に強くなっている。そして、制御もある程度は思いのままに。
「ひ、ひい……た、助けてくれ……!」
いちいち数など数えてないが、ダバインの時から比べればあまりに殺し過ぎた。
弱くて話にならないのだ。
こうして怯える人間の顔が、今は快楽へとなっている。
「悪いとは思ってんだ。でもな、しょうがないんだよ」
ヨウヘイはダークエナジーを集める。闇の中でもわかる闇。
漲るままに放出させて消し去る。
「うわあぁぁぁ!!」
どこの誰かなんて知らない。力の制御を完全なものにするには、ただひたすら殺戮あるのみ。
「ほんと、悪いと思ってんだ」
ダバインの時は町一つと城。
だが今度は国一つを業火の海へ沈めていた。
「そうは見えんがな」
「サン・ジェルマン……」
自分に力を与え導いた男は、過剰なまで強くなるヨウヘイに満足しているように見える。
「殺戮を褒めるなんて、あんたしかしないだろうぜ」
「殺戮と呼べば聞こえは悪い。我々がやってることは儀式のようなもの」
「儀式ねぇ……」
「純粋な力が欲しいのだよ。光であれ闇であれ。何の意図も無い純粋過ぎる力が」
「屍人の力は不純だってのか?」
「屍人をフィルタリングするとダークエナジーが生まれる。だが、まだ完璧なフィルタリングがされてない。だから力を使い慣れてもらうのだ。制御しようなどと考えなくともよい」
「もし俺が暴走したらどうすんだ」
「私がいる限り、そんなことは気にせんでいい」
あくまでも、ヨウヘイはサン・ジェルマンの手の平にいると、そう言いたいのだ。
「そっか。なら俺は安心して使わせてもらう」
「そうするといい」
「それより、いつまでこんなこと続けるんだ?行くとこ行くとこで同じことばっかじゃ飽きちまうぜ」
「くくく。それもそうだな。人間、刺激は必要だ」
サン・ジェルマンは杖で遠くを示すと、
「輪廻の塔へ行く」
「なんだそりゃ?」
「不死鳥の舞い降りる塔。そこで全ての輪廻を断ち切る」
「不死鳥を殺すのか?」
「時間軸を融合させるには、輪廻の波動を止めなくてはならん」
「なあ、頼むからわかりやすく言ってくれよ。毎回知恵熱が出るぜ」
殺すのかと聞いてるのだから、せめてYES、NOで答えてほしい。
「不死鳥は伝説の鳥。数多の時間と世界を旅したが、出会ったことは一度もない」
「じゃあどうすんだ」
「輪廻の塔にはその名の通り“輪廻”が存在する。そこから数多の時間と世界に波動が注がれ繰り返されるのだ………運命が」
「…………なんでそんなに繰り返されるのが嫌なんだ?………運命が。あんたは時を操る。その気になればなんでも出来るじゃないか。世界征服とか」
「人間は愚かだ。愚か故に夢を見る。そんな種の世界を征服しても結局何も変わらん。裸の王様にはなりたくないのだよ」
サン・ジェルマンの考えることを探るだけ無駄なようだ。
「まあ着いて来い。知りたいことは直にわかる」
正しい道とか悪の道だなんてこだわるつもりはヨウヘイにはない。
ましてや、人間が愚かだろうと関係ない。
歩く道は一人。吊橋のような不安定な道であっても一人でいい
目指す場所に立つ時、望みの景色だけあればいい。