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第一章 闇夜の出会い

夜というのは特別な時間を演出してくれる。特に夏は。

昼間の暑さを追いやり、少し湿ったようなひんやりとした空気。それとあの独特な匂い。草木の寝息すら聞こえて来そうな闇の香りは、好奇心を掻き立てる。

桐山クダイも好奇心を掻き立てられた一人だ。

若干17歳の少年は、カメラを携え廃校になった校舎に来ていた。最新のデジタルカメラには、アフロヘアの天使のストラップがぶら下がる。


「へへ。ワクワクする」


そんな状況だからやろうとする事は一つ。


「絶対、心霊写真撮ってみんなをアッと言わせてやる」


だそうだ。

クダイは写真に興味があるわけではない。ただ、幽霊がいるかいないかをクラスメートと言い合い、証拠を押さえる為に安易にやって来たのだ。


「よっこらしょっと」


裏手の窓を外し、中へと『侵入』する。もちろん許可など得てるわけではないので、懐中電灯なる便利アイテムは持ち合わせていない。

抜き足差し足したのも最初だけ。後は我が物顔で誰もいない校舎を徘徊する。

生前は中学校を謳っていた廃校。まずは科学準備室。そして科学室。一通り見て回り、次は音楽室と、いかにもという場所を探索する。


「チェッ、ここにもいないや」


そもそも、動物園じゃあるまいし、見ようと思って見れる”人達”ではない。


「そう簡単にはいかないか。また明日にしようかな」


腕時計を見ると、かれこれ一時間は探索したことを示しているし、夜もすがらクダイは帰ることを決意する。

好奇心も冷めると夜中の学校、それも廃校という場所がいかに不気味かを思い知る。


「あれ?」


階段を降りていると、窓の向こう側でちらっと何かが光った。

窓に近寄り目を凝らしてみると、光った場所はどうやら体育館。冷めていた好奇心が騒ぎ出す。


「もしかしてもしかするかあ?」


間違いなく何か光った。何かが反射したような光ではなく、LEDライトのように一点に集約した光。

一度は無くした期待を胸に、一目散に体育館を目指す。

この廃校は、少年達の夏の夜のイベント………つまり肝試しの会場でもあり、今までも何度か侵入したことがある。暗闇の中、月明かりだけでも校内を移動出来る。


「どうしよう………そっと開けた方がいいかな………?」


いきなり開けて驚かせるのもなんだと思ってるのか、赤く錆びた鉄の扉を少し開け中を覗く。


「…………………………なんだあれ?」


クダイの視界に飛び込んで来たもの、それは二人の騎士が戦う姿。

もっとおどろおどろした幽霊を期待してただけに、冷静にものを見れる。

カメラをスタンバイし、画面越しに二人を見守る。


「まさか西洋のオバケが出て来るなんて………」


本気の戦いをしている。

黒には見えるが、おそらくは紫の鎧だろう。時折、月光を浴びてそれがわかる。もう一方は銀の鎧で、手にする黄金の剣が目を引く。

見れば見るほど映画のワンシーン。シャッターを押すのも忘れ見とれていると、紫の鎧の騎士が力強く剣を振るい、銀の鎧の騎士を吹き飛ばす。


「う………うあっ!」


ところが声を上げたのはクダイ。

銀の鎧の騎士の背中がカメラの画面を塞いだと思ったら、扉を突き破ってクダイにぶつかって来た。

幸い、扉の直撃は防げた。


「い、いってぇ………」


クダイはゆっくり上半身を起こすと、隣で倒れている銀の鎧の騎士が腕を掴んで来た。


「ひ………ひぃ………」


情けない声を上げ必死に振り払おうとするが、ひんやりと冷たい鉄甲で強く掴まれ振りほどけない。


「は、離せよ!」


「く…………こ……これを………」


問いには答えず、黄金の剣を差し出して来た。


「この……ジャスティスソードで……………ケファノスを倒して……くれ………」


そう言い残すと、泡のような粒子に包まれ消えてしまった。


「い、いらないよ!!」


言う間もなく、気配を感じて頭を動かす。


「あ、あわわわわ………」


もう一人の騎士のオバケが立っていた。


「ここはどこだ」


「ひっ…………」


「答えろ。ここはどこだ」


クダイは生まれて初めて殺気というものを知った。答えても答えなくても殺される。間違いなく。


「腰抜けが………」


紫の鎧の騎士は剣を振りかぶる。

無意識にクダイは黄金の剣に手を伸ばす。


「くくくくく、来るなっ!」


「やめておけ。その剣は正義の名の下に使い手を不幸にする。見た目とは裏腹に残酷な性格をした狂剣だ」


仮面の奥から赤く光るものが二つ。瞳だろう。

クダイはずっしりと重い剣を引き寄せる。


「聞く耳はもたん……か」


もうクダイに用はないと判断、一気に自身の剣を振り下ろした。


「うわあああああっ!!」


クダイは叫びながら目をつむり、黄金の剣を力いっぱい引き上げる。

剣と剣が衝突した瞬間、稲妻が落ちたようなフラッシュが起きた。

耳鳴りのような音が鳴り、クダイの身体は熱くなる。


「うおっ………か……身体が!!」


紫の鎧の騎士が何か言ったが、クダイには聞き取る余裕はなく、やがて音が収まった。


「……………………。」


静けさがまた訪れ、クダイは目を開ける。

そこに”オバケ”の姿はなかった。


「…………ま……幻?」


とは思ったら、黄金の剣を握っている。そして………”オバケ”の声だけがする。


「幻なものか!クソッ!どうなってるんだ!」


わけもわからずクダイは辺りを見回すと、なんとカメラに付けていたアフロヘアの天使のストラップから声がしていた。


「う…嘘だろ……」


カメラを持ち上げ、まじまじとストラップを見つめる。


「小僧め………!まさかジャスティスソードを使うとは!」


間違いない。あの紫の鎧を纏った騎士の声だ。


「ぼ、僕知らないよ!」


夢中で抵抗しただけだ。難癖つけられても迷惑だ。


「だからやめろと言ったのだ!!」


にっこり微笑んだ天使からは、一向にがなり声がやむことはない。

真夜中の廃校。軽い好奇心が呼び寄せたものは得体の知らない亡霊。

これがクダイとケファノスの出会い。

長い冒険の始まりだった。


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