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第十六章 進行

「どう思います?」


質素な宿屋の一室。部屋にはダンタリオンとケファノス、クダイとオルマは町へと出ている。

前触れもなく発したのが悪かったのか、しばらくケファノスから返事が返って来なかった。

ただ、ダンタリオンも何をどう尋ねればいいのか頭を捻る。


「どう………とは?」


やっと返って来た返事は、意味を理解出来ないという返事だった。

いや、ケファノスはダンタリオンの言いたいことがわかっている。とぼけているのだ。

魔王ほどの者が、どんな顔でとぼけてるのか見てみたい気もする。


「クダイのことです。言わなければわかりませんか?」


「無眼の構えのことか?それともジャスティスソードのことか?」


二人の会話の成立に波紋を立てるほど、クダイのした事は大きい。


「両方です」


宿泊施設とは言え、クダイの世界のものとは違って二階建て。がやがやと町の賑わいが騒がしい。

一行は、あれからまだダバイン国にいる。行き先、やるべき事が見えずにいた。


「無眼の構えが偶然なのか、それともクダイ本来の天賊の才なのか、どちらだとお考えでしょう?ケファノス(あなた)の意見を聞きたい」


町の活気がうっとうしく、ダンタリオンは窓を閉めた。


「ひとつ忘れてる」


「はて?」


「ジャスティスソードがクダイを導いた可能性もある」


「ジャスティスソードが?」


「ヨウヘイと戦った時も、あの甲高い耳障りな音が鳴った。貴様も聞いたはずだ」


どちらかと言えば、脳に直接響く感じの音。言葉では説明出来ない感覚のみの不協和音。


「あの音が鳴った時、必ずジャスティスソードが力を解放している。クダイがジャスティスソードを自分の意志でそうしてるようには思えん。だとすると、ジャスティスソードがクダイに力を与えている可能性が高いだろう」


「ジャスティスソードに意志がある………そう言いたいのですか?」


「あくまで推論だ」


クダイが戦力になるのは心強いが、ジャスティスソードに謎がある限りいつも都合よく転がってくれるとは言えない。

ただでさえ課題は多いのだ。


「で、これからどうする気だ」


「ふぅむ………いろいろ問題がありますからねぇ。伯爵達を追っても、戦いにならないことを痛感してしまいましたから」


「魔法が効かなかったのか」


「そういうことです。魔法は私のもっとも自信のある”武器”です。それが通用しない以上、私も戦力外でしょう。ダバイン城のことも私達のせいになってるでしょうし、何か知恵はないでしょうか?」


お手上げだ。持っている資金も多くない。ケファノスは別としても、クダイとオルマと三人の旅にかかる費用を考えれば回り道はしたくない。


「無いことも無い」


「本当ですか?」


「ここから北に行ったところに、人間が亡者の森と呼ぶ場所がある」


「ええ、知ってます。死んだ人間の魂が集まると噂される森ですね」


「そこに行け」


「そこに何があるんです?」


「余の肉体を取り戻す方法、サン・ジェルマンに魔法が効かない理由、屍人のこと、そしてジャスティスソードの謎。全てを知ってるかもしれん者がいる」


ならもっと早く言ってほしい。自分は宛てにならないとか言ってたわりに、それなりの情報を持っているではないか。


「今更そんな情報を出すというのは………」


訳あり。そういうことだろう。


「行っても会ってくれる保証はない。会っても全てに答えをくれるとは限らない」


魔王が頼るくらいなのだから、”それなり”に信頼出来る相手なはず。


「明朝、ここを発ちましょう。ダバイン全土に城の崩壊が伝わる前に」


ダバイン国王殺害の罪を着せられる確率は高い。面倒なことになるその前に、ダバインを出る必要があった。










「おっ、これなんかいいんじゃないかい?」


オルマが鉄で出来た胸当てをクダイに着けてみる。


「お、重いよ」


「情けないこと言ってんじゃないの!防具は必需品だよ」


そうかもしれないが、ダンタリオンから預かった金は、保存の効く食べ物を買う金だ。こんなものを買って怒られないだろうか。


「心配いらないって。アイツは私には逆らわないから」


そう言って高笑いをする。

なんて女だ。と思いながらも、クダイ自身も逆らえない。


「よし!これもらうよ」


「まいど」


武器・防具を売るには似つかわしくない男の店員に金を渡す。


「確かに」


店先まで着いて来て、丁寧にお辞儀までしてくれた。

流行ってなさそうな店だったし、貴重なお客さんだったのかもしれない。


「さあてと、帰ろうか。大賢者様の夕飯が待ってるよ」


買い物を済ませた後の女の顔は満足感でいっぱいだ。

遥か彼方の目的地までも歩いて行けるんじゃないかと思ってしまう。


「ねぇ、オルマ」


「ん?なんだい?」


「こんなこと聞いていいのかわかんないけど、ダンタリオンやシャクスさんは賢者やら聖騎士になったのに、君は騎士とかにならなかったの?」


「なにさ、そんなことが気になるわけ?」


「気になるっていうか、剣の腕も凄いのにどうしてかなって」


答えずやり過ごすのも”手”なのだろうが、気分もいいし答えてやらないでもない。


「堅苦しいのが嫌いだって言ったろ。宮廷の厳しい規則に縛られて生きるなら、肩書も何にもいらないから自由でいたかった。それだけだよ」


「ふぅん」


「納得してないのかい?」


「そうじゃないけど」


ダンタリオン、そしてシャクス。二人のオルマを見る眼差しは、どこと無く優しくて、だけど淋しさも宿していた。


「あんまり女の子の秘密を暴くもんじゃないよ」


「どこに女の”子”がいるの?」


意識しないで言った皮肉に、オルマの反応のよさは見事だった。

クダイの頭を抱え、拳でこめかみをぐりぐりと痛めつける。


「い、い、痛いって!」


「さりげなく皮肉を言うなんて、なかなか根性あるじゃないか」


「やめてよ!」


「い〜や〜だ!」


どっから見ても恋人には見えないし、せいぜい姉と弟。

胸当ての重量のことなど、すぐにどっかに行ってしまった。

それもそのはず、自分の世界に帰ることさえ忘れてるのだから。

幸せなのだろうかと思いに更けることもなく、不幸なのだろうかと思いに更けることもない。

気がつけば、いつの間にか前に進むことだけを望んでいた。


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