第十三章 かつての勇士
「な、なんの真似だ!サン・ジェルマン!!」
ダバイン国王はサン・ジェルマンとヨウヘイを前に、騎士を引き連れ剣を向ける。
「なんの……?見てわかりませぬかな?私の優秀な弟子の力を試しているのです」
業火に包まれた城の中、涼しげに言った。
「ふざけるなっ!我が城をこのようにしてどういうつもりか聞いている!!」
「どうもこうも、今言った通りですが」
「裏切り者めっ!かつての同志が………時空の騎士の名が泣くぞ!」
ダバイン国王の怒号も虚しく響くだけ。
「なんだよ、仲間なのか?」
ヨウヘイがサン・ジェルマンに聞いた。
「まだこの地に秩序が無い時代、戦火にまみれていた頃に今世界を担う国王達と共に戦ったのだ」
「へぇ〜。誰と?」
エルガム国での手厚い歓迎、裏はあるとは思っていた。
「魔王ケファノス」
「それじゃサン・ジェルマンとこの世界の王様達は………」
「余を倒す為に戦った勇士だ」
以外な過去………なのかどうかは知らないまでも、クダイには唸るくらいの歴史だった。
「結局、勝敗は着かず、世界の一部分を魔族に譲り話がついた………でしたね」
ダンタリオンが知っているのは当たり前か。
「なんで一部分なわけ?」
「その話はまた今度だ」
クダイのいつもの疑問癖をケファノスは退けた。
「酷いわ………」
オルマの目に飛び込んで来たのは、何人も重なって串刺しにされた無惨な光景。明らかに悪意があっての仕業。
「これをヨウヘイがやったのか………」
直感がそう告げる。
クダイはジャスティスソードを叩きつけ、
「あんの野郎……何やってんだよ!」
人としてやってはならないこと。それさえ色褪せてしまうような悪行に、怒りを抑えられない。
「お前でも怒ることがあるのだな」
ケファノスは少しだけ感心した。怒りは力の原動力になる。その感情をクダイも人並みに持っているのだから上等だ。
「でもこの炎の中、どうやって進むんだ?」
ジャスティスソードなら炎を払うことも出来るのかもしれないが、クダイにはまだその手段が浮かばない。
「何言ってんだい?コイツがいるじゃないか」
オルマは親指を立て、くいっと緑色の髪の賢者様を指す。
「コイツ呼ばわりは勘弁して下さい」
青い光がダンタリオンの手の平から、自分とクダイとオルマを包む。
「これって……」
「クダイ(あなた)の見たがっていた魔法です。エスケープボディと言って、人が耐えられない環境から身を守る魔法です」
詳しく語られる必要はない。既に炎の熱を感じない。
「ケファノス(あなた)はどうします?」
「いらん。そのくらいの魔力ならある」
「そうですか。では……」
ダンタリオンは剣を抜いた。
「行こうか」
オルマも。
「ぬかるな。この魔気の強さからして、かなりの屍人を手にしている。油断すれば全滅は免れない」
ケファノスは警笛を鳴らし、エスケープボディを自身にかけた。
この緊張感が堪らない。人は元来、残酷な生き物。それを理性で抑制するからこそ快楽を覚えてしまう。
ヨウヘイは屍人の力に酔っていた。
「じゃ、とっとと殺っちまうか」
なんでも出来る。どんな願いも思いのままだ。
「待て」
「邪魔すんなって」
サン・ジェルマンが気がついたのはクダイ達の気配。
「友達が来たようだぞ」
「クダイが?」
城壁の向こうからやはり気配を感じる。
「ヘッ。ちょうどいいや、ちょっと遊んでやるか」
「少しだけならいいだろう。だがまだ完全ではない。調子に乗るな」
「わかってるって」
サン・ジェルマンはその場から消え、
「とりあえずお前らから片付けてやる」
ダバイン国王と騎士達はその姿を消された。
黒い霧に身体を燃やされ。
「早く来いよクダイ」
手に入れた力の大きさは、天さえ握れそうな気がしていた。