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第十二章 新しい仲間

三日かけてエルガム国からダバイン国に入った。これと言って景色に変化はなく、ダンタリオンが言わなければ国境を越えたことすらわからなかった。

更にダンタリオンの知人の住む町まで行けば、一段落つけると思っていたのだが、


「これは…………」


ダンタリオンですら言葉と笑みを失った。


「町が…………焼けてる………」


クダイが発した通りの光景。町が何者かに攻撃を喰らった後だろうか。そうでもなければ説明がつかないほど凄惨なものだった。


「サン・ジェルマンとヨウヘイだな」


町に入るのを躊躇う二人をよそに、ケファノスは一人焼け野原を進んで行く。


「なんでそんなことがわかるんだよ」


サン・ジェルマンはともかく、ヨウヘイがこんな酷いことをしたとは思いたくない。


「他にいまい」


クダイの疑問は疑問にはならない。この世界では人間と魔族が戦っていたのだ。しかしケファノス不在の魔族が人間を襲うとは、ケファノスには考えつかない。


「ケファノスがいなくなった魔族はどうなんだ?人間だってまだ魔族と戦ってんじゃないのか?」


反対の意見はクダイから。

問いにはダンタリオンが答えた。


「城で部下から聞きました。魔族は至っておとなしいそうです。人間側も今は様子見、イグノア様が死んだことが広まるまではね」


先を進む二人の背中に、


「こっちですよ」


正しい道を教える。

道もへったくれも無くはなっているが、記憶が道標になっている。何歩あるけばいいかとか、果ては教会脇のパブはぼったくるとか、観光案内をしたら金になるかもしれない。


「ねぇ、ダンタリオン。この町には誰がいるの?」


本当は走りたいのだろうが、クダイの体力を案じてそうしない。

知人が生きてるか確かめたいはずだ。


「ここには………」


ダンタリオンの足が止まった。

そこは普通の家。焼けてさえいなければ。

骨組みだけが残された残骸を見て、悲痛な表情を見せた。


「ここには、かつて私が愛した女性が住んでいました」


過去形。これだけ壊滅してれば、やはり死んでるだろう。

中を散策する。せめて遺体を葬ってやりたいと。


「活発な女性でした。剣の腕も中々のもので、あのシャクスでさえ一度負けてますから」


「す、すごい人だね……」


「ええ。とても優秀でした」


それだけ言うと、黙々と遺体を探す。

クダイもケファノスも、かけてやれる言葉を見つけられずにいた。


「ちょっと、人ん家で何やってんの!」


後ろから声がした。それも『人ん家』と言った。


「火事場の泥棒って本当にいるのね!」


そう言ってクダイの胸倉を掴んだ女性は視線の先に、


「あ、あんた…………ダンタリオン?」


背が高く、スタイルもいい。胸も豊かで髪を後ろで一本に結っている。


「オルマ………」


奇跡か偶然かは二人に決めてもらえばいい。ただひとつ言えるのは、


「生きてたんですね」


笑みが戻り、嬉しさのあまりダンタリオンはオルマに抱き着こうとした。


バシンッ!


見事な快音が鳴り響く。


「おやおや、相変わらず手厳しい」


「いきなり抱き着く方がいけないでしょ!」


クダイは目をパチクリとさせた。

愛した女性=元カノ。ではないらしい。


「ったく、変わらないねぇ……あんたも」


「あなたもですよ。相変わらず美しい」


わかった。何がわかったか。ダンタリオンは女性を前にすると調子が断然良くなる。クダイの母親に対してもそうだったが、褒めずにはいられないらしい。

ホッとしていいのか、呆れた方がいいのか。でもなぜか安心したのだけは確かだった。










「やはり伯爵とヨウヘイでしたか」


オルマから事情を聞き、町を焼いたのがサン・ジェルマンとヨウヘイであるとわかった。

ダンタリオンは考え込むように黙ってしまう。


「それにしても………」


そしてオルマは、クダイとケファノスを見る。


「ジャスティスソードを使える人間と、魔王…………ふ〜ん」


妙な組み合わせのコンビに興味があるようだ。

まあ、興味を持たせるまで説明するのは大変だった。

クダイはともかく、ケファノスの名を聞いた途端、剣を抜いて暴れ出す始末。ケファノスも逃げる気もなく、その態度がオルマの怒りに油を注いだ。

ダンタリオンがなんとか落ち着かせ事を収めたが、クダイは見た目と裏腹に気象の激しいオルマに警戒していた。


「まあ、あたしはダンタリオンを信じるよ。調子のいい奴だけど、嘘だけは言わないからね」


「そう言って頂けるとありがたいですね」


シャクスが先に来てたとしても、同じことを言ってくれただろう。だから頼ったのだ。


「よしっ!決めた!」


オルマは立ち上がり、


「あたしも一緒に行くよ」


「え?」


苦手なタイプだけにクダイは素直に喜べない。強気な女は馴染めないのが本音。


「なんだい?その顔は」


「い、いえ、別に……」


視線を逸らしたクダイに詰め寄り、


「あたいがいちゃなんか都合悪いわけ?」


「そ、そうじゃなくて………なんか巻き込んじゃあれかなぁ………なんて……ハハ……」


オルマはクダイの背中を平手で叩くと、


「なあんだ、気にしてくれてたのかい?気に入った!仲間としては文句ないね!」


気分を良くした。


「力を貸していただけるのですね?」


「当たり前じゃないか。自分の町をこんなにした奴を、許せるわけないからね」


ダンタリオンはオルマに手を差し出し、


「お世話かけます」


「遠慮は無しだかんね!あたしがそういう堅苦しいの嫌いなの知ってるだろ」


固く握手をした。

二人だけがわかる何かがあるのだろう。思い出とか、想いだとか。クダイにとっては憂鬱な存在になりそうだったが。

語らずにわかる友を持つまで、まだ人生の経験が足りな過ぎだということは、本人も承知している。


「ダンタリオン!!」


そんな雰囲気を壊すように、ケファノスが叫んだ。

理由を聞くまでもなかった。

遥か上空に煙が昇り、真っ赤な炎が見える。その方向は、


「城………」


オルマが言った。


「オルマとやら、サン・ジェルマンが来たのはいつだ?」


真剣な口調とは不釣り合いな姿をぷかぷかさせるケファノス。


「来たのは二日前だけど?」


「しくじったな。狙いは最初から城だ」


「どういう………」


「町をやったのはヨウヘイだな?」


「え?ええ、そうよ。黒い霧みたいなので………」


「ヨウヘイの力を試させたのだ。そして今度は、さしずめ試験でもさせてるんだろう」


サン・ジェルマンがヨウヘイを屍人かばねびとの”器”と呼んだ意味は理解出来ないが、”その能力”がヨウヘイにあるのなら、本来、屍人を集めるにはこの世界しかない。ここに来て四回、夜を過ごした。二日前なら二回。どれだけ屍人が集まったのか、それとも集まった屍人の量と力の大きさを計っているのか、あまりいい趣味ではなさそうだ。


「どっちにしても行くんだろ?」


「ほう。逃げ腰にならないのか?」


「ケファノス、皮肉はいい。こんなこと……やめさせなきゃ」


ヨウヘイのことになると、クダイも黙ってはいられない。

ヨウヘイに何があったのか、それを知りたい。


「持て」


クダイにジャスティスソードを渡す。


「ここから?重くて疲れちゃうよ」


「武器というのは、伝説だからとかは関係ない。どれだけ手に馴染んでいるかだ。優れた剣でも、手に馴染まないのでは不都合が多い」


回りくどい言い方だったかもしれない。


「触れていることだ。”それ”がお前を選んだのだ。戦いになれば、お前が頼るのは余でもダンタリオンでもない。ジャスティスソードだ」


「触れている……こと」


やっぱり重い。振るうには筋力が足りない。

でもしっかり握る。その姿は到底、様にならない。だから魔王は敢えて言う。


「クダイ……ジャスティスソードはお前の物だ」


疲れも癒えぬまま城へ走る。

新しい仲間を迎えて。


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