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第十章 連鎖

「うわあ〜、こりゃすごいや!」


小学生並の感想を素直に言った後は、


「そりゃあ!」


ふかふかのベッドへダイブを決める。そんなクダイの行動に、シャクスは少しムッとした顔を見せ、


「夕食まではまだ時間があります。間際になったら迎えに上がりますので、部屋でおとなしくしていて下さい」


まるで重ならないセリフを口にし、


「ねぇ!お城の中とか見ちゃダメ?」


まるで空気を読まないクダイの言葉に、さすがにキレかかったのだがダンタリオンに諭される。


「まあまあ。お城なんてそんな簡単に入れる場所ではありませんし」


ダンタリオンは、はしゃぐクダイに、


「クダイ、お城の中は後で私が案内しますから、少しだけ我慢して下さい」


いつもの1.5倍増しの微笑みで言った。


「わかった。じゃあここでおとなしくしてるよ」


それを聞くと、シャクスは軽く頭を下げ一応、客人への礼を尽くし部屋を後にした。


「では後ほど」


ダンタリオンもどこへやら行った。


「もう出て来てもいいんじゃない?」


特にケファノスを気遣ったわけじゃないが、意識のあるものが胸で黙ってられても気持ち悪い。


「行ったか」


「よかったね、魔王だってバレなくて。あ、後さ、王様がジャスティスソード見せろって言った時、すぐに出してくれて助かったよ。よくみんなに気付かれなかったよね。ま、一先ず安心かな」


「…………。」


「不満なの?」


「いや。ただ、なぜダンタリオンは余を庇ったのかと思ってな」


それは本人に直接聞いてもらうしかない。だが、魔族の”言い分”というものを聞いてしまったからではないかと、クダイはそう思った。

 あの晩、ケファノスはダンタリオンに言った、「地上を奪おうなどと思ったことは一度もない」と。そして、戦いを仕組んだのがサン・ジェルマンであるのなら、人間と魔族が戦う理由はない。きっとそう思ってのことだろうと。


「ダンタリオンが来たら聞けばいいよ」


「…………。」


サン・ジェルマンのことも、ダンタリオンはエルガム国王に何か聞こうとしていたようだが、躊躇い思い止まっていた。


「僕、少し寝るから。起こさないでよ」


ここ二、三日まともに寝ていない。その疲れもあり、クダイはすぐに寝息を立てた。


「…………。」


ケファノスは言い知れぬ予感、不安の先に、決してよくないことが起こると確信していた。










「久しぶりですねぇ。同じ主君に仕えていながら、あまり顔を合わせることがありませんしね。まあ、この広い城内ですから仕方ないんでしょうねぇ」


広大な敷地を眺め、ダンタリオンは無言のシャクスに得意の笑みを向けた。


「あの少年がジャスティスソードを使えるとは思えん。お前の勘違いじゃないのか」


伝説の剣を使える少年があれでは、”使いたい”と思っても使えない者達が浮かばれない。

災いの伝説さえなければ、実力のある者達が手にするだろう。

そうしないのは、イグノアのように自分を犠牲にしても目的が成就されるとは限らないからだ。


「あんなガキがジャスティスソードの使い手などと………」


「悪い癖ですよ、シャクス。伝説の剣とは言われてますが、数多くの戦士がジャスティスソードを使って来ました。結果はどうあれ、ジャスティスソードに奇跡を求めた者は、その身を滅ぼしていった。しかし、クダイはジャスティスソードに選ばれたのです。彼に頼るのではなく、彼と力を合わせて戦えばいいんです。それにですね、戦う相手はひょっとしたら魔族ではないかもしれませんよ?」


「なんだと?どういう意味だ」


ダンタリオンがサン・ジェルマンのことをエルガム国王には言わなかったのは、サン・ジェルマンがエルガム国王の友人であるからだ。

シャクスなら………まだ迷いはある。


「もしもの話をしましょう。もし、人間と魔族が争うことにより自分に都合のいい人物がいたら………どう思います?」


「どうって………心当たりがあるのか?」


ダンタリオンはお調子者ではあるが、的を射た発言しかしないのを知っている。


「深く考えないで下さい。もしもの話ですから」


二人には立場がある。ダンタリオンは賢者。シャクスは、


「聖騎士のあなたに言うことではありませんでした」


聖騎士の称号を得ている。旧知の仲でありながら、互いの立場がものを言いにくくしているは事実。

取り巻く環境がそうさせてしまう。


「あなたと話せてよかったですよ」


何も言わない方がいい。言い聞かせる自信がない。

クダイやケファノスともきちんと話してないのだ。サン・ジェルマンとヨウヘイのことを。

いずれにせよ、シャクスならわかってくれる。焦って事をし損じるよりは、多少の熟成も必要か。



その夜の夕食会は豪勢だった。国王ですら絶賛していたのだ、クダイにも自分が歓迎されているのが身に染みた。

自分の世界に帰ることすら忘れ夢中で食べまくった。

悦に浸れたのはそれまで。夕食会は終わり、やがて眠りについた。



「クダイ、起きろ」


「ん〜〜むにゃむにゃ……」


「クダイ」


「もう食べられないよ……」


「…………。」


真夜中。ケファノスは熟睡しているクダイを起こすのに苦戦していた。

もう何回声をかけたか。さすがに実力行使に出るしかない。

クダイの額目掛けておもいっきりぶつかってやった。


「イデッ!!」


がばっと起き上がり、


「何すんだよ!」


文句を言ってやった。この上ないくらい頭に来た。


「静かにしろ」


人の眠りを妨げておいてこの態度。魔王であっても許し難い。


「自分が起こしといてなんだよ!」


またぶつかってやる。


「ぐわっ!」


「黙れと言ってるのだ」


ふてぶてしい。これで起こした理由が”トイレ”だったら殺意を覚えるが決定した。


「いったぁ……なんだよ、せっかく気持ちよく寝てたのに」


よく出来たベッドだった。クダイの部屋のものとは全然違う。

”寝る”ことが前提ではなく、”眠らせる”ことが前提なくらい心地いいベッド。”売る”ことが目的のパイプベッドなど、相手にならない。


「剣を取れ」


ジャスティスソードがクダイの前に置かれる。


「なんかあったの?」


剣を取れと言うからにはただ事ではない。それにしてもなぜ真夜中なのか。ここ最近、夜がやたらと忙しい。


「やられたな」


ケファノスはじっと扉を見つめる。


「な、何?何?」


あたふたとしてると、扉が勢いよく開いて騎士が何人か入って来る。


「動くな!」


電気のない世界だ。照らすものはキャンドル。


「魔王ケファノス、出て来い!」


予測してたのか、躊躇いもなく騎士達の前に出て行く。


「お、お前が魔王?」


恐怖も威厳もない姿。小さいし。せめてそれらしい姿であってほしかった。


「我々が来ることを知っていたようだな」


すんなり事が運んでるような気がしていた。


「バカめ!城を乗っとれると思ったのか!」


誰かに吹聴されたのだ。クダイはジャスティスソードを構えて歩み寄る。

騎士達は咄嗟に後ろへ下がる。

それを見計らい、ケファノスが騎士達を魔法で撹乱した。


「クダイ、今だ!逃げるぞ!」


「わわ、待ってよ!」


部屋を飛び出し廊下に出ると、


「逃げられると思ったか」


「シャクスさん!」


シャクスが部下を連れて立っていた。


「そんな姿で俺達を騙そうとは。魔王も堕ちたな。それとクダイ、お前のような奴にジャスティスソードを使わせるわけにはいかん。引っ捕らえろ!」


シャクスの命令に即座に襲い掛かって来る。


「うわあああ!」


なりふり構わずジャスティスソードを振り回す。目をつむって。

ジャスティスソードを警戒し過ぎて誰ひとりクダイに近づけない。先入観というのは無いにこした方がいいのかもしれない。


「クダイ、走れ!」


「え?」


ケファノスに言われて目を開けた時、激しい光が放たれシャクス達の目を眩ませた。

怯んだ隙を突いて逃げる。


「な、何をやってる!追え!!」


遠ざかるクダイの背中を見てシャクスが怒鳴る。

手の平ほどもない身体から、これほど強い魔法を放つとは思わなかった。目を眩ませるだけが目的でなければ、全員死んでいた。

騎士達がリズムよく鎧を鳴らし駆けて行く。


「おのれケファノス………」


シャクスは反対方向へ走り、先回りを試みる。










「な、なんなんだ一体………」


運よく城の中庭までは来れた。


「ダンタリオンが密告でもしたんだろう」


「裏切ったってこと!?」


「元から仲間でもなんでもない。当然と言えば当然の流れだ」


だがケファノスの声色には心なしか、淋しげにも取れた。


「そんな………信じてたのに」


悪い奴じゃない。見るからに。それだけにショックは大きい。

追い討ちをかけるように、シャクスが暗闇から浮き出る。


「何を信じてたって?」


剣が鞘に擦れる音がした。幾度もそうして来たのだろう。慣れたように最後は勢いをつけて抜いた。


「……もはやこれまでか」


ケファノスはクダイに戦うようにせがもうと思ったが、シャクス相手ではどうにもならないだろうと諦めてしまった。


「ジャスティスソードは返してもらう。それは使えるべき者が使うべき剣だからな」


剣が振り上げられた。


「嫌だ」


「ほう。まさか殺り合う気ではなかろうな」


ジャスティスソードをシャクスに向ける。


「クダイ………」


意外な行動に、ケファノスは目を疑うしかなかった。

しかし、クダイにも言い分はある。ケファノスの肉体を取り戻すには、ジャスティスソードは不可欠なのだ。会って日の浅い二人でも、他人に命を奪われる言われはない。仲間かどうかはさておき、むざむざ殺されるわけにはいかないのだ。


「僕達は何もしてない!それに、ジャスティスソードはケファノスにとっては必要なんだ!絶対に渡さないぞ!」


小刻みに振動するクダイの手は勇気と呼ぶ。


「やれるものならやってみろ」


振り上げた手に力を入れる。真っ二つに斬りつけてやろうと。


「待ちなさい」


シャクスの殺気を断つように、ダンタリオンが邪魔をした。

鎧は着てない。白いマントと、私服らしき地味な格好。


「クダイに手を下すのなら、私が容赦しません」


剣を抜き、クダイの前に立つ。

心臓を刺されても、退く気はない。


「反逆罪に問われるぞ」


「シャクス、昼間私が言ったこと、サン・ジェルマン伯爵は全ての時間軸を融合させ時間に終わりをもたらすつもりなのです。どのような方法かはわからないのですが、確かに私達にそう言いました。こんな事をしてる場合ではないんです」


「ほざけ。伯爵から聞いたぞ、ケファノスと結託して地上を支配する気だと」


「やっぱり来たんですね。伯爵が」


「ダンタリオン、今なら庇ってやれる。剣を収めろ」


「お断りします」


「ダンタリオン!」


「例え親友であっても、正義の無い行いに加担することは出来ません」


きっぱりと言い放つ。

共に国の為に歩んで来た。でもそれは国に正義があるから。サン・ジェルマンに言いくるめられてしまう国では、いつか必ず滅ぶ。

時期ではないのだ。シャクスに言っても今はわかってもらえない。


「ダンタリオン、騎士達が来るぞ」


ケファノスはここでの戦いに賛成はしない。早く逃げうせるのが得策だろう。


「わかりました。二人共、私に着いて来て下さい」


二歩、三歩と下がり駆ける。

クダイとケファノスも、シャクスを警戒しながらも続く。


「待て!本気で逃げる気か!」


逃げれば追わなければならなくなる。どこまでも。その先には死のみ。

ダンタリオンは立ち止まりはしたが、


「逃げるわけではありません。真実を証明する為に行くのですよ」


振り返らなかった。


「何が起きてるんだ………」


確証の無いことは言わない、ダンタリオンが貫いた意志。

それは余韻を残す。幻を目の当たりにしたような感覚、不可解な謎を解き明かすように。


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