第九十四章 JUSTICE SWORD
「クダイは召喚される運命だったんでしょう」
ヨウヘイがクダイ達に説いていたように、ダンタリオンはケファノスとカイムに説いた。
たまたまそこにクダイがいたから。そんな単純な理由ではないと言う。人々はジャスティスソードを使える騎士を欲しがったのだと言う。
そして、ヨウヘイもクダイに言っていたように、本来、人々の希望となるのは羽竜だったと。
「だけどやっぱり解んねー。サン・ジェルマンはわざわざ敵に回ったってことかよ?お前の目的も最初からサン・ジェルマンと同じだったのか?」
「“彼”は、人々の希望が具現化したもの。役目を果たし、行き場を失った結果、今一度、人々から必要とされたかったのかもしれません。私の目的がどうであるかは………いちいち話草にする気はありませんよ」
本音は結局解らず仕舞いだが、サン・ジェルマンの心の奥には、そんな感情があったとしても不思議ではない。
カイムにそんなサン・ジェルマンの心情を読み取ることなは出来ない。いかなる理由があったとしても、許されることではない。
「………で、お前はこれからどうするつもりだ?先にも言ったが、羽竜はもう居ない。不死鳥の命を断つことが必要だったようだが、叶わぬ願いになった。そして、バランスブレーカー。もう負けは決まっている」
「フッ……フフ………確かに、羽竜が居なければ私の望みは叶わない。しかし、“これ”でこの世界を崩壊させることは出来る」
腰に手を回し、バランスブレーカーを手に取り、ケファノスとカイムに見せる。自慢げにだ。
「バランスブレーカー………!!なぜお前が!」
「こんなこともあろうかと、シスターから拝借して来たのですよ。返す気はありませんけどね。ケファノス、あなたが幻影燈で私を欺いたのは見事でした。ですが、大切なものは常に近くに置いておくべきでしたね」
「世界を崩壊させれば、お前も死ぬ。ただの大規模な心中にしかならんぞ」
「あなたも意外に物分かりが悪いですねぇ。世界を残せば、また人々を脅かす者が現れ、また人々は救世主を願う。その繰り返しに終止符を打つのですよ。三十年前、あなたが人々を脅かし、サン・ジェルマンに負けたように、何度も同じことが繰り返されるのです。そんな粗悪な世界など、崩壊してしまった方がいい!」
「オルマさえ殺すのか?愛しているはずだ!」
「一人の女の為に、信念を曲げることは出来ませんよ!」
「失望したぞダンタリオン。実力がありながら、常に裏方に徹することが出来たお前は、誰より頼りになる奴だった。それが………全て芝居だったとは」
「黙りなさいケファノス!一度きりの正義を貫くのなら、私は鬼にでもなる!そう決めて生きて来た!命を懸け、仲間を失い、傷つき、肉体を蝕みながら平和を取り戻したとしても、一時の英雄!人々の記憶にすら残れなくなる。それが解らないあなたではないはずだ!人々の願う平和こそ幻想!幻想の為に幻想を生み、翻弄されていくのが英雄の末路!私は認めない!人が平和になることなど!」
バランスブレーカーを除く四つの時間構築魔法具が、ダンタリオンの前でひとつになる。
球体の中で渦を巻く、エネルギーの塊。それを握り、バランスブレーカーを突き立てる。
「終わりだ!望んだ結果とは違ってしまったが、これで世界は崩壊する!!」
ダンタリオンがバランスブレーカーを振り上げ、球体に突き刺した。
「なんだ!?なんだ!?なんだぁ!?口ほどにもないなあ、クダイよ!ほらほらほらほらっ!!」
ダークエネルギーを惜しみ無く飛ばしてくれる。ほとんどをジャスティスソードで弾き、ダメージを受けないでいるが、
「クダイ!どうして攻撃しないのぉ!?」
「シメリーの言う通りよ!どうして………」
攻撃に転じれば、クダイを優位に立たせることが出来る。そのくらいの魔法ならスキルにある。
もし、ヨウヘイを倒すことに躊躇いがあるのなら………
「なんだよ、攻めて来いよっ!つまんねーだろ!?お前と戦うの、ずっと楽しみにしてたんだぜ!」
「ヨウヘイ…………」
「チッ。お前ってそういう奴だよな!煮え切らないってか、優柔不断ってか………まあ、どっちもおんなじか。しゃあねー、これで終わりだ!女と一緒にあの世へ行きなっ!」
重苦しい音を立て、ヨウヘイはダークエネルギーを収束させ、クダイに向けて放った。
「死ねぇぇぇッ!!!!!」
「死ぬのはお前だ!ヨウヘイ!!」
クダイは瞳を閉じ、光の軌跡を読む。
迫り来るダークエネルギーを、シトリーとシメリーがシールドを張り防ごうと試みたが、あっさり突破される。が、しかし、すぐさまクダイがジャスティスソードで縦に裂いた。
綺麗に真っ二つになったダークエネルギーは、本来の軌道を反れ、クダイ達を避けて爆発した。
その間、クダイの前には無防備なヨウヘイが晒された。
きっちり、光の軌跡が描く道を走る。
「う………うあぁぁっ!!」
一秒も満たないうちに目の前に現れたクダイに、ヨウヘイは怯えた。
「お前なんか………」
「ま、待て!クダイ!俺達………友………」
「お前なんか消えちまえ!!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!」
黄金の刃はヨウヘイの心臓を貫いて、クダイの望みを叶えるように、ヨウヘイの肉体を消し飛ばした。
「僕には、正義を貫く責任がある!」
召喚された身であろうと、そうでなかろうと、手にする剣には“正義”が刻まれている。
誰も振るえなかった“正義”。
その重さが、クダイを成長させて来た。
“正義”の名の下、故に“正義”を貫くのはクダイか、ジャスティスソードか。
たくましく成長したクダイの背中に、もう人の気配は無かった。