表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/110

第九十三章 終末幻想 〜後編〜

「なんて強い魔力に包まれてるわけ!?私とシメリーの魔力をぶつけても壊せないなんて!」


ヨウヘイを包む強い魔力の球。シトリーとシメリーの魔法さえ弾いてしまう。

魔法のことはよく解らないが、シトリーとシメリーはサン・ジェルマンが利用としたほどだ、その二人が壊せないと言うのだからよほどのものなのだろう。


「二人共、どいて」


クダイはジャスティスソードを構え、自らの力で試みることにする。中のヨウヘイを傷つけないようにそれが可能かは確実ではないが、このまま放っておくわけにもいかない。


「うおおおっ!!」


助走をつけ、なるべく高く跳ね上がり、振り上げたジャスティスソードを魔力の球に叩き付けた。

バチバチと音を立て、放電が始まる。放魔力とでも言った方が正しいかもしれない。


「くうっ……」


その威力は凄まじく、クダイの腕に電気マッサージでもしてるかのように刺激を与え、わずか数秒で断念せざるを得なかった。


「クダイ!」


駆け寄るシトリーとシメリーは、治癒魔法で回復させる。どこを?それはクダイの腕。急激な力で紫色に変色していたのだ。おそらくは内出血。毛細血管が耐えられない刺激だったということだ。


「ありがとう。大丈夫だから」


今一度ジャスティスソードを構える。


「今度は本気で行く!」


そう宣言した時だ、


「勘弁してほしいな」


声が辺りに響いた。声の主は、


「ヨ……ヨウヘイ?」


間違いない。聞き覚えは充分にある声だ。


「お前の腕じゃあ、俺ごと真っ二つにされかねねーからな。大体お前、器用じゃねーだろ。昔っから」


クダイ達がヨウヘイを見ると、魔力の球の中からこっちを見ている。

魔力の球はヨウヘイの身体に纏わり付き、裸だった彼に薄気味悪い鎧となり形を変えた。

空中に浮いてたヨウヘイは、“慣れた”ように着地する。


「久しぶりだな。クダイ。輪廻の塔ぶりか?随分“らしく”なったじゃないか」


聖騎士の鎧姿のクダイは、ヨウヘイにはどう映ったのか。本音の称賛と取れない言動でもないが、冷やかしにも取れる。はたまた、強い力を手にした自信だという考えも入れておくべきだろう。

悪意に満ちた顔がそう言ってるのだ。

悪い予感がする。そう、戦いを避けられない予感。幾度と感じて来た直感は、信頼度の高い演出だ。


「どうしたよ?そんな顔して。かわい子ちゃん二人も連れてるんだ、もっと堂々としろよ………ってのも無理かあ?女と手ぇ繋いだこともねーんだもんなあ」


饒舌なヨウヘイは、ニヤつくばかり。


「………てっきり意識が無いのかと思ってたよ」


一方クダイは、この展開が決して自分に好都合なものでないと解っていた。


「ずっと見てた。この前、お前がそこのエルフの女を助けに来た時もな」


「サン・ジェルマンに利用されて、もう助からないんじゃないかって、心配して損したよ。元気そうだもんな」


「ハハハッ!俺はいつでも元気だぜ」


「………ならいいさ。そんなことより、もうサン・ジェルマンの言う時間軸の融合は不可能になった。不死鳥である羽竜が、この世界から居なくなったからね。お前もサン・ジェルマンから解放されるんだよ」


「くくく」


「何がおかしいんだよ」


「解放されるも何も、サン・ジェルマンなんて最初から存在しねーよ」


「な…………………なんだってッ!?」


クダイが叫ぶと、シトリーとシメリーも顔を見合わせヨウヘイの言葉に耳を疑った。


「動揺させようったってそうはいかないぞ!」


「んなつもりねーって」


「お前、時々嘘つくから。信用出来ないね」


信用出来ないのではなく、信じたくないのだ。クダイは自分でも解っている。ヨウヘイが嘘つくことがあっても、こんなところでつまらない嘘を言うことはしない。


「おい、クダイ。そりゃ言い過ぎだろ!俺は嘘じゃなくてジョークを言うのが好きなんだよ」


ふうっ、と溜め息をつくと、


「いいぜ。教えてやるよ、真実ってヤツを」










「なんの冗談だそりゃ?ダンタリオン、この場面でそいつはちっと笑えねーよ。そうだろ、ケファノス?」


そう言って見たケファノス自身が言い出しっぺなのだ。

表情険しく、突き抜けるような視線でダンタリオンを見ている。

カイムとて、ダンタリオンもケファノスも冗談を言ってるとは欠片も思わないが、これまで苦楽を共有して来た仲間が、倒すべき宿敵だとは思いたくない。それならば、詳細に説明、もしくは言い訳とやらを聞かねばならない。


「くそっ!………マジなのかよ!」


ダンタリオンのいつものニヤつく顔が、今は悪巧みを隠そうともしない悪党にしか見えない。


「お話しますとも。………ですが、正確には私が伯爵そのものであるかは否定させてもらいます。長々と説明を重ねる気はありませんので」


「お前がサン・ジェルマンじゃないなら、サン・ジェルマン自身はどこに行ったんだ!?」


「カイム、そう大きな声を出さないで下さい。………伯爵は、そもそも生物として存在してるわけではありません。短絡的に言えば、伯爵は人間だとか、魔族とか言った存在ではなく、人々の幻想が生み出した霊的存在です」


「な………なんだよ……その霊的存在って……」


あまりに理解するに遠い事実。ダンタリオンが言ってることが正しいならばだ。


「バカバカしい。サン・ジェルマンが幻想だと?奴は確かに居たではないか。会話もした。なにより、奴自身が思考を持ち行動していた。お前がサン・ジェルマンであると言うのならまだ納得もいくが、単なる霊的存在で済まされるのは、少々受け入れ難い話だ」


それはケファノスも同じで、意思を持って動いていて、かつ、会話も成立していた者が、幻想だか霊だか知らないが、にわかに信じるわけにはいかない。

だが、そんなケファノスとカイムを裏切るように、


「しかし真実です。三十年前、この世界の人々は、あなたがた魔族との戦争に苦しんでいました。世界は終わる。そんな絶望が渦巻く中、一方ではきっと誰かが世界を救ってくれると信じていた。それは強く、不変の希望。やがて、人々の想いは形になって現れる。それがあなたがたが追って来たサン・ジェルマン伯爵です」


ダンタリオンは台本でも読んでいるように淡々と話した。


「サン・ジェルマンは時間を旅していると言っていた。つまり、奴には過去があり、それは生い立ちがあるということではないか。人々が願っただけで存在が生まれたと言うのなら、何の為にサン・ジェルマンに過去が存在するのだ?」


答えてみろと言わんばかりに、ケファノスはただす。

ダンタリオンはと言うと、怯むことなく真っ向からケファノスに立ち向かう。


「伯爵自身、自分が突拍子もなく人々の願いから生まれた存在などと思ってないからですよ」


「百歩譲ってお前の言う通りだとして、サン・ジェルマンは今どこにいる?」


「伯爵なら………」


ダンタリオンは時間構築魔法具ツールのひとつである時の聖杯を手元に寄せ、


「ここに」


ブランデーグラスほどしかない聖杯の中に、卓球のボールほどの黒い球体がある。

傾けたグラスの中で、静かに佇んでいる。


「伯爵の正体は人々の幻想。人の見る幻想、願いとは、こうも黒いものなのですよ」


嬉しそうに話すダンタリオンは、もはや知った仲間ではなかった。


「ま、待ってくれよ、根本的な問題はどうなるんだ?」


カイムがケファノスとダンタリオンの顔を交互に見る。一番不可解な問題があるじゃないかと。


「根本的な問題………とは?」


しらばっくれてるのかどうかは解らないが、ダンタリオンはそう答えた。


「一度は世界を救ったサン・ジェルマンが、なんで時間軸の融合だとかたくらんだんだ?自分が救った世界を無くす必要なんてないだろ?」


「フフ……そのことですか」










「サン・ジェルマンは英雄と讃えられたが、月日が経つにつれ、人々の中では単なる思い出くらいにしかならなくなった。つまりだな、存在理由が無くったってことだ」


ヨウヘイは得意げに語った。


「じゃあ何か?存在理由を作る為、それだけの為にサン・ジェルマンは………」


「ああ。そうだ」


クダイはあまりに馬鹿げた理由にイラつき、下唇を噛んだ。


「だけどな、クダイ。予想外のことが起きたんだよ」


「…………?」


「お前さ。ジャスティスソードはサン・ジェルマンにも使えなかった。なのにだ、お前には使えてしまった。そして、世界を案じた人々はお前を召喚した」


「そんな………僕はケファノスとダンタリオンに無理矢理連れて来られたんだ!」


「召喚される時の裏側なんてそんなもんだろ。もっと言えば、召喚されたのは不死鳥の方かもしれない。お前は………クダイ、“ジャスティスソードを使える者がいれば”って、願う人々が召喚した条件付きの召喚人さ」


「だから僕だけがジャスティスソードを使えるってのか」


「まあ、その辺の仕組みっていうか、事情はダンタリオンが詳しいと思うぜ」


「え………ダンタリオン?」


「ああ。お前らの仲間の賢者様だよ」


嫌みったらしくニヤけ、


「元は、あいつが幻想たるサン・ジェルマンを利用し始めたんだ」


あまりのショックにクダイは何て言えばいいか解らないでいる。


「ハハ!いい顔してんなあ。裏切られたって顔だ。まあ、騙される方が悪いんだけどな」


「なんで………ダンタリオンが………?だって、あの廃校で、ダンタリオンはサン・ジェルマンと戦って………」


「サン・ジェルマン自身は利用されてるなんて思ってねーよ。ダンタリオンは上手く演じて来ただけさ」


「ふざけんなっ!それじゃあ何か?お前とダンタリオンは最初から手を組んでたのか!?」


「………ああ」


「う…嘘だ!」


「嘘じゃねーって。なんなら聞いてみろよ、本人に」


「…………ひとつ聞かせてくれないか?」


「ん?なんだよ?」


「………お前の目的はなんだよ?屍人かばねびとを集めるだけの為にダンタリオンと手を組んでたわけじゃないだろ?」


「フッ。まあな。最初はわけもわからなく巻き込まれたけど………俺は俺でダンタリオンを利用してたんだよ。俺は、時間に点在する全ての世界を統べる王となる!」


「………救いようが無いって、お前のこと言うんだろうな」


「何っ?」


「ヨウヘイ、お前がどんな力を持ってるか解んないけどさ………」


長い会話の末、クダイは決心した。


「お前なんてたいして強くないと思うよ」


「………クダイッ!」


「助けようなんて考えた俺がバカだった。お前は、ここで倒されるべきなんだ。………僕に!」


こんなに腹の立つこともない。何に腹が立つって、全部だ。………クダイは自問自答した。

シトリーとシメリーも“準備”をする。全面的にサポートするつもりだ。


「お前に倒される?笑わせんなって。ジャスティスソードが使えるくらいだろ、せいぜい」


「黙れよ!僕の大切な仲間の住む世界だ、お前なんかに汚されてたまるか!」


もう、友人などとは呼べない。

真実がどうあれ、正しいと思える道を。

問い質すは、世界を脅かす愚かな友人か。それとも、都合のいいことばかりを願う人々か。

その審判は、クダイの手に委ねられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ