第九十三章 終末幻想 〜中編〜
サン・ジェルマンを追ったケファノスが来た場所は、かつてイグノアと対峙した魔王城の地下深く。ずっと真下にマグマがうごめき、それでも熱気が狂ったように蔓延る。
「出て来い、サン・ジェルマン。貴様の気配は感知している。隠れても無駄だ。」
眼前には、ケファノスが座していた大きな玉座。その後ろは崖。逃げ道はもうない。
ケファノスの呼び掛けに呼応するように、後ろに人の気配を感じた。
「…………カイム!」
それは、カイムだった。
カイムはじっとケファノスを見たまま、一歩一歩、確実に歩いて来る。警戒しているようにも見える。
「なぜお前がここにいる?」
ケファノスは腰のダーインスレイヴに手を掛ける。
「答えろ!カイム!」
カイムはダーインスレイヴが届くか届かないかというところで止まる。
「なぜって………お前が走って行くのが見えたから追い掛けて来たんだよ」
今度は、ケファノスがカイムをじっと見つめる。
「サン・ジェルマンはどうしたよ?」
何も話さないのも空気が悪いので、単刀直入に疑問をぶつけた。
「そのサン・ジェルマンを追ってここに来たのだ」
だが、サン・ジェルマンの気配が消えた。カイムが現れてから。
「で、いたのか?」
「………いいや」
「逃げられたって言うんじゃないだろうな?ここまで来て、そりゃ勘弁だぜ?」
「ここから逃げることは不可能だ」
ダーインスレイヴを鞘から抜き、切っ先をカイムに向ける。
「お、おい…!なんの真似だ!」
カイムもまた、手を後ろに回しサルンガを手にする。
そんな一触即発を見定めたところへ、
「観念なさい、カイム」
ダンタリオンも現れた。
「ダ……ダンタリオン!なんだよ、観念しろって!」
観念しなければならないことなんて、何もない。
「ケファノスは、あなたが伯爵でないかと疑っているのですよ。そうですね?ケファノス」
ケファノスは何も言わないが、そういうことなのだろう。
「ま、待てよ!なんで俺が!」
「往生際が悪いですよ。もはやあなたに勝機はない。バランスブレーカーもなく、羽竜もこの世界から居なくなってしまった。負けを認めなさい」
「か、勘弁してくれよ!俺は俺だって!」
ダンタリオンがケファノス同様、鞘から剣を抜く。
「待て」
「どうしました、ケファノス?カイムが伯爵なら、すぐにでも始末しなければなりません」
「そうだな。カイムが伯爵だったらの話だ」
「………………。」
「ダンタリオン、ひとつ答えてくれぬか?」
「はい。なんでしょう?」
「羽竜が居なくなったことを、どうしてお前が知っている?」
「……………フッ。何を……こんなときに揚げ足取りをするおつもりですか?」
「羽竜が居なくなったことは、余の他にクダイとシトリーしかおらぬ。城の外で戦っていたお前達が知ることは出来ぬはずだ」
ダンタリオンは眉ひとつ動かさず、しばし黙っていたが、
「フッ……クク………………………アッハハハハ!!」
突然、吹き出した。
「やれやれ。私もつまらないミスを犯してしまいましたね。カイムが現れたのは、好都合だったというのに」
何がなんだか解らない様子のカイムだが、自分が利用されかかっていたことくらいは察しがつく。
そして、ケファノスは言った。
「まさかとは思うが、ダンタリオン、お前がサン・ジェルマンだなどと言わんだろうな?」
「フン。もう隠す必要もないようですね」
ダンタリオンの周りに、サン・ジェルマンが持って逃げたはずの時間構築魔法具が現れる。
「ええ、そうです。私がサン・ジェルマン伯爵です」
緑色の髪を掻き上げ、名だたる賢者は宿敵の名を堂々と語った。