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第九十二章 不死鳥と悪魔

すぐにでも“敵”が来ることは予測出来ていた。気配を殺すこともせず、来たる敵に備えているわけでもない。

ヨウヘイは魔力の球体の中。そして、シトリーと間違われさらわれて来たシメリーは、


「バカ!アホ!変態!ろくでなしの人で無し!」


魔力の鎖でその身を拘束されながらも、自由を許された口だけはマシンガンのように罵声を発していた。

相手はもちろんサン・ジェルマン伯爵。


「迂闊だった………まさかこんなミスを侵すとは」


双子とは言え、シトリーとは性格の違うシメリーは、こんな状況でも自分のペースを崩さない。


「フ〜ンだっ!シトリーと私が双子だなんて知らなかったんでしょ!ア〜ホア〜〜〜〜ホ!」


「くっ………」


冷静な紳士を演じるのも苦しくなる。


「なんとか言ってみろ!ベ〜〜〜〜〜〜〜だっ!」


舌を出し、王族らしくない顔で盾突く。徹底交戦の構えだ。


「ええいっ!うるさいっ!」


「キャアッ!」


魔力の鎖に電流を流し黙らせる。自分の失態の怒りをもぶつけるように。


「………いささか予定とは違うが、同じエルフの王族であることに変わりはない。そう、何も変わらん」


一瞬の怒りを抑え、冷静になれよと言わんばかりに言い聞かせる。

後はバランスブレーカーと羽竜の命。そう考えていると、


「予定は変更してもらおうか」


羽竜が単身、やって来た。


「おお………不死鳥!」


「は………羽竜!!」


サン・ジェルマンの声を掻き消すようにシメリーが叫んだ。

どこにその体力があるのか感心してしまう。


「一人で来るとは………仲間はどうした?」


シメリーを無視して、サン・ジェルマンは羽竜に歩み寄る。


「………入り用だよ」


「フッ…フフ……入り用か。私のところにわざわざお前を寄越すとは、運はまだ私に味方しているようだ」


「俺の命が欲しいんだってな」


「不死鳥の持つエネルギーは、輪廻をもたらす。時間そのものを終わらせるには、輪廻が存在しては困るのだよ」


「なるほど」


羽竜は手を振るい、トランスミグレーションを具現化した。


「なら俺からも一言言わせてもらう」


「………聞こう」


「“三十年前、魔族との戦争を一度は終わらせたお前が、なぜ今になってこんなことをする?”」


「何を言うのかと思えば………人は“幻想”を抱かずにはいられない。その“幻想”に終わらせてやろうと言うのだよ。それだけだ」


「幻想?」


「説明してやってもいいが………それはお前の仲間にしてやることにしよう!」


光の矢が無数に現れ、一斉に羽竜を攻撃する。

そのひとつひとつを、トランスミグレーションで掃い、高く跳んでサン・ジェルマンの後ろを取る。


「もらった!」


トランスミグレーションで真横に裂いたサン・ジェルマンからは、ただ黒い煙が吹き出るだけだった。


「ハッハッハッ!無駄だよ。私は無敵だ。剣も、魔法も受け付けない。………だが、お前さんはどうかな!!」


上半身だけが振り返り、わずかな距離から羽竜に剣を振るう。


「時空剣!!」


刃から魔力が放たれ、羽竜は壁に激突した。


「羽竜!!」


シメリーの声を、今度はサン・ジェルマンが掻き消す。


「ハーッハッハッハッハ!!他愛もない!果敢に挑んで来るのは結構だが、私は無敵だ!無駄だと言ったばかりだろう!」


片膝を着いていた羽竜は、ゆっくり立ち上がりながら、


「だったらなぜ輪廻の塔で逃げたんだ」


「………なに?」


「その自負があるのなら、いつでも俺達を倒せたはずだ。そうしなかったのは、無敵を装う時の秘法にも、欠陥があるからだろう?………サン・ジェルマン」


「………貴様……誰だ!」


羽竜の口調が………変わった。落ち着き払う口調に。

 羽竜は立ち上がり、サン・ジェルマンを睨み据えながら、剥ぎ取るような仕草でおもいきりその姿を引き剥がした。


「おお………お……お前は………!!」


「貴様の野望が達成されることは二度とない。年貢の納め時だ、サン・ジェルマン」


羽竜の姿が一変、そこに立つのは、


「ケ………ケファノスッ!!」


魔王ケファノスだった。


「憐れな男よ。運はとっくに貴様を見放している」










「なんでだよ?!俺が邪魔なのか?!」


いきり立つ羽竜は、ケファノスに突っ掛かる。


「そうではない。お前の強さは正直、欲しいところだ」


「じゃ、じゃあなんでヴァルゼ・アークを追えなんて言うんだ!」


納得出来なかった。ここまで来て、サン・ジェルマンを目前にして離脱なんてしたくない。


「俺がいなくなれば、サン・ジェルマンの目的は崩れる。だからだろ?それならはっきりそう言ってくれ。迷惑なんだって」


「違う。そうではない」


「何が違うんだ!」


「羽竜。これはさっきクダイと話した結論なんだ」


「………そっか。何を話してたのかと思えば……」


「お前はヴァルゼ・アークを追ってこの世界にやって来た。奴がいなくなった今、ここにとどまる理由はないはずだ」


「だから、最後まで俺も手を貸すって」


「クダイはな、お前の気持ちを優先させたいと言ったのだ」


「俺の……?」


「お前と奴には不思議な絆がある。それはきっと、永い戦いの末に築かれたもの。その絆が、ヴァルゼ・アークを求めている………違うか?羽竜」


そう言われてしまえば否定は出来ない。解ってはいたことだ。

ヴァルゼ・アークの顔を見れば、どこか安心さえ覚えてしまう。倒すべき相手でありながら。

次の世界に行くと言われた時、すぐにでも追いたかった。あの背中をずっと追ってるのだから。


「クダイはお前と出会い変わった。我々には出来なかったことをしてくれた。もう、充分だ。後は余とクダイでなんとかする」


「………いいのかよ?」


ケファノスは小さく頷き、


「行け。お前にはお前のやるべきことがあるはずだ」


「………わかった」


羽竜は六枚の炎翼を広げ、衝撃波で壁に穴を開ける。

空が見え、まだ微かにヴァルゼ・アークの気配を感じ取れた。

待ってるのかもしれない。自分が行くのを。

羽竜は穴まで歩いて、


「絶対……勝てよな」


「フッ。言われるまでもない」


「それと………クダイによろしく言っといてくれ!シトリーと仲良くしろよって!」


「伝えよう」


ケファノスの静かな見送りの中、羽竜は次の世界を目指した。










「来ると思ったよ」


ヴァルゼ・アークが言った。

既に魔帝から黒い髪の“方”に戻っていた。


「来させられたんだよ」


綺麗な花畑だった。その真ん中に土を盛った形跡があり、重そうな石が乗せてある。


「あの女の墓か?」


「そうだ」


あまり触れない方がいいのだろう。セルビシエのことをよく知らない羽竜は、彼女の死を汚してしまいそうで口を慎み、話題を変えようとすると、


「同情はするなよ」


「しねーよ」


そう答えた羽竜に、ヴァルゼ・アークは苦笑した。


「こんな世界も珍しい。そうは思わないか?羽竜」


「あん?どういう意味でだよ?」


「三十年前、サン・ジェルマンはこの世界の戦争を終わらせたと言っていた。そして、そのサン・ジェルマンが戦いを招き、今度はクダイがこの世界にやって来た。終わりなき輪廻のように」


「はぁ………毎度思うんだけどよ、もっと解りやすく言ってくれよな。あれこれ考えるのはしょうに合わねーの知ってんだろ。長い付き合いなんだからよ」


「ハハハ。それは悪かったな」


こんな時、空気を乱してもヴァルゼ・アークは怒らない。羽竜は知っている。


「あんた、知ってて言ってんだろ」


「フッ。この世界の住人達は、繰り返される戦争と、タイミングよく現れる勇者の存在を欲しがっている。それが全てだ」


「欲しがって手に入れるもんじゃねーと思うけど?」


「人の念とは馬鹿に出来ん。時に奇跡を、時に終末さえ起こす」


「じゃあジャスティスソードってなんなんだ?この世界の住人には扱えない伝説の剣が、クダイには扱えるんだ。理由があるんだろ?」


「今言ったことが答えだ。しょうに合わんだろうが、少しは頭を使え」


「ケッ。ジャスティスソードの正体、それすら知ってるってことか」


ヴァルゼ・アークはニヤッと笑うだけだった。

そして、空間に穴を開ける。次の世界に行く扉だ。


「この世界のことは、この世界の住人に任せればいい」


その背に、四十八枚の翼が開く。


「来い!羽竜!次こそは決着を着けてやる!」


ヴァルゼ・アークは、時空の穴へと飛び込んだ。


「着いて行ってやるぜ!俺はあんたの背中だけを追ってるんだからな!」


羽竜も飛び込むと、時空の穴は閉じた。



誰かが言った。


−この世は終わりだ−


と。



誰かが言った。


−救世主は現れる−


と。



人々が願う度、それは叶う。

それだけがこの世界の全て。


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