はじまり
高校三年生の春。全校生徒が体育館に集まり、校長先生の話に耳を傾けている。
「今年から高校三年生になる皆さんは、受験勉強にも力を入れていかなければなりません。更に・・・」
はぁ。自然とため息が漏れる。二月二十五日、二十六日に受けた同日試験の結果を思い出したからである。同日試験とは、僕たちの一年先輩が受けた入試と同じ問題を、僕たちが同じ日に受けるという試験である。これを受けることで入試問題のレベルや今の自分のレベルがわかるのだ。
「これからどうするべきかなぁ。」
同日試験の採点結果シートに書かれていたE判定の文字を頭に浮かべながら僕はボソッと呟いた。こんな漠然とした悩みは解決するはずもなく、いつの間にか校長先生の話は終わっていた。
「校歌斉唱。」
教頭先生がそう告げると、飛車高校校歌が流れ、皆んなが歌い出す。僕は何となく歌いたくない気分であったが、先生に怒られるのも嫌だったので、口パクで歌っているふりをしていた。
「これにて飛車高校二〇二一年度、始業式を終わります。一同、礼。」
始業式の終わりが告げられると、生徒は一斉に体育館の出口へと足を運ぶ。靴箱の渋滞を遠くから見ていると、
「よう、元気してた?」
少し低い声が聞こえてきた。
「今田か、おう、元気だったぞ」
「そうなのか?なんか浮かない顔してるぞ?」
「そんなことねーよ。まあ、あの人の多さは見てるだけでちょっとイライラするけどな」
「あー靴箱の渋滞か。何で皆んなあそこまでして早く出たがるんだろうな」
「わからん」
俺に話しかけてきたやつは今田である。高校二年生の時に同じクラスになって以降、かなり仲がいい。夜飯を一緒に食べて帰ったりするときもある。
「そういえば、今日授業ってあるの?」
「流石にホームルームだけだと思うけど、多分高校三年生だし、受験の話はあるだろうな。」
「うわー、ダルいわー。というか俺らの担任誰なんだろう?」
「お前三組確定してるんか?」
「まあ流石に大丈夫っしょ、流石に。」
今田はそういうと靴箱の方へと歩き始めた。人で溢れかえっていた靴箱も今は誰もいない。僕は今田についていきながら、これからの一年の過ごし方について考えていた。