隣のスーパーレディ(LA暴動直後のバスで )
ロサンゼルス暴動のあった直後、ロサンゼルスのバスの中で、実際にあった出来事です。
LA市街から、バスでディズニーランドを目指した。
途中、急にバスが止まり、ドアが開いた。
が、降りる者も、乗る者もいない。
バス停でもなさそう。
なぜ、こんなところで、止めたのか ?
さっきから、運転手がマイクで何やら言ってた。
めっちゃ早口、ぼくのリスニング力では理解不能だったのだ。
周囲の視線につられ、最後部を見た。
何やら盛り上がりまくる黒人男3人組。
プロレスラーか何か ?
全員、身長2m、体重100kgぐらいありそう。
どうも、問題は、彼らが飲んでるコーラ?
ロサンゼルス地区のバスはすべて飲食禁止。
運転手は、コーラを捨てろと言ってるよう。
それで、外にゴミ箱のある場所で停車したらしい。
3人は、口々に何やら怒鳴ってる。
「 ここは、自由の国だ !」
などといってるヤツも。
運転手も負けずに、
「 バスは、カフェテリアではない !」
などと、マイクで怒鳴り返す。
コーラを捨てるまでバスを動かさないつもり ?
だいじょうぶなのか ?
運転手は、白人の小柄な中年男。
なぜコーラぐらいでそこまで頑張る必要が ?
こんな連中を怒らすと、マズイのでは ?
ロサンゼルス暴動があったばかりなのに。
突然、隣に座っていたデミ・ムーア似が叫び始めた。
どうも、運転手に味方、男たちに抗議してるよう。
スゴイと思う反面、隣の席だけに気が気でない。
ニュースで見た暴動の衝撃場面が次々浮かんだ。
黒人数人が白人の頭を壁にぶつける場面とか。
が、前の黒人のお婆さんまでが何やら叫び始めた。
他の乗客もそれに呼応し、口々に。
たぶん日本語なら「そうだ、そうだ」みたいな感じ?
万が一、殴り合いにでもなれば凄絶なことに。
乗客全員が束になっても、彼ら3人にかなうわけがない。
ヤバイことにならなければいいが !
が、男たちは、開いたドアのところへ。
「 ガッデム !」
とか何とか吠え、コーラを外のゴミ箱に捨てた。
「 おまえたち自身もゴミ箱に捨てろ !」
運転手がマイクで叫んだ。
オイオイ、それはさすがに言い過ぎだろ。
逆切れしたらどうするんだよ !?
突然、男たちが、銃を取り出し乱射。
自由の国ならぬ「銃の国」アメリカ、十分ありえそう。
が、事態は、意外な展開に。
男の一人が運転手に向かい何か大声で。
するといっせいに乗客の明るい笑い声が。
何、何、どういうこと ?
「プレジデント」がどうとか言ってたようだったが。
例によってぼくのリスニング力では聞き取れず。
バスは何事もなかったかのように走り出した。
ま、とにかく一人の犠牲者も出なくてよかった。
が、男が何を言ったのか気になりモヤモヤ気分。
勇気を出し、隣のスーパーレディに質問することにした。
「 すいません、お嬢さん。
私は英語が下手です、なぜなら普通の日本人なので。
あの大きな男の人は、私にとってあまりに速く話しました。
彼が何を言ったのか、私に教えてくれませんか ?」
彼女は、ファンタスティックな笑顔を浮かべた。
そして、ベリースローリーな英語で教えてくれた。
あの男は運転手に、こう言ったそうだ。
「 次の大統領選挙に立候補しろよ、俺は、おまえに投票するぜ。」
(終わり)