7
「なっ、」
なんでそれをーー!
と、言ってしまったら、もう取り返しがつかなくなる。
ぐっと、言葉を飲み込んだ。
「何をおっしゃっているのかわかりません。ジーナ、様はオリバー様の妹様ですよね?」
わたしがそう言うと、お兄様はため息をついた。
「あのなぁ、とぼけるんなら、もっと上手くやらなきゃダメだぞ。端々にジーナが滲み出ている。ジーナのことを知っている者なら、誰もが存在に引っ掛かりを覚えるほどだ」
えっ、そんなに滲み出てた?
いいえ。これは誘導尋問よ。
だって、その証拠にルーク様は何もおっしゃらないもの。
「あ、ルーク様が何も言わないっていうのはまた別問題だからな。ルーク様の場合は、思うところがあっても、気持ち的に否定したいからだろうよ。生涯ジーナただ一人と誓いを立てた身の上で、万が一ニーナがジーナでなければジーナに合わせる顔がないと思っているだろうからな」
ニーナがジーナでなければ?
「それは、どういう意味でしょうか……」
「中身がジーナなら、ルーク様が惹かれない訳がないんだ。で、ニーナのことが気になっていても、ジーナでないから惹かれてはいけないと思い込んでいるだろう。ジーナでない者に、ルーク様は決して惹かれようとしない。だから、ルーク様は事実から眼を逸らしているんだ」
わたしは、次の言葉が思い浮かばず、黙り込んでしまった。
そんなわたしを愛しげに見て、お兄様は丁寧に言葉を紡ぐ。
「馬車に乗る時、無意識にすぐ掴まれる場所を探す。これはジーナが5歳の時に、馬車に乗ろうとして馬車から落ち、大怪我をしたことがあるからだ。ミラー家のダイニングに案内した時、ジーナの定位置だった場所に、すぐに向かって座った。客であるならば、真ん中か一番端に腰掛けるだろう。だが、おまえは入り口近くの端から二番目の席になんの迷いもなく座った。それから、この部屋に入った時、入り口からは死角になっている本棚に真っ直ぐに近付いて行った。まだまだあるぞ」
わたしってば、懐かしい前世の時の我が家に来て、気が緩んでしまったらしい。
そんなに、わかりやすかったなんて。
「極め付けはエマへのお祝いだ」
わたしは首を傾げた。
「お祝いはルーク様が選んでお贈りになった物です。何も不思議なことはないはずですが……」
「バカジーナ。おくるみに薄紫を選んだだろう? エマが好きな色と知ってたからだろうが。ルーク様はそんな細かいことは知らない。それに、ハンカチ」
「おくるみとハンカチは抱き合わせ販売品です」
「そうだとしても、名前を刺繍なんて洒落た真似、ルーク様には無理だ。しかも、エマのファミリーネームは刺繍されていなかった。ジーナはどこにエマが嫁いだか知らなかっただろうからな」
そうだ。
お兄様の言う通り、お姉様がどこに嫁いだか知らなかった。
配送先の名前で確認しようとしたら、ルーク様は荷物をデイヴィス家への配送にして、フランクさんに言って荷物を送ってしまった。
だから、わたしはお姉様がどこに嫁いだか、知る方法がなかったんだ。
「……お姉様は、どちらに嫁がれたのですか?」
わたしがポツリと呟くようにお兄様に訊ねると、お兄様は泣き笑いを浮かべて、両手を広げながらわたしに教えてくれた。
「ターナー伯爵家だよ」
「お兄様!」
わたしは、お兄様の腕の中に飛び込んだ。
お兄様はわたしをきゅっと強く抱きしめ、呟く。
「おかえり。ジーナ」




