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4

 次の休日、わたしはお見送りだけしようと、朝だけお仕着せに着替えてルーク様を玄関で待ち構えていた。


 支度を終えたルーク様が、わたしの姿を見つける。

「サリーが今日はニーナが休みの日だと言っていたが、違うのか?」

 ルークは白い手袋を着けながら、わたしに声を掛けた。

 そこへ、フランクさんやサリーさんも見送りにやって来る。


「いいえ。お休みですけど、ご主人様をお送りしようと出てきたんです」

「なんだ。部屋でゆっくりすればいいのに。いくら今日は登城する予定とは言っても、今日の予定は王と王太子との会談だけだぞ」


 ルーク様はわたしがローゼリア様とのことを心配して、見送りにきたんだと思っている。


「いいえ。違うんです。わたしがルーク様をお送りしたかっただけなんです」


 今日はお兄様と会う日だから。

 何を話してもお兄様は悪いようにはしないと思うけど、それでも不安は拭えない。

 だって、わたしはここではありえない(イレギュラー)な存在だから。


 ルーク様は微笑んでわたしの頭にポンポンと手を置く。

「そうか。では、今日はみやげを買ってきてやる。夜遊びなどしないで、早く屋敷に帰っているんだぞ」


 ルーク様は身なりを整えて、「行ってくる」とだけ言って、馬車に乗り込んで行った。


 わたしはお仕着せから淡いグリーンのワンピースに着替え、お兄様が迎えに来るのを部屋で待っていた。


 いつもは髪を後ろで一纏めにしているが、今日は仕事ではないので、久しぶりにハーフアップにして、ワンピースと似た色合いのリボンをつけてみた。

 お兄様に会ったら、何を言われるんだろうと考えると不安で、いつもしないような髪をいじってみたり、ちょっとリップをつけてみたりと、何かをしていないと、ドキドキが止まらないような気がした。


 コンコン、とわたしの私室のドアがノックされる。

「はい」

 ドアを開けると、そこにはサリーさんが立っていた。


「ミラー子爵のご子息がニーナを迎えに来ているのだけれど……。ニーナ、どういうこと?」

 サリーさんはわたしの姿を見て、目を丸くしていた。


「えーっと、ミラー子爵のお嬢様がご出産されたとかで、お祝いの品をうちの商会で買ってもらうことになり……」

 大嘘だけど。


 なんとかサリーさんも納得してくれそうな言い訳を絞り出し、それを言うとサリーさんは納得してくれたようだった。

「それならいいんだけど……。まあ、オリバー様ならニーナを連れて歩いても安心だけど。貴族と恋仲になっても、いいことばかりではないのよ。わたしたちとは身分が違うから。まあ、子爵家のオリバー様なら、悪いようにはしないと思うけど……ちょっとお年が離れてる気はするけど」


「サリーさん。別に、オリバー様と恋仲になりたいなんて思っていませんから安心してください」

 わたしがきっぱり言い切るも、サリーさんは納得していない様子……。


「でもねぇ。ニーナがそんなにオシャレしているところ、ここに来てから初めて見るわよ」

 サリーさんに指摘されて自分の格好を見ると、確かに張り切ってオシャレしたっぽい感じに仕上がっている。


 手持ち無沙汰でやってただけなんだけど……。


「えーん、サリーさん! 着替え直すからオリバー様に待っててくださいと伝えてもらえますか!?」

 わたしが服を脱ごうとすると、慌ててサリーさんが止める。

「なに言ってんの! もうすでにお待ちいただいているんだから、すぐに行きなさい!」


 わたしはサリーさんに追い出されて、玄関までこの格好で行くこととなった。



「お、お待たせしました」

 気合入れ過ぎた姿が恥ずかしくて、モジモジとお兄様の前に出ると、お兄様は目を細めてわたしを見ていた。


「よ。じゃ、行くか。ミラー子爵家へ」

「えっ、ミラー子爵家に行くんですか?」

「なに? なんか都合悪いか?」

「いえ、そういう訳では……」


 わたしがモジモジしていると、お兄様が手を差し出してくれる。

 その手を取り、わたしたちは歩き出した。


 貴族紳士の休日、といった感じのラフな服を着ているお兄様と、平民で一生懸命着飾りました的なわたしは、案外バランスが取れて、ふたりで歩いていても違和感がなさそう。


 手を引いてもらって馬車まで行くと、懐かしいミラー子爵家の家紋がついた馬車が停まっていた。



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