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「な、なんでそんなこと……」

 お兄様の急な問いに、わたしがわたわたとしていると、お兄様は両肘をテーブルについて、グイッとわたしの方に体を寄せた。

「別に。素直に疑問に思ったからだよ。もしかしたら、光の魔法が使えるんじゃないかって」


 わたしは無意識にコクリと喉を鳴らした。

 もしかしたら、お兄様にはバレているんじゃないかって、不安に思って。


「わ、わたしは風魔法の保持者です……」

 尻すぼみに声が出て小さくなるわたしに、お兄様はくすりと笑う。


「それ、勉強すんだろ?」

 お兄様はテーブルの端に置いてある、図書館で借りてきた光魔法の本だった。

「あっ、いえ、あの、これは、ほら! ルーク様が困ってそうだったので、何かお力になれないかと!」


 あああああ……。

 焦って何を言っているのか、意味不明……。

 光魔法を持っていないはずのわたしが、光魔法を勉強したって、お力になんかなれるはずないのに。


「いいって。隠すなよ。わかってるからさ」

「なっ、なんのことでしょおか……」

 お兄様は左手で頬杖をつきながら、優雅にコーヒーを飲んだ。


「次、おまえの休みはいつだ?」

「え、」

「いいから。教えろよ」

「6日後です」

「じゃ、デイヴィス家まで迎えに行く。ルーク様にバレないように出て来いよ。確かルーク様はその日、王城で王太子と会談があるはずだから、急に帰ってくることはないだろう。オレもその日休み取るから」


 それだけ言うと、お兄様は席を立った。

「困ります! そんな、オリバー様!」

 お兄様はお店の出口のドアノブに手を掛けると、こちらをやっと振り返る。


「悪いな。騎士団手伝ってるって言っただろ? これ以上サボれないんで街のパトロールに戻るから、話は6日後に聞くよ。じゃーなー」

 手をひらひらと振って、お兄様はお店を出て行ってしまった。


「そんなあ」

 お店に残されたわたしは、ポツンとテーブルに乗っているチェリーパイと冷めた紅茶を口にしたけど、全然味がしなかった。


 もぉ~っ!

 せっかく美味しいパイだったのに。もったいない!


 もくもくとパイを食べながら本を開く。

 お行儀悪いけど、気持ちを落ち着かせるために必要なことだった。

 光の魔法。

 本には、かつてわたしが学園で教わったことが簡単に載っていた。

 これを、こっそり勉強して、ルーク様の剣に祝福をする。


 できるかな。わたしに。



 それと、お兄様はわたしが誰か気付いているのかな。

 わかんないや。

 お兄様は、いつだって行動が読めない人だ。


 でも、これだけは言える。


 お兄様は、ジーナ(わたし)の不利になることは、絶対にしない。

 もちろん、ルーク様の不利益になることだって、絶対にしない。


 来週、ちゃんとお兄様と話をしてみよう。


 光の魔法のことにしたって、もしかしたら何か良いアイデアがあるから話したいだけかもしれないし。


 パラパラと本をめくりながら、パイを食べていたら、少しずつ落ち着いてきた。


 大丈夫。

 わたしの大好きなお兄様だから、きっと、大丈夫。


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