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「えーっと、お茶、飲みますか?」

 ルーク様はわたしにチラリと視線を移したが、すぐにまた食事に戻る。

「バカか。まだ食事の最中だ」

「ははは。そうですよねぇ」


 えーん。

 サリーさん、手持ち無沙汰だよー。

 どうしてわたしを置いて行ったんですかぁ?


 することもなくて、わたしはルーク様が食事をするのをじっと見ていた。


「……なんだ? 見られると気が散る」

 ルーク様が不機嫌そうに、わたしを見る。

「いえ、あの、えーと、足りますか? お夕飯」

「これだけあれば、充分だろう?」


 テーブルに乗っているのは、サラダ、スープ、お肉、バターロールだ。

 確かに、普通の人なら充分だけど……。

「もっと食べるかと思っていました。幼馴染みのパン屋の男の子は、そのバターロールにお肉やハムを挟んで17.8個は食べますし、あと、誰だったかな? 覚えていないんですけど、ステーキとスープとパスタとサンドイッチを一度にテーブルに置いて、全部食べた男の子もいるんですよ~。どこにそんなにたくさんの食べ物が入るのかと、感心しました」


 ルーク様はわたしが大袈裟に言っていると思ったのか、ぷっと、吹き出した。

「それは成長期の男はそれくらい食べるもんだからな。成長期が終われば自然と減る。そのまま食べ続けたら、剣など振るえないくらい太ってしまうよ」

 ああ、そうか。

 育ち盛りだから、男の子はたくさん食べるのか。


「ルーク様も食べましたか?」

「ああ、ジーナが呆れるくらい……」


 何故かルーク様は途中で言葉を切って、じっと、何かを考えているようだった。


「ルーク様?」

「あ、いや。なんでもない。もう食べ終わるから、紅茶を入れてくれないか」

「はい。かしこまりました」


 わたしはルーク様に新しくお茶を入れ直した。


 茶葉をちゃんと蒸すくらい時間を置いて、ルーク様に紅茶を出すと、ちょうど食事を全部食べ終わったところだった。


「全部食べてくださったんですね。嬉しいです。ありがとうございます」

 わたしがにこにこと笑ってそう言うと、ルーク様は紅茶を飲みながらくすりと笑った。

「なんでおまえがお礼を言うんだよ」

「だって、ルーク様がちゃんと食べてくれるのが嬉しいんですもの。専属侍女といたしましては、ご主人様の健康が一番嬉しいです」


「何言ってんだ、いつもちゃんと食べて……。いや、そういえば、食べてなかったな。ローゼリア(あの女)と会った日は……」


 ルーク様は空になったお皿を見て、それからわたしの顔を見た。


 ?


「なんですか? ルーク様」


 わたしが首を傾げると、ルーク様がピクリとした。


「いや、オレは……そんなバカな。同じに見えるなんて、そんなバカなことが……」


 突然狼狽え出したルーク様に、わたしもどうしたらいいかわからない。


「ルーク様?」

 ルーク様に手を伸ばしたら、伸ばしたら手を振り払われた。


「っ!」

 今までそんなことをされたことがないので、わたしはびっくりして手を引っ込めた。


「あ……。すまん。ニーナ、オレが悪かった。もう、下がってくれ。早く休みたい」

「あ、はい。気が利かなくて申し訳ありませんでした」


 わたしは急いで食器を片付けて、それらを持ってきたワゴンを乗せて、部屋を出ようとした。


「ニーナ」

 ルーク様に呼び止められて、振り向くと、ルーク様がわたしのすぐ後ろに立っていた。


「オレは、おまえの明るさに救われているのかもしれない。能天気なおまえの顔を見ると、ローゼリア(あの女)のことも、くだらない、どうでもいいことのように思えてくる」


 それは……、褒められてるのかな……?


「ありがとうございます?」


 ルーク様はまたくすりと笑う。

「なんで笑うんですか」

「いや、おまえこそ、なんで疑問形」

「なんとなく……褒められてるのかなって」


 ルーク様はくしゃりとわたしの頭を撫でた。

「もう戻って早く寝ろ」

「あ、そうですよね。ルーク様、早くお休みになりたいんでしたもんね。失礼しました。おやすみなさいませ」

「……ああ、おやすみ」



 ワゴンを押してルーク様の部屋を出たわたしに、ルーク様の独り言は聞こえなかった。



「それでも、オレの光はただ一人なんだ」


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