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あの日の

 幻を見た。


 白い花降る木の影から、ジーナが手招きする幻だ。

 ジーナはあの頃と変わらず、12歳のままだ。

 栗色の綺麗な髪を揺らして、アンバーの瞳は優しく三日月を描いている。




 ジーナが死んだあの日から、オレは幾度となくジーナの幻を見ていた。

 それは、夢の中だったのかもしれないし、眠れないオレが見た白昼夢だったのかもしれない。


 触れようとすると、ジーナは消えてしまい、オレのこの手が宙を彷徨うだけだった。


 眠ろうとしても、夢に出てくるのはジーナの最期ばかりだった。

 白い綺麗な顔が、ジーナ自身と魔獣の血で汚れ、オレの腕の中でどんどん冷たくなっていく。

 悪夢で目を覚まして夜中に叫び出し、何度フランクやサリーに宥められたかわからない。

 あの頃のフランクとサリーは、ほとんど寝ずにオレについていたのではないだろうか。


 食事を取ろうとしても戻してしまい、どんどん体は痩せ細っていった。


 両親もどうしていいかわからず、医者が出す薬は安定剤と睡眠薬。

 安定剤を飲んでも精神は安定されず、睡眠薬で眠れば悪夢で目を覚ます。


 オレを生かそうとしたジーナを想うと、自ら命を断つことはできず、身も心もボロボロになり、あと少しこのままだったらジーナの元に行けると、そればかりを考えていた時に、義兄上と義姉上がオレの部屋を訪れた。


 婚約者としてのジーナの兄妹だったふたりは、もうオレとは何の関係もないはずだった。

 それなのに、こうして見舞いにきてくれたことは、オレにとって、ジーナとまだ繋がっていられるような気がして、とても有り難かった。


 ベッドに横になったまま、体力もなく動けなくなったオレを見て、義姉上はポロポロ涙を溢す。

 オレはそれを見て、泣き顔がジーナに似てるな等と考えていた時、義兄上が義姉上に負けないくらいポロポロと涙を流した。

 ジーナの葬儀の間も、涙を溢さずに堪えていた義兄上が、オレの姿を見て泣くのだ。


「ジーナが、オレたちのジーナが自分の命をかけて守ったルーク様は、運命に負けたりなんかしないんだ。だから、ちゃんと眠ってくれ。食べてくれ。魔物なんか倒さなくてもいい。英雄になんかならなくてもいいから、生きてくれ!」


 オレにとって、その言葉は衝撃だった。

 両親でさえ、オレが死んだら魔物の討伐がどうなるかと口にしていた。

 それが、魔物を倒さなくていいと言う。


「そうですわ。生きてくださいまし。あなたが死んでしまったら、ジーナが悲しみますわ。きっと、ジーナのことですもの。近くであなたを見守っているに違いないんですから」


 オレは義姉上の言葉に、目を見開く。

「近くで……?」

「そうですわ! ジーナはあんなにルーク様のことが好きだったんですもの。きっと、近くにいますわ! もし、神があなたから離そうとしても、気合と根性で近くに来るに違いありませんもの」


 そうか。

 それなら、オレは生きないといけないな。

 ジーナが側にいるのなら、こんな情けないオレは見せられないからな。



 その日の夢は、悪夢の代わりに、ジーナがオレの側に来る夢だった。

 遠くにいたのに、オレの方へがんばって、がんばって、流れに逆らってまで、オレの方へとやってきてくれる夢だった。


 その日からオレは、少しずつ眠れるようになっていった。



 義兄上と義姉上は、オレとはなんの繋がりもなくなったのに、よく様子を見に来てくれた。

 義兄上に至っては、ミラー子爵の後を継ぐ勉強をしていたはずなのに、騎士隊に入り、オレが編成する討伐隊に来てくれた。


 そんな中、オレが持ち直してまた訓練に参加し始めたのを見て、ローゼリアとの婚約話が持ち上がった。


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