7
「腕なんて見てどうするんだよ。顔と同じで醜いぞ」
「いいからいいから」
わたしは無理矢理ルーク様の腕を掴んで、左腕の袖をまくった。
ルーク様の腕は、肩から肘の部分に掛けて、広範囲で火傷の跡があった。
ケロイド状の腕は、裏側はそんなに火傷をしていなかった。
広範囲に見えるけど、実際は見た目よりも範囲は広くないかも……。
わたしは右手でルーク様の腕を持つ。そして、左手の人差し指と中指で火傷の一番外側をぐっと押さえた。
「なんだ?」
「ルーク様、うるさい。ちょっと静かにしてて」
わたしは意識を集中した。
あまりに酷いルーク様の火傷。
赤ちゃんの時に襲われてできたものだと言う。
何も知らない赤ちゃんが、こんな酷い火傷をするなんて。
きっとルーク様は泣いただろう。
ルーク様を思って、意識を火傷へ集める。
強く、強く。
ルーク様を想う……。
「ふぅ……」
わたしは指をどけてみた。
「ジーナ……火傷が消えてる……」
ルーク様はわたしが手を退けた後の自分の腕を見て、目を丸くした。
わたしも見てみるけど、ルーク様と違ってわたしはガッカリした。
思ったよりも消えていなかった。
消えた火傷はわたしの小指の先ほどで、パッと見さっきまでと変わりないように思えるほど小さかった。
「ごめんなさい、ルーク様。これが限界みたいです」
「いや、ジーナ、すごいぞ。今までいろんな光の術者が治療に当たったが、火傷を消せたものはいなかった」
光の術者はとても少ない。
ただでさえ、4つに分けられる属性の中、光の術者だけ生まれる割合が少ないからだ。
1/4より少ない確率で生まれる光の術者は、癒しの能力を買われて協会に属することが多い。
魔力が少ないとできないけれど、癒しの力は他人の悪いところを治せるから。
魔力の多い人は教会に属し、病気や怪我人の治療にあたる。
ただ、いくら魔力が多くてもできることは限られていて、傷なら擦り傷、病気ならほんの少し痛みを和らげることくらいしかできない。
「火傷を治そうとしてくれた光の術者はどんな風にやったの?」
「ジーナがやったように、火傷の上に手を置いて祈ってた」
「それでも消えなかったんだ……」
わたしの場合、火傷を全部消そうとは思っていなかったのが良かったのかも……。
狭い範囲に集中して力を加えた。
「ルーク様、わたしはなるべくルーク様に会いにきます。少しずつ、消して行きましょう。お顔から消して行った方が良かったですかね?」
「いや、腕からでいい。剣がうまく振れないと、使命が果たせない」
「そうですか」
バケツまで被らされたのに、使命を果たすために腕からの治療を選ぶなんて。
わたしはルーク様を尊敬します。
「でも、ルーク様、ごめんなさい。なんかもう、立てないです……」
わたしは集中し過ぎて疲れたのか、魔力を使い過ぎて疲れたのかわからないけど、疲れ果ててルーク様のベッドにそのまま横になった。
「えっ、ジーナ? おい! ジーナ!!」
ルーク様のベッド、フカフカで気持ちいい……。
その感想を最後に、わたしの意識は途絶えた。