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あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜  作者: 雪野 結莉
7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?
68/225

7

 その男の人は、目にいっぱい涙を浮かべて、噴水の中まで走ってやってきて、わたしを後ろからギュッと抱きしめた。


「ジーナ、ジーナ。あぁ、今日は消えないんだな。やっと、オレを迎えに来てくれたのか」


 わたしは走り込まれた時に立った水しぶきで、全身ずぶ濡れになっていた。


 それよりも、この男の人は……。


「ルーク、様?」

 おそるおそる後ろを振り返り、わたしが小さな声で言うと、ルーク様は抱きしめた腕はそのまま、顔を離してわたしをじっと見つめた。


「ジーナ?」

「はい……」


 わたしは思わず返事をしてしまったけど、ルーク様はわたしがジーナじゃないことがわかって、パッと腕を離した。


「す、すまない。人違いだ」

 ルーク様は哀しそうな顔をして笑った。

「オレのせいで濡れてしまったな。今人を呼ぶ」

 濡れた髪をかき上げるルーク様は、水しぶきでキラキラ光って、わたしは思わず見惚れてしまった。



 あの頃とは違って背も伸びて、顔付きも大人っぽくなった。

 声だって、低く響いて頭から離れないくらい魅力的になった。


 あぁ、大人になったルーク様だ。


 会いたかった。

 ずっと、同じお屋敷にいるのに、会いたいのに会えなかったルーク様。


 思わず、わたしの目から涙が溢れた。


 ポロポロ、ポロポロ次から次へと溢れていった。


 逢えた。やっと、あなたに逢えた。


「ねぇ、キミどうした?」

 泣き止まないわたしに、ルーク様が怪訝そうに顔を覗き込む。

「いえ、なんでもないです。すみません、感動して泣いてしまっただけです」

 わたしは慌てて頭を下げた。


 今のわたしはルーク様の婚約者じゃない。

 ただのメイドだ。


「感動……? あぁ、最近第二王女の婚約者を見て感動する者がいたな。オレはそんなに大層なもんじゃないし、王女の婚約者ではあるが、結婚するとは限らないぞ」

「いえ、王女様の婚約者だから感動していた訳ではありません。こちらにお支えして、初めてお目にかかれたのでそれで。本当に申し訳ありません。突然泣き出して、驚かれましたよね」

「いや、突然噴水の中に入ったオレが悪かった。こんなところで何を?」


 ルーク様が訝しげな目を向ける。


「あ、噴水の中に落ち葉が入っていたので、拾ってたんです」

「キミ、もしかして庭を掃除してたりする?」

「はい。こちらのお庭は、どなたもご覧にならないとは聞きましたが」

 昔のお庭を知っているから、悲しくて。


 わたしは言葉を途中で止めた。

 ルーク様はそれに気がつき、何か言いたそうだったけど、何も言わなかった。


「は、くちゅん!」

 わたしがくしゃみをすると、ルーク様は慌ててわたしを横抱きにした。


「すまん。濡らしたままで話し込んでしまった。急いで屋敷に戻るぞ」

 急に抱き上げられてびっくりしたわたしは、うっかりルーク様の首に抱きついてしまった。

「あっ、申し訳ありません。あの、大丈夫ですから下ろしてください」


 わたしを抱き上げたまま、颯爽と歩くルーク様は、ちらりとわたしを見た。

「バカか。このままでは風邪をひく。早く着替えをして、暖かい部屋で休め」


 久しぶりにルーク様からバカと言われた。

 今世でも、わたしはルーク様からバカと言われる運命らしい。


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