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あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜  作者: 雪野 結莉
7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?
64/225

3

 朝早く起きて、本館の調理場へ向かう。


 すでにサリーさんは働いていたので、わたしもお仕着せの上にエプロンをつけて調理場へ入った。

「ニーナは今日が初日のようなものだから、調理場の動きを見ていてくれればいいわ。調理場が落ち着いたら鍋を洗ってちょうだい」


 サリーさんはてきぱきとワゴンに一人分の朝食を乗せて、ワゴンを押して出て行った。

 調理場の中は料理長らしき人が奥の方でいろいろと指示を飛ばしているのが見える。

 料理長のほかに、3人の人が奥で料理を作っていて、2人が手前でお皿を用意したり野菜を出したりしていた。


「よお、新入り。ただ見てるもの暇だろ? そこの果物を貯蔵庫に仕舞ってくれよ」

 隅っこで周りを見ていたわたしに、野菜の皮むきをしながら、男の子が声をかけた。

 わたしと同じ年くらいだろうか……。


「? 聞こえないのかよ」

「は、はいっ! すみません」

 ぼうっと見ていたわたしは、慌てて果物を抱えて、調理場の隅の貯蔵庫に仕舞った。


 りんごやぶどうなどの他、メロンなどの高級果物がたくさんあったが、三往復で全部仕舞うことがてきた。

「終わりました」

 わたしは元居たところに戻ると、男の子に声をかけた。

「サンキュー。料理長の方も落ち着いたようだから、オレたちも片付けに入って、早く朝メシをもらおうぜ」


 ふと顔を上げると、料理長は包丁などの手入れに入っていて、出来上がった料理はメイドさんたちによって運び出されていた。


「あ、わたし、鍋を洗わなきゃ」

 洗い場の方に行こうとすると、男の子に止められる。

「サリーさんはああ言ったけど、調理道具には触らない方がいいぞ。みんな、大事に使ってるから、自分たちで手入れするんだ」

 男の子はそう言うと、自分も使っていた包丁を丁寧に洗い、包丁立てに戻すと風魔法を使って乾かした。


「オレは調理場で働いているゼンだ。一番下っ端だから、雑用全般を引き受けているんだ。調理場に用があったら、オレに声をかけてくれ」

 アッシュブラウンの長めの髪を後ろで束ねて、清潔そうな顔でゼンは笑みを浮かべた。

「あ、わたしはニーナ。昨日から別棟のメイドとしてここで働いてるの。よろしくね」


「さ、早く朝メシもらいに行こうぜ」

 ゼンと共に、わたしは本館の使用人用食堂に足を運んだ。


 案内された食堂では、3.40人は座れる食堂に、人がまばらに座って食事を取っていた。


 入口でゼンにトレーを渡される。

 2人でトレーを持ってカウンターに行くと、何人かのメイドが鍋から食事をお皿に盛って、ドンドンカウンターに置いていた。

「このカウンターを端から端へ歩いて、自分が食べたいものをトレーに乗せていくんだ」

 カウンターの手前はスープ、次がメイン、パンと、順番に置いてあり、ブュッフェ形式で食事を取るらしい。

 カウンターの最後には、さっき貯蔵庫に入れたような、高級な果物が置かれていた。

 ただ、様子が変に思ったのは、リンゴは歪な形に剥かれていて、ぶどうも腐る直前のようなものだった。


 ひとまず、スープやパンなどを一通りトレーに乗せて、果物はピーチを一皿もらって、ゼンの隣の席に座った。

 気になって、先にピーチを一口食べると、それはなんとも言えない甘さだった。


「ねえ、気になったんだけど、なんで新鮮な果物は貯蔵庫に仕舞って、食べ頃を過ぎたような果物を出すの? 確かに、腐り落ちる直前が一番甘いと言われているし、すっごく甘かったけど、もう少し早かったら歯応えもあって美味しかったと思うの」

 ゼンはぴくりと眉を上げた。

「そりゃ、オレたち調理場だって、新鮮な果物を出したいけど……。この果物は、ローゼリア王女の差し入れなんだよ。侯爵家と、ルーク様率いる討伐隊にって、毎週贈られてくるんだ」

「だったら、尚のこと、美味しいうちに出さないと失礼なんじゃないの?」

「ルーク様は、ローゼリア王女の差し入れは絶対に口にしないんだ。ましてや、討伐隊へ差し入れなんて、絶対にしない。差し入れをするとしたら、ルーク様がご自分でご用意なさるのさ」


 わたしは目を丸くする。

「えっ、じゃあこれは何のために……」

「婚約者であるローゼリア王女が何もしない訳にはいかないだろ。王女様の体裁を整えるためのものだよ。本館の侯爵夫妻と次男様はお召し上がりになるが、それだけでは消費し切れない。でも、オレたち使用人が頂く訳にもいかない。だから、侯爵家で召し上がらない分は貯蔵庫に入れておいて"余っているので腐る前に使用人で頂く"という(てい)で、食べられなくなる前にオレたちで食べるのさ」

「ふーん。なんか、周りくどいのね」


 ゼンはもぐもぐと動かしていた口を止めて、わたしの顔をじっと見た。

「驚かないのかよ。外から来た奴は、大抵驚くぜ。世間では美男美女のお似合いカップル。仲睦まじいに違いないと言われてる2人が、差し入れも手をつけないほどの冷えた仲だって聞けば、みんなびっくりするのに」


 まさか、前世から知っていることとは言えないけど……。

「別棟で働くのですもの。事前に聞いていたわよ」

 わたしはすましてそう言った。

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