1
「お会いにならないというのは、お忙しくてですか? これからご奉公するのに不勉強で申し訳ありません。ルーク様は、今、何をしていらっしゃるのですか?」
ジーナの記憶だと、学園を卒業した後は、王室騎士団に入り、そこで集団の戦い方を学んだ後に、騎士団員と国の定める兵士の中から討伐隊を募って、そこの隊長を務めると聞いていた。
それをフランクさんに聞くと、その通りだと言う。
25歳の今は、もう騎士団を退団し、現在は討伐隊の隊長として、討伐に向けて日々訓練しているという。
「隊長さんって、忙しいんですねぇ」
ルーク様、無理して身体壊していないといいけど。
昔から、加減を知らないから、自分の気が済むまでやっちゃうんだよね。
でも、もう25歳なら大人だし、そんなこともないか。
わたしが納得していると、フランクさんは悲しげに言う。
「違うんですよ。まだ今は、討伐まで時間があるのでそこまで忙しくないのです。ルーク様が人を寄せ付けないのです」
これから、勤めていただくに必要な情報なので、と前置きした上で、フランクさんは語ってくれた。
ルーク様は、幼少期に婚約した子爵令嬢(つまり前世のわたしね)を事故で亡くして、とても気落ちしてしまっていた。
その事故の直後は、眠ることもできず、食事も取らず。
死んでしまうのではないかと誰もが心配したという。
ご両親もそんなルーク様を心配し、もう本館の方へ戻ってくるように言ったのだが、婚約者との思い出のある別棟から出て行こうとはしなかった。
そんな状態が何日も続いたある日、婚約者の兄、オリバーが屋敷にやってくる。
オリバーは、細やかにルーク様の世話を焼き、「ジーナが悲しむぞ」と、言葉を巧みに使って、なんとか食事を取らせ、眠らせることに成功した。
オリバーは事あるごとに屋敷を訪ね、時には妹のエマを連れてルーク様を励まし、これまでやってきたと言う。
エマは18歳の時に結婚し、結婚相手の領地へ行ってしまったので滅多にこちらへは来られなくなったが、オリバーは未だ独身で、討伐隊の副官となり、ルーク様の側に居てくれる。
婚約者のローゼリア様だが、幼い頃からの婚約者が事故で亡くなってすぐに、ルーク様の婚約者として名乗り出た。
しかし、ルーク様は首を縦に振らず。
だが、ルーク様が嫌がろうとも、英雄である以上、光の術者の婚約者は必要で。
他の光の術者を婚約者にしようとしても、王女殿下が婚約者となることを申し出ている以上、他の令嬢はルーク様と婚約することなどできず。
結局は、約4年の歳月をかけて王室がデイヴィス侯爵を口説き落とし、婚約を結ばせたと言うのだ。
「それでは、ルーク様のご意志は……」
「ええ。まったく反映されていない婚約ですね」
わたしが死んでしまったから、ルーク様にそんな辛い思いをさせてしまったんだ。
わたしは爪の跡が残るほど、手を握り締めた。
「フランクさん。では、もうすぐご結婚なさると言うのは……」
「ルーク様のご意志ではございません。本来でしたら、王女殿下のご結婚です。もっと早くにご結婚なさって日々、光の加護を与えてもらうはずですが、ルーク様が拒絶なさって婚姻に至りませんでした。実は、そろそろご結婚という話は、ここ3.4年ずっと言われていることなんですよ。ただ、親の証印で成立する婚約とは違い、本人の署名捺印がなければ結婚は成立しないので、まだ結婚に至っていないだけです」
「拒否し続けたら、なくなると言うことはないんですか?」
わたしの質問に、フランクさんは渋いお顔をする。
「外堀から埋められたら厳しいでしょうね。例えば、弟君の処遇やオリバー殿の処遇など、徹底的に王家に冷遇されるとなればらお二人の貴族としての生活は危ぶまれます。お二人を人質に結婚を迫られたら、心優しいルーク様は拒否できないでしょう」
「そんな……」
そう遠くない将来、ルーク様はご結婚されるというのか。
「……フランクさん。そんな深いところまで新人のわたしに話して大丈夫なんですか?」
わたしがフランクさんを心配してそう言うと、フランクさんはにっこりして答えた。
「ルーク様のお味方は少ないのです。ルーク様の婚約者が亡くなられて、心を閉ざしてしまいましたが、それ以前より心通わせていた使用人は、ルーク様を本心からお守りしたいと思っています。新しく入った侍女はわからない経路で王室と繋がっていて、王女殿下との結婚を早めるようルーク様に進言したりするのです。だからわたしは、ルーク様の味方になれるような使用人を探してきました。我々古参の者は、そろそろ年老いてきています。我々が居なくなっても、側にいてくれる使用人が必要なのです。ルーク様をお守りするのは大変です。色々なしがらみをお持ちの方ですので」
「だから、包み隠さず教えてくださるんですね……」
「そうです。この話を聞いても、ルーク様に仕えてくださいますか?」
わたしは満面の笑みを浮かべた。
「もちろんです」
だって、ルーク様をお守りするのは、わたしの切願なのですもの。




