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5

「ルーク様?」

 薄暗い部屋の奥へ進むと、ベッドの中に小さな塊を見つけた。


 とにかく、お日様の光が届かないところなんて、ロクなところじゃないわ。

 わたしはさっさと窓際へ行き、カーテンを全開にした。


 わたしの部屋のベッドよりもはるかに大きいルーク様のベッドにる近付き、丸まっている毛布をはいだ。


「うわっ! 何をする!」

 毛布の中から、まだ寝間着に身を包んだルーク様が現れた。

 まだ5歳の子どもの体は、小さく、ベッドが広く感じられる。

「もうとっくにお日様は上がっていますので、ルーク様を起こしにきました」

 ケロリとそう言うわたしを、ルーク様は睨みつけた。


「おまえには関係ないだろ。ほっといてくれよ」

「ほっとけません! だって、こんやくしやですもの!」

 わたしは両腕を腰にあてて胸を張った。

「……何が望みなんだ。侯爵家と縁続きになることか? それとも英雄を支える光に支給される金か?」

 寝間着のまま、ベッドにあぐらをかき、わたしを睨みつける。


「……侯爵家と縁続きになると、何かいいことがあるんですか?」

 わたしが首を傾げると、ルーク様はキョトンとした目でわたしを見た。

「バカか、お前は。いいに決まっているだろう。侯爵家の権力をお前も振りかざせるんだぞ」

「それの、どこがいいことなんですか?」

「え……」

 わたしたちは顔を見合わせる。


「だって、わたし、侯爵家の権力なくても今困っていません。お父様とお母様も別に困っていないようです。権力がなくてもちゃんと幸せに暮らしてます」

 わたしは今のままで満足だ。

 お父様がいてお母様がいて、お兄様とお姉様がいて、とても幸せだ。


「じゃあ、金か?」

「お金も……あればいいとは思いますけど、別に今以上にあってもどうってことはないですよね?」

 だって、わたしがもらえるおこずかいは、お父様が領地が潤っていると言っている時も、そうでない時もかわらない。

 わたしにとっては、あってもなくても同じだ。


 わたしがそう言うと、ルーク様は口をあんぐりと開けてこちらを見た。

「どうってこと、あるだろう。金があれば贅沢できるぞ」

「贅沢って楽しいですか?」


 世の中の贅沢とは、どんなものか想像してみる。

 豪華なドレスを買って、お城のような家に住んで、見たこともないような大きなお肉を食べる。


 ……うーん。

 わたしは別にドレス好きじゃないし、家も今の家で不都合ないし、お肉もそんなにたくさん食べたくない。すぐお腹いっぱいになっちゃうし。


「やっぱりお金いらないです」

「なんで!?」

 ルーク様は理解できないといった風に首を振った。

「じゃ、なんでオレなんかに構うんだ」

「それは、こんやくしやだからです。わたしたち、将来結婚するんです。仲良くしましょうよ。家の中で毎日ケンカとかって、イヤでしょう?」


 わたしの顔を見て、ルーク様はそのまま後ろにポスンと倒れ、ベッドに寝っ転がった。

「結婚をやめればいいんだよ。侯爵家の縁にも金にも興味がないんなら、こんやくしゃである意味がないだろ」


 ルーク様は腕を目の上に置き、わたしから表情を見えなくさせた。

 それがわたしには泣いているように思えて、靴を脱いでベッドの上に上がり、ルーク様の腕をどかして顔を見た。

「ルークさ、ま?」

 突然腕を触られてびっくりしたのか、ルーク様はわたしの手を掴むと、わたしをコロンとベッドに転がし、代わりに自分の身を起こした。


 急に寝っ転がってしまったわたしは、スカートがまくれてしまい、慌てて起き上がって足を隠した。

「ルーク様のエッチ」

 そんなには素足は見えていなかったはずだけど、最近覚えた言葉なので使ってみた。


「……は? ~~~!!!」

 ルーク様はわたしの足を見て、わたしの顔を見て意味がわかったようで、段々と顔を真っ赤にした。

 火傷に覆われていない部分はとても色白なので、赤くなったのがすぐわかって、見ていて面白かった。


「おっまえ! 淑女としての自覚がないのか!」

 顔を真っ赤にしているルーク様に、わたしはケロっと答えた。

「まだないですね。5歳なので」

「~~~!!!」

 ますます真っ赤になったルーク様は、何やら言葉にならない怒鳴り声を上げた。

 ……わたしはそんなの怖くないけど。

 ケラケラ笑っているわたしを見て諦めたのか、ルーク様はため息をついた。


「ほんとに、何しにきたんだよ……」

「仲良くなりにきました。将来結婚するのですし、仲良くしといて損はないでしょう? それに、わたしはお父様とお母様のように、仲の良い夫婦になりたいです」

「オレとか?」

「はい。ルーク様とです」

 わたしが素直にそう言うと、さっきまでの怒ったような赤い顔ではなく、照れているようにルーク様の目元が赤くなった。

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