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わたしたち一家は馬車から降りると、お兄様はお父様達を会場に案内をすると言って、式典ホールへと向かって行った。
お姉様は、わたしを一度教室へと案内してから、お父様達と合流するそうだ。
わたしたち新入生は、教室でクラスごとに並び、ホールへと入場する予定。
「ジーナ、こっちよ」
お姉様がわたしの手を引き、校舎の方へと歩き出した。
お姉様とわたしは同じ制服を着ているはずなのに、お姉様が背筋を伸ばし、前を向いて歩いている姿は、とても綺麗だ。
ん?
よく見ると、微かに胸もふっくらと女性らしくなっている。
ストーンと幼児体型なわたしも、2年後はこうなれるのかしら……。
「ジーナ、どうしたの?」
「いえ、わたしもお母様に似てきたかと、今日鏡の前で喜んでいたのですが、気のせいだったことが痛いほどよくわかりました。美人のお母様に似てきたというのは、あと2年早いみたいです」
「? へんなジーナ」
お姉様に連れられて、教室の前まで来る。
「ここが一年生のお教室よ。講師の先生がいらっしゃるから、それまでここで待っていてね。では、わたくしはジーナの晴れ姿を保護者席から見ていますからね」
わたしが教室に入る前に、お姉様はイベントホールの方へと行ってしまった。
お姉様ってば。
わたしが教室に入るまで居てくれてもいいのに。
ちょっぴり心細い。
そっと、ドアを開けると、制服を令息、令嬢たちがまばらに席に座っていた。
「ジーナ様」
声をかけられて振り向くと、アンリエル様が教室の端から駆け寄ってくるところだった。
「ジーナ様、どうぞよろしくお願いします。わたし、一人で心細かったのです」
くるくるとしている赤色の癖毛を揺らし、アンリエル様が頬を染めて微笑んだ。
ほう。
なんてかわいいんだ。
絵本で読んだ人魚姫が赤毛だったんだけど、アンリエル様は絵本に載っててもおかしくないくらいかわいい。
「アンリエル様、こちらこそよろしくお願いしますね」
二人で手近な席に座る。
キョロキョロと周りを見てみるが、ルーク様はこの教室にはいないようだった。
「ルーク様ですか?」
アンリエル様に問われて、わたしも少し頬を染める。
「ま、まあそうです。ルーク様もご入学されるはずなので、どこにいらっしゃるかと」
「お教室は他にも二つありますから、そのどちらかかもしれませんね」
その後、他愛無いおしゃべりをしていると、40代くらいの男の人が入ってきた。おそらく教師だろう。そして、その男の人はわたしたちを廊下に整列させた。
もちろん、親の爵位の順だ。
ゾロゾロと教師らしき人に先導されて、イベントホールまでやってきた。
壇上に向かって置かれているイスに、順次座っていく。
新入生の席の後ろには、保護者席があるので、お父様たちはそこに座っているのだろう。
壇上に教師が立ち、入学のセレモニーが始まった。
学園長の話から始まり、卒業までの6年間のカリキュラムなどが説明されていく。
わたしは話を聞きながらも、新入生の席を見渡した。
……ルーク様がいない。
三つあった新入生の教室にいた、全ての新入生がここにいるはずなのに。
この前、遊びに行った時は、次に会うのは学園でだなっておっしゃってたのに。
体調でも崩されたのかしら。
お屋敷に様子を見に行きたいけど、今日から寮に入るから、そうそう学園を抜け出してルーク様のお屋敷に行くことなんてできないし……。
ルーク様が心配で俯いていたわたしに、隣に座っていたアンリエル様が声をかける。
「ちょっと、ジーナ様。あれ、ルーク様ではなくって?」
えっ、ルーク様?
わたしが顔を上げると、壇上の学園長の隣にルーク様が立っていた。
仮面をつけて、制服をきちんと着こなし、壇上に立っているルーク様はとてもカッコ良かった。
学園長と二言三言交わすと、マイクの前に立ち、しゃべり始める。
「よく晴れた今日、この学園に入学いたしました。これより6年間、よく学び、成長して大きな人間になることを誓います」
短く、あっさりと言ったそれは、間違いなく新入生代表のスピーチだった。
「ジーナ様、ルーク様はとても頭がよろしいんですのね。入学テストをトップで入られたと言うことですわよね?」
ひっそりとした声でアンリエル様が耳打ちする。
わたしだって知らなかったわ。
家庭教師がいらしてたのは知っていたけど、たまにご一緒させていただいていたけど、見る限りあまり熱心ではなかったんですもの。
ルーク様に見惚れて、ルーク様が壇上を去られた後も、ルーク様を目で追って。
そうしてわたしの入学式は終わった。




