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「ど、ど、ど、ど、ど、どういうことですかっ!?」
「そこまでどもるようなことか」
「ことですよっ! 大役じゃないですかっ!」
「だから、できないと断っている」
「それでもダメなんですか?」
わたしの問いに、ルーク様は頭を抱えた。
「そもそも、オレが王族をすべて裁判に掛けて、権利剥奪をしたから、王族がいなくなったことが原因と言われた」
まあ、そりゃそうですね。
ルーク様は、国王、王太子、王女の3人の身分を剥奪し、平民と同等のものにした。
すでに他国に嫁いでいる王女と王妃は、国を越えてまで身分を剥奪しに行ったりはしないが、帰国したらこの地を踏んだだけで犯罪者だ。
帰っては来ないだろう。
我が国では、王家筋の公爵も、王城から居住を移すと同時に、王族ではないとみなされるので、一貴族でしかない。と、いうことは、国王に代わって政をするに値しないのだ。
「今まで国王の側近をしていた、大臣達ではダメなのですか?」
「今までの中枢に居た者は国王派がほとんどだ。賄賂をもらったり汚職があったことを理由に、みな別の派閥に蹴落とされている」
「じゃ、その別の派閥の人がやればいいんじゃないですか?」
「そいつらは経験が浅い。蹴落とすだけ蹴落として、責任を持つ仕事をする気概のないやつらばかりだ」
「そんな無責任な……」
だんっ!
ルーク様がテーブルを拳で叩く。
「オレがどれだけこの結婚を待っていたか知ってるか? 齢5歳で婚約してから、ずっとジーナと暮らすことを夢見てきたんだ! 一度は叶えられない夢と絶望したこともあったが、こうしてニーナと結婚できることになった。それなのに、まだ待つのか!? 22年待った。これ以上待てるか!!」
ルーク様の告白を聞いて、わたしの頬はぽーっと熱くなった。
「ルーク様、そんなに昔からわたしのことを……!」
「当たり前だろう。若い頃は素直に言えなかったが、オレはニーナを愛している! もうニーナの居ない世界では生きていけない。早く一緒に暮らしたい!」
きゃーっ!!
暑い愛の告白に、なんて言ったらいいかわからず、わたしは顔を真っ赤にして、テーブルに顔を伏せた。
「おいおい、ルーク様。ひとんちの庭で、うちの妹を口説くのはやめてくれないか?」
上から降って来た声に顔を上げると、お兄様が疲れた顔で空いている椅子に腰を下ろした所だった。
「すみません。素直な気持ちを吐露してしまいました」
「開き直るなよ」
「おかえりなさいませ、お兄様。今日のお仕事は終わったのですか?」
「ああ、なんとか終わって今帰ったところだよ」
お兄様が落ち着いたところを見計らって、離れた所に控えていたメイドがお兄様の分のお茶を入れに来た。
熱々の湯気が踊るティーカップをつまみ、お兄様はこくりと一口飲みくだす。
「あー、疲れた。今日はルーク様が休みだったから、その分の仕事もオレの方に回って来たんだぞ」
「そんな文句やめてくださいよ。決められた有給休暇を取っているだけなんですから」
「ま、そうだけどな」
ルーク様とお兄様は、討伐後処理のため、現在は王宮に勤めている。
文官として仕事をしているうちに、余儀なくされた人事異動などの後処理も回って来て、なんとなく、ずるずると中枢に組み込まれて行っているようだ。
「そろそろ、討伐で怪我をした兵の生活の心配もなくなってきたし、オレは王宮勤めを辞したいところなんだが」
「やめてくださいよ。義兄上が居なくなったら、オレが困るじゃないですか」
「いや、そもそも、オレは討伐が終わったら子爵家の領地経営をするから引退する予定で」
「まだミラー子爵殿はご健在なんですから、引退には早いですよ」
「あのなー。自分だって終わったらとっとと王宮から手を引くつもりのくせに、何言ってんだよー」
わたしの目から見ると、仲の良い兄弟が戯れあっているようにしか見えないけど、本人達は真剣らしい。
真剣に、どちらが先に退職するか見張りあってるみたい。
「こうなりゃ、いっせーのせで退職するか」
「あ、それいいですね」
「でも、いいのかよ。ルーク様は文官として勤めれば、平民になってもいい給料もらえるぞ」
「それは大丈夫です。今回の討伐の褒章で、王家が管理していた小さな領地をもらう予定があります。爵位のない者が統治するなど、ばかにされることもあるかと思いますが、義兄上のおかげで、ニーナと結婚することでミラー子爵家の後ろ盾をいただき、アロンからもデイヴィス侯爵家に後見してもらえる確約をとっていますので」
あら、ルーク様はいろいろ考えてくれていたのね。
そうか、領地がもらえるなら、平民でも準貴族扱いになるはず。
要は、多少の優遇はあるけど、わたしたちにかかる税金は高いということでもあるけど。
「それなら、いっせーのせ退職に踏み切るかー。いつまでもうだうだしてたら、沼から抜け出せなくなるからな」
「そうですね! そして、一気に結婚です」
「……ルーク様、あんまりがっつくなよ。クールな英雄に憧れていた娘たちに幻滅されるぞ」
「そんなことは関係ありません。結婚あるのみです」
お兄様は紅茶を飲み干し、わたしの目の前のマフィンをつまむ。
あ、ひどい! わたしのマフィン……。
「じゃ、いつ辞めてもいいように、書類をまとめとけよ。準備でき次第、退職届をた叩きつけてやる!」
「はい!」
男ふたりは、がしっと拳をぶつけ合った。
青春劇で見るあれだ。
わたしはひとりで、しらーっとお菓子を食べていた。
だって、この2人がそんなに簡単に辞められるとは思えないんだもの……。




