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あれから、わたしとルーク様は順調になかよくなっている。
でも、ルーク様を我が家に招待して、川で一緒に遊ぼうという計画は、達成できていない。
ルーク様のお母様が、ルーク様が屋敷の敷地内から出て行くことをよしとしなかったからだ。
だからわたしはルーク様のためにホットケーキ焼いて、持参するようにした。
なるべく家を出る直前に焼いて、温かさが残っているうちにルーク様に届けたくてがんばった。
初めてできたてホットケーキを届けた時、ルーク様は涙ぐんでよろこんでくれた。
「ルーク様泣いてるの?」と素直に口にしたら、ムキになって「泣いてない!」と言っていたっけ。
火傷跡も順調に減っていっている。
まだまだたくさん残っているけど……。
平和に時間が過ぎて行ったある日、わたしたち一家とルーク様一家はお城の王様に呼ばれた。
お父様とお母様は、王様とは直接言葉を交わしたことはないと言っていて、とても緊張している。
わたしは、王様と言ってもわたしには直接関係ないし、手足が2本ずつあるんだから人間でしょ? という感じだ。
おばけに会うなら怖いけど、人間なら怖くない。
お兄様お姉様とよそ行きのドレスを着て、謁見の間の赤い絨毯の上で跪いてる。
顔は上げられないけど、お父様の向こうにはルーク様たち一家がいる。
今日はお城に来るからか、ルーク様は包帯を頭から顔の左側にかけて巻いていた。
「顔を上げよ」
王様の声で、わたし達はやっと顔を上げることができた。
わたし達がいるところよりも数段高いところに王様は座っていた。
隣にはお妃様、そしてその隣に王太子様とお姫様二人が並んで座っている。
王太子様はうちのお兄様と同じくらいの年かしら。
お姫様も大きいお姫様はお姉様と同じくらい。
王太子様も大きいお姫様も、優しそうに微笑んでいる。
そして、最後に座っているお姫様が、ルーク様にバケツを被せたというお姫様だろう。
小さいながらもとても美人なのに、なんか残念な気分だ。
王様は口を開いた。
「デイヴィス侯爵、ミラー子爵、楽にせよ」
デイヴィス侯爵とお父様が、顔を王様の方へ向ける。
わたしはそっとルーク様達を窺い見る。
侯爵夫妻とルーク様、そして、夫人に抱っこされてルーク様の弟君がいた。
今日はルーク様は包帯を巻いてきたらしい。
「デイヴィス侯爵、子息ルークの状態はどうだ?」
「はい。このところは調子も良く、剣の鍛錬も師について教えを乞うております」
「そうかそうか」
うちのお父様よりも若い王様は、機嫌良く頷いた。
「して、ミラー子爵。娘ごはどうだろう。ルークを助けてくれる存在になりそうだろうか?」
お父様は緊張したお顔でお返事をする。
「はい。ルーク様と頻繁にお会いして絆を深めております。ルーク様が魔物討伐される際には、必ずや最大の加護をお渡しできるものと思っております」
「そうかそうか。それは安心だ。何十年に一度しか現れない魔物を討伐するのだ。しっかりと準備をし、あたってもらいたい。王太子アレックスの治世に移り変わる頃がその時だと思っている。ルーク、アレックスを助けて平和をもたらしてくれ」
「はい」
ルーク様は顔は上げているものの、何も感情を乗せていない目で王様に返事をした。
その後、お父様とお母様達だけ謁見の間に残り、わたしたち子どもは遊んでいていいということになった。
ルーク様の弟は、まだ1歳ということで、ルーク様のお母様に抱っこされたままで来られないが、わたし達兄妹とルーク様は、侍従に案内されて庭へと出た。
庭のガゼボには、すでにお茶の用意がしてあった。
テーブルの上には、色とりどりのケーキやクッキー、チョコレートなどがある。
わたしたち4人は、ひとまずそこに座った。
わたしとルーク様、向かいの椅子にお兄様とお姉様。
ルーク様は、席を立ち、お兄様とお姉様に挨拶をした。
「はじめまして。わたしはルーク・デイヴィス。ジーナ嬢の婚約者であり、将来は魔物討伐に行くことが決まっております」
綺麗な所作で、腰を折った。
お兄様はそれに応える。
「オレはオリバー・ミラー。こちらは妹のエマ・ミラーだ」
「よろしく」
お兄様とお姉様が揃って腰を折る。
「うちは子爵家だ。ルーク様の方が身分が高い。かしこまらずに楽に話そう」
「はい……」
居心地が悪そうに、ルーク様が小さくなる。
「ルーク様、ケーキ食べる? わたしが取ってあげようか?」
空気を和ませようとルーク様に話しかけるが、ルーク様は首を横に振って、紅茶にだけ口をつけた。
テーブルの周りにはわたしたちだけ。
使用人たちは、遠巻きにこちらを窺っている。
お兄様も紅茶を一口飲んで、ルーク様に話しかけた。
「ルーク様、包帯を取ることはできるか?」




