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ちゃうねんシリーズ

子犬を拾ったら最強の魔王になっていた。ちゃうねん、ペットのつもりやったねん

作者: どじょっち

「人間を拾ったら魔王になっていた。ちゃうねん、娘が話を聞いてくれんねん」の続編です。先にそちらをお読みください。

 俺の名前はアモン 。

 魔界が誇らない雑魚魔族であり、何故か魔王をしている。 

 これも全て勇者である娘のノエルが原因だ。前魔王を瞬殺する実力を持ちながら、俺をそれより遥かに上の実力者と勘違いしている。さらにいくら訂正しても「謙遜するところも素敵です!」とまともに取り合ってくれない。

 周りの奴らもノエルの影響を受けて俺を崇めているが、自分以上の実力者しかいない魔王城で玉座に座っていると生きた心地がしなかった。


 今のところ勇者であるノエルがこちらにいるため人間達に動きはないが、伝説の神獣などを捉えて攻め入ってくる可能性もあり、不安で胃薬が手放せない。


 ペットでも飼って癒されたいなぁ。


「アモン様万歳!」

「痺れるような圧だぜ!」


 ここは魔界にある小さな町。

 多くの魔族が視察に来た俺とノエルを一目見ようと集まっていた。

 胃がたまらなく痛い。 


「やっぱりこれだけ注目を集めるのは慣れないな……」

「大丈夫ですかお父様? 許可さえいただければ全員黙らせますが」

「ノエルや。何もしないでおくれ」


 命令すれば何でもしてしまいそうな娘が怖い。

 どこで育て方を間違えたのかなあ……。


「この馬鹿がああああぁぁっ!」

「?」


 怒鳴り声が聞こえる。

 見てみると何やら見覚えのある姿が。


「お前は!」

「ん? おぉ新たな魔王ではないか」


 元四天王ザガン。

 ノエルに敗北し四天王の座から失脚したがこの町にいたのか。

 だが鎧の上からエプロンを着けているのはどういうことだ?


「我輩はそこの娘に敗れてから肉屋を始めたのだ。なかなか一方的にいかんのでやりがいがあるぞ」


 切り替え早すぎへん? 

 とりあえず第二の人生を楽しんでいるみたいで何よりだ――って!


「おい、それは!」


 ザガンの足元で子犬が血まみれで倒れていた。

 銀色の毛は赤く染まり、各所を殴られ、弱り切っている。


「これか? 肉を盗もうとしておった不届き者に裁きを与えていたのだ。この後解体して家畜のエサにするつもりだ」

「やりすぎだ、それぐらいで許しやってほしい」


 確かに非はあったのかもしれないが、ここまでする必要はないだろう。

 だがザガンは徹底的に子犬を痛めつけなければ気が済まないらしい。

 どうしようかとノエルに視線を向ける。


「はいお父様」

「なんだ? んぎょええええええ‼」


 ノエルは背後からザガンの腰をクラッチ。空中に飛び上がると体をそり返し、脳天を地面に叩き付けた。

 ザガンは痙攣して動かなくなった。


 ちゃうねん、ノエルが勝手に――まあザガンならええか。


「すぐに治療しよう」


 腰を下ろすと子犬はうなり声をあげ、こちらを威嚇する。

 その瞳には恐怖がありありと浮かんでいた。


「大丈夫だ、俺は敵じゃない――っ‼」


 いてえ! 指噛まれた!

 引き離そうそうとするも、石の様に動かない。何て馬鹿力‼


 だがすぐに噛む力は弱まった。どうやら気を失ったらしい。

 あれだけの力で噛まれたのに、幸い指は出血もしていなかった。


「お父様が敵じゃないことがわかって安心したのでしょう。すぐに手当てします」 


ノエルはすぐに子犬の治療に入った。勇者の力って何でもできそう。


 俺は慌てて集まって来た住民たちから消毒やら包帯やらでもみくちゃにされた。

 ちゃうねん、傷できてないねん。多分甘噛みやったねん。


「さすがアモン様。自身の身を傷つけてまで子犬を宥めるとは慈悲深い!」

「ノエル様はあのザガンを瞬殺するなんて相変わらずすげえ力だ!」

「結婚してくれー!」

「笑止。私はお父様と結婚するのです」

「ノエルや。さりげなくとんでもないこと口走っていないかい?」


 ノエルが返事をすることはなかった。 


 しばらくしてノエルの腕の中で子犬は寝息を立てていた。

 治療のおかげで命に別状はないとのこと。

 

「この子はどうしましょう?」

「城に連れて帰る。この子が嫌がらなければペットにしよう」

「はい!」


 なんだかノエルが嬉しそうだ。

ペットを飼うなんてできなかったから、憧れがあったのかもしれない。

俺も癒されるし一石二鳥だな。


 その後、ザガンにやりすぎないよう注意してから魔王城へ戻った。


――――

――


「ポチ―! ご飯の時間ですよー!」

「ワン‼」


 庭園を駆けまわっていた子犬が尻尾を振りながら走って来たかと思えば、そのままノエルに飛びついてぺろぺろと頬をなめ始めた。


「あはは、くすぐったいですよポチ」


 拾った子犬にポチと名付け、世話を始めてから数日経った。

 死にかけていたポチはすっかり元気になり、城内を走り回れるほど回復した。この回復力には目を見張るものがあるな。

 活発に動き回る姿はとても愛らしく感じる。


 だが城のほとんどの奴らはポチのことを良く思っていないらしい。

冷たく当たられ、しょげているところもよく見たので、そういう時は精一杯かわいがってやった。


 そのため俺とノエルにはべったりなのだが、他の魔族にはうなり声を上げて近づけさせようとしなくなってしまった。


「ワン!」

「うわっ」 


 不意に飛びかかって来たポチを受け止きれず草の上に倒されてしまった。ノエルが遠くでくすくすと笑っている。

 胸に頬ずりしてくるポチの頭を優しく撫でてやった。


「俺も弱者だからお前の気持ちは良くわかる。虐げられ、罵られ、嘲笑われ、踏み躙られたり色々なことがあった。――だがそんな俺にも守りたい者ができた。お前もできれば一緒にあいつを守ってくれ」

「ワン!」

「二人で何を話しているんですか? 私も混ぜてください」

「秘密だ。なぁポチ?」


 ポチは返答代わりに元気よく吠えた。

 本当にかわいい奴だなぁ……。


「見るに堪えがたい。強者である魔王様が弱者と慣れあうなど」


 誰やそんなこと言う奴は?

 

 起き上がって見てみると、そこには庭園に相応しくない予想外の大物が。


 四天王マスター。

 青い骸骨が甲冑を被ったような姿をしており、多彩な剣術の使い手だ。目にも止まらぬ動きは分身となり相手を翻弄する。

 しかしさっきの発言からも分かる通り、弱者を徹底的に見下す傲慢な性格の持ち主で、評判はよろしくない。


「どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だよ、弱者と戯れていては強者の威光に傷がつくと言うもの。己はそれが許せぬ、強者は強者と磨き合えばいいのだよ」


 あんまりな物言いにかちーんときた。

 さすがに一言文句を言ってやろうと袖を捲るが、ノエルに手で制された。


「貴方は一つ勘違いをしています。ポチは弱者ではありません」

「戯言を。己には弱者にしか見えないのだよ」

「ならば戦って見ればいいでしょう」

「何?」


 え? ポチ戦わせるん? 無理やろ、子犬やで?

 舌出してはぁはぁしてる子犬やで?


「ご安心くださいお父様。ポチは必ず勝利します」


 安心できるか!

 こんな馬鹿げたこと止めさせなくては。

 だがポチは勇ましく俺の前に出て、マスターと向かい合う。


「ポチ!」

「ワン!」


 あれ? ポチがなんか光っているぞ?


 大きくなり、立ち上がって――げーっ‼ ポチが人間の姿へ変わった⁉


 いや、頭から犬の耳が生えているから一応魔族なのか?

 というか、ただの子犬がどうしてこんなメイド服を着た銀髪の美少女になるねん?


「――神獣フェンリル。ポチはその末裔なのです。子犬に変身して正体を隠していたのですよ」

「なんと。勇者と同じく魔族の天敵とされるあの神獣か……! よもやこのような姿であったとは……」


 マスターと同じく俺も狼狽えた。

 伝説の神獣が子犬でメイドさんなんて誰も想像できへんやろ。


「お父様は一目でポチを神獣だと見抜き、保護したのです。私が気づけたのはつい最近だと言うのに、流石はお父様」


 ちゃうねん、ただの子犬やと思ってたんねん。


 ポチはこちらに振り向くと、安心させるように微笑んだ。


「主、任せて。私、勝つよ」

「あ、ああ……がんばれポチ」


 ポチは頷いて再び前を向いた。

 スカートから出ている尻尾がものすごく揺れている、喜んでいるのか?


「神獣であろうが関係ない。自身の弱さが敗北させるのだよ!」


 立ち直ったマスターは剣を構えると、すぐさま三人に分身しポチに飛びかかった。

 多方向からの同時攻撃だ、俺には全く見えない。

 しかし、ポチは身体を逸らすだけで斬撃を難なく躱す。


「遅い、はむっ」

「ぐっ!」


 ポチがマスターの剣に噛みつくと、まるでガラスの様にあっけなく砕け散った。

 マスターの顔が驚愕で歪む。


「神獣フェンリルの牙は魔族にとって致命的です。低級魔族であれば噛まれただけで消滅すると言われています」


 俺は甘噛みされたから大丈夫だったんだろうなぁ……。

 だがあの時死んでいたかもしれないと思うと、ちびりそうになった。


「お……うぉぉおおおおおおおおおおおおお‼」


 マスター剣を投げ捨て、なりふり構わず殴りかかっているがポチは軽くそれをあしらっていた。


「素晴らしいですポチ。お父様が側近に選んだだけのことはありますね」


 ノエルが嬉しそうにしている。


 せやけどポチは側近やなくてペットのつもりだったんやで?


「底は見えた。とどめ」


 ポチはマスターの頭を掴んで空中に放り投げると、自身も飛び上がり体勢が逆さになったマスターの腰を背後からクラッチ。そのまま急降下して、脳天を地面に叩き付けた。


「うぼあっ‼」


 マスターは血を吐きながら地面に倒れ伏した。


「……お前が強かったのではない……己が弱かったのだ……! ガクッ」

 

 ひどい言い訳だ。


「主!」


 ポチは動かなくなったマスターを蹴り飛ばし、こちらに抱き着いてきた。


「主、私頑張った。褒めて褒めて!」


 子犬の時と同じように俺の胸に頬ずりしてくるポチ。

 姿が変わってもかわいいなぁ。なでなでしてやろう。


「えへへ~主の手、優しい。大好き」

「むぅ……」


 頬を膨らませるノエルから何やら威圧感を感じ、冷や汗が出始めた。


 これが圧か……初めて感じたわ……。


 怖くなったのでノエルも一緒に撫でてあげると、圧は消えた。


――――

――


「ポチ、お父様を神にするため一緒に頑張りましょう」

「主、神に相応しい。私、何でもする!」

「やめて」


 勇者に続いて神獣まで従えるようになった俺の名はさらに広がり、史上最悪最強の魔王として後世語り継がれることになる。


 ちゃうねん、ペットのつもりやったねん。


続編ができました。タイトルは「姫を倒したら神になっていた。ちゃうねん、転んだだけやねん」になります。

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