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松浦はつまづくくらい前屈みになりソリを引く。何も考えられなくなる。ただ足と身体を前へ。

道路を斜めにこんもりとした雪が積まれてる。ここでも雪崩が起きていた。三人は足を止める。

佐々木が怒鳴る。風が強くて、お互い怒鳴らないと会話が出来ない。

[あの木をどかせ。いや、あそこから行けるぞ]

なんとか通れそうな場所から無理やり通る。

風の音と自分の息切れの音。世界は二つの音で成り立つかのように思えた。そこに公衆電話が視界に入った。松浦はフェンスの向こうを覗く。やはり飛び降れそう。

下はなだらかな芝生だったはず。その下が少し急な斜面で道路。道路の向こうに屋根が並んでる。

松浦は記憶を確認する。大丈夫。間違いない。


[どうする?]

松浦は佐々木に聞く。

[やるしかないだろう]

松浦は答えた。眼下に民家が見えてるのだ。この先に雪崩で通れないかもしれない。

松浦とユウキがフェンスによじ登る。幸いにも積雪で高さは佐々木の身長より少し高いくらい。

下から佐々木がアユミを持ち上げ松浦とユウキがアユミをフェンスの上に上げ乗せ支える。

[布を外すように転がせ]

佐々木が登りながら言う。

[よし、降ろすぞ。気をつけろ]

松浦はユウキに声をかけアユミを離す。

布がほどけながらアユミは回転しながら落ちる。落ちた瞬間、松浦とユウキは飛び降り坂を転がっていくアユミを抑える。急いでアユミに布を巻き付ける。


三人共喘ぎ声。それでも身体を動かす。

ソリは無いが坂なのでいくぶん楽。だが気休めにもならない。

三人でアユミを抱えるように運ぶ。道路を超える。民家の入れそうな窓。佐々木が窓を割れと言う。足で蹴る。ガラスに気をつけながら中に入る。


全員転がる。松浦は疲労で足が動かない。

[何でもいい。燃やせ]

ユウキが素早く動く。鍋の中に紙を燃やす。カレンダーを。雑誌を。佐々木が椅子を壊す。

[風呂場どうだ?そこに火を]

松浦は無理矢理身体を起こし風呂場へ。脱衣所の洗濯機の中の服を風呂桶に入れて火をつける。

その上に鉄パイプの丸イスを乗せる。

洗濯機と棚を押すように玄関へ移す。押入れから布団を取り出し脱衣所に敷く。

手袋がもどかしく外す。


[こっち寝れる用意出来た]

松浦は息切れしながら叫ぶ。

[ユウキ、そっち持て]

佐々木の声が聞こえる。

松浦はやる事を探す。ここで休んでしまうと二度と動きたくなくなる。佐々木はお湯を沸かしてるはず。足りないと思う。

カーテンを引きちぎり風呂桶に入れる。

お湯を沸かす大きな鍋か何か。台所にある鉄製の棚。中身をどかす。仕切りも外す。風呂桶に収まる。割れた窓は本棚で押さえてあった。どかし雪を洗濯カゴに入れて風呂場へ持ってく。


手の感覚が麻痺してる。手袋が見当たらない。知ったことじゃない。

佐々木がアユミを脱がしてる。一瞬、見入るが我に返る。布団や毛布を運ぶ。

[靴下を]

[分かった]

佐々木の声にユウキが返事。

[俺がやる。ユウキは服を着替えろ]

松浦は靴下を探しに行く。靴下の入った棚ごと運ぶ。そこで松浦は限界だった。

崩れるようにうずくまり[佐々木も着替えよう]と言った。佐々木がうなづく。


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