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松浦は機械室から声をかける。

[住んでますよ]

少しして焼却炉の向こうから四人が現れた。

[薬有りますか?]

女の人がすぐに声を返した。

[消毒薬とバンドエイドなら]

[消毒薬と食料交換しませんか?]

消毒薬なら業務用でたくさんある。松浦は大きくうなづいた。

女の顔は帽子を深くかぶっていたからよく分からなかった。

[どうやって交換します?]

女の子は言った。松浦はロープを指差した。

焼却炉の燃えカスをかき混ぜるクレーンにロープを張った。向こうから必需品を運ぶ為に作った運搬用。

松浦は消毒薬を取りに行きそこでまた悩んだ。どれくらいの食料と交換するか分からない事に気付いた。だが消毒薬の量を見て[別にいいか]とつぶやいた。


二リットル入り消毒液。まだ十一本あり、松浦は一度も使ってなかった。一本だけ持ち、運搬カゴに入れてロープを引っ張った。


[そのカゴに食料を入れて帰ってください]

と松浦は言ったが、何故か女の子が運搬カゴに乗ろうとしていた。

[ちょっと待って。君は要らないよ]

松浦の言葉に男が初めて声を出した。

[こんなに貰えるとは思ってなかったから見合う食料はないよ。せめて女の身体をと思って]

松浦は罠だと勘ぐる。

[要らないし、それタダであげるから帰ってください]

[いやいや、そうわけにはいかないよ。この無秩序な世界だからこそ礼儀は必要だからねぇ]

男の優しい言い方が嘘を真実にしていた。

[乗ってもいいけれどロープ切りますよ]

女の動きが止まる。その後に沈黙。


[他に仲間は居るのかな?]

男は変わらず優しい声で語りかけた。

[居ますよ。何人も]

松浦の言葉はすぐにウソだとバレる言い方だった。

[なら、他の人と変わってよ。君以外と交渉したい]

男は笑ってから言った。明らかに松浦を馬鹿にした笑い方だった。松浦は腹を括った。ロープはまた作り直せばいい。また鉄板を持ち上げればいい。

松浦は何も答えずピンと張ってあるロープを次々と切った。運搬カゴが音を立てて下に落ちた。


[テメェ]

優しい口調だった男がヤクザのような声になり松浦を恫喝した。

[ぜってぇ、殺してやる。食料要らないって事はあるんだろ。仲間もいない。それでよく生きてこれたな]

違う男も大声を上げた。

[ミミズみたいにずっと隠れてたんだろ?ゴミと一緒に]

他の男が言い、男達が嘲笑う。

松浦は何も言わなかった。

[どうした?早く食料もよこせ]

[それよりも、ここに住もうぜ]

[ゴミの中は嫌だよ。さすがに。俺たち人間だぜ]

男三人は口々に悪態をついて笑い合う。

[下を覗いてみなよ]

松浦は言った。

[え?聞こえないぞ。ビビってるのは分かるが]

また笑い声。

[下を覗けよ]

松浦は怒鳴った。

男達は下を覗く。その瞬間に松浦は残りのロープを切った。焼却炉の入り口の鉄板が大きな音を立てて入り口を塞いだ。

[おい。テメェ。ふざけるな]

男三人で鉄板を持ち上げたり押したりするがピクリとも動かない。四人の居場所は狭い。横二メートル半。そして一メートル先は深い焼却炉の穴だった。



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