.44
このまま太陽は昇らないんじゃないか?と錯覚を起こすくらい時間が過ぎるのは長く感じた。いつもより多く火を炊いた。建物が崩れて全て無くなるなら暖にした方がいい。四人身を寄せ合って座る。松浦がイビキをかき始める。
[こういう強さが欲しいわね]
アユミが悪態をついた。ユウキがしがみついてくる。アユミは抱き締める。
[寝れるなら寝ときなさい。松浦の強さは見習うべきよ]
アユミは自分自身にも言い聞かせるようにユウキに言った。佐々木が[俺が起きてるから]と言う。アユミは目をつぶった。ウトウトと寝たか寝てないのか分からない時間を過ごす。
佐々木はゴソゴソと荷物を外側に置いている。いつでも逃げ出せる準備だ。
アユミは車の中で寝ている夢を見た。大晦日の夜中。飲み屋での仕事が終わりオーナーのBMWでベイブリッジの日の出を見に行った時の夢だ。他の女の子も一緒で広いはずの車内が窮屈だった。それでも橋から見えた朝日は綺麗だった。それが夢の中では、隣に座っていた女の子がゾンビになっていた。殺される恐怖で逃げようとするが狭くて動けない。その女の臭い息の匂いと口の中の血と白い歯がやけにリアルだった。その綺麗な顔から食ってやる。女が言った。そこでアユミは目が覚めた。
隣でユウキが寝ていた。松浦は寝ころがっていた。佐々木は居ない。
ソッとユウキから離れ佐々木を探す。
外は少し明るくなってるものの、夜と同じ吹雪いている。
多分、佐々木は外。
出ようとしたが、アユミは汗をかいているのに気付く。このままだと間違いなく風邪をひく。
ユウキも汗をかいていた。
火を弱くするか考えたが佐々木を思いそのままにする。
火の入った缶を持ち室内の崖側を見に行く。
応急処置で机で防いでいた箇所が凍っている。天井にも亀裂。夜は亀裂が入っていたか定かではない。亀裂の先を覚えておく。それ以上亀裂が入ったら損壊の可能性が高くなる。アユミは壁の亀裂の先にペンで印を付けた。