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恋人や恋愛やらの人間関係になると必ず安定は破綻する。だから家族関係に持ち込むのが一番いい。ただ馴れ合いになればなるほどワガママになる。それだけは気をつけなければならない。
アユミは自分を戒める。一番最初にワガママになるのは私だと。所詮は赤の他人。家族ゴッコだ。
[どうだったの?]
[住もうと思えば住めるな。下に楽に降りられるようにしたいが。さてどうしたもんか]
[せめて双眼鏡あればいいんだけどね]
[売り場にありそうじゃない?]
[食器とかたくさんあったよ]
[洗剤がたくさんある]
[使えそうな荷台がある]
三人が色々と言い合ってる間に松浦が起き出してきた。
[出来の悪い兄貴]
小声でユウキがアユミに言う。アユミは笑う。
[皆、元気いいなぁ]
松浦はまだ眠り足らないみたいだった。
[足洗いなさいよ]
アユミは促す。松浦はその言葉に従う。
[多分、この先が下り坂で降りきった所に下に降りる道路がある。そこを封鎖しとかないとゾンビがやって来る]
松浦は足を洗いながら言った。
[なんで知ってるの?]
アユミが聞いた。
[ここで働いてた事があったから]
[なんで辞めちゃったの?]
ユウキが余計な事を言った。松浦は黙ったまま。気まずい雰囲気。
[きっと暖かい所が好きなのよ]
アユミは話を誤魔化す。松浦はイヤな事があって辞めたのだ。容易に想像出来る。
[なんで?]
当然、佐々木も気付いてるのでアユミに合わす。
[だって焼却炉ってずっと燃えてるんでしょ]
アユミは松浦の肩を軽く押す。松浦はあいまいにうなづく。
[暖かいどころか燃えちゃうじゃん]
ユウキだけ気付かず素で答えた。
[大丈夫。松浦は燃えないからね]
アユミは冗談で繋げる。
[なんでだよ]と松浦。
それでも一度沈んだ空気はなかなか軽くならない。アユミはため息を一つついてから、
[今回のメンバーが一番いいね]
と言った。松浦が振り返ってアユミを見た。