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夕暮れになり群がっていたゾンビがバラけ始める。
ゾンビは暗くなると捕食を辞める。
佐々木はアユミと松浦の足の具合を見てから言った。
[ユウキ、行くぞ]
ユウキは黙って立ち上がる。アユミが腰を上げて、私も行くわ。と言った。佐々木はアユミを見て[逃げやしないさ]と答えた。アユミは座った。
二人が降りて行くのを見てからアユミが松浦に言った。
[どちらかが病気になったら佐々木は私達を見捨てるわ]
松浦は驚いた。
[そんな事は]
[するわ]
松浦の言葉をアユミは遮る。松浦は今まで一度たりとも病気になった事はない。下痢くらいか。
松浦は不安になり自分の足の裏を見る。もう一度洗う。アユミも足を洗った。
松浦は佐々木が居なくなったらどうしたらいいかを考え始めた。
この町に住んでいたから地理は分かる。
どこに住むのがいいのか。町中はダメだ。近くに高台の高速道路がある。そこから少し歩くが小さなパーキングエリアがある。ゾンビが居ない可能性が高い。
どこから登れるかも分かる。階段が壊れてなければの話。
高速道路が見えるかどうか立ち上がる。ここからは見えない。
アユミが、どうしたの?と聞くが、いや。と答えた。
佐々木が中腹から声をかけた。
[大丈夫だ。降りれそうなら降りてこい]
アユミはシャツを脱ぎ足を包めた。ブラジャーだけの上半身は擦り傷や土でまみれていたが女の身体だった。松浦は勃起した。そのまま松浦もシャツを脱ぎアユミの真似をした。足が痛くてキツくなる度に松浦はアユミの半裸を見て山を降りた。
佐々木とユウキは使えそうな物をどんどん屋上に投げている。二人の顔と身体はススだらけで黒い。
屋上のコンクリは暖かい。アユミと松浦は寝そべった。
松浦はアユミのお腹が呼吸で動いてるのに見入る。アユミは見られてるのに気付いていたが松浦の好きにさせた。
佐々木が上がってきてアユミに布をかけた。松浦にはなかった。松浦はアユミの言葉を思い出したから言った。
[ここからは見えないが近くに高速道路がある。少し歩けばパーキングエリアがある。そこなら大丈夫だと思う]
佐々木に見捨てられる可能性を減らしたかった。
[上がれる場所は近いのか?]
[階段の場所も分かる。壊れてなければ]
佐々木の質問に松浦は答えた。
[どこだ?]
[俺達を見捨てないなら教える]
松浦は佐々木の顔を見て言った。佐々木はすぐに答えた。
[見捨てるワケがないだろうが]
しばし沈黙。
[三日で治そう]
佐々木が沈黙を破った。
それから三日間、屋上で過ごした。
佐々木だけが動いた。魚を獲ったり、まだくすぶってる焼却施設に入ったり。