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女の子はあの男が覗いてもいいようにわざと風呂のドアを開けっ放しにした。
別に見られてもかまわない。むしろ身体目的なら好都合だった。
水が透明で綺麗だった。熱いに違いない湯気。たっぷりの湯船に浸かる。身体全部の細胞が喜びの悲鳴をあげた。物凄く気持ちいい。何年ぶりだろうか。
女の子は湯船の中で目を瞑り風呂の気持ち良さを充分堪能してから男の事を考えた。
リュックの中身を確認しないあの男は馬鹿なのか?
きっとあの男はずっとここに隠れていたのだろう。甘過ぎる。いや、でも。軽々に決め付けは良くない。
あの三人よりこの男に付いた方が得策だと、あの男がハシゴを外した瞬間決めていた。
ただ三人を飢え死にさす男の気持ちには怖れがある。ガソリンも躊躇する事なく三人にかけた。あの本気の目と態度。
昔だったら確実にカモの一人だった。
女の子はこの世界になる前は一流のホステスだった。水商売を選んだのはお金が目的よりも、お金持ちの社長や年上の男との駆け引きが面白く得意だったからだ。足を引っ張りあうのが当たり前の同じ店の女相手ですら上手くコントロールしていた。
それに比べあの男はチョロかった。チョロ過ぎた。
女を抱きたいのに抱けない弱虫だった。
だが。それでも、あの三人への態度や、ゾンビを淡々と刺し続ける行為は弱虫には決して出来ない。