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幼馴染との決別

 ある意味良いタイミングで登場する先生だな。


 一瞬計算してるのか? と疑問に思うが、どこかずれたところのある人だ。奇跡的な偶然が重なっただけだろうと思い直す。


 それにしても留学ねぇ……。


 この時期に留学生が来るなんてありえるのか? 


 そもそも東方に島国があるなんて話聞いたこともない。


 俺が無知なだけかもしれないが。


 生徒達も不自然に感じている――なんてことはなく、「性別は何ですか?」や「俺のレーダーが反応しない……だと!? さては男だな!」更には「イケメンが良いな……」と希望的観測を述べる者など、興味津々のようだ。


 一人意味わからん奴いたし、ホント能天気な奴らだ。そんな風にずっとバカ騒ぎしてると良いさ。


 ……ん? 気のせいか? 心なしか、リラの俯いた横顔に焦りの色が見える。


 おいおいどうした……。急に汗なんて掻いてよ。


「静かにー! このままじゃ、いつまでも入ってこれませんよ。私に聞くよりも、実際に目で見て判断してください。では、入室して良いですよー」


 先生は、ざわざわと騒がしかった生徒達を静かにさせると、教室の扉の前にいるであろう留学生を、少し大きめの声で呼んだ。


 扉がスライドされると、この学園の白を基調とした制服に身を包んだ男子生徒が現れ、教卓より前に来て止まった。


 なるほどなぁ。そりゃリラも焦るわ。


 よりにもよって会話の渦中である人物が、この流れで来るんだからよ。


 にしても妙だな……。確か、休日出会ったばかりと言ってた筈。


 それなのに、リラのこの反応からすると、学園に通うことを知っていたみたいじゃないか。


 昨日のうちに、リラが留学生に王都の案内を頼まれ、学園話で意気投合した。普通ならこれが自然だろう。


 それなのに……何か引っかかる。


 …………で? 引っかかるからどうしたんだよ俺。何だか急に興味が失せた。


 もう、いいか……。こんな俺に関係ない話。続けるのもアホらしい。


「初めまして、オレはアイ――アカシ・アイザワだ。この国のことは何もわからない。良ければ、色々教えてくれると助かる。これからよろしく」


 言い直したな。普通ファーストネームとファミリーネームを言い間違うか? 緊張は見られない。それとも島国とやらは逆の名乗り方とでも?


 ただ一つだけ確実なのは、アイザワの容姿を見知って、どこそこで騒ぐ連中が大量発生するということだ。手始めにここか……。


 俺はサッと耳を塞いで、危機への防衛行動を速やかに開始した。


 次の瞬間、教室の窓が音の振動により、壊れそうになるほどの大声量が響き渡った。


「キャーーーーー!! 黒髪の王子様よー!」

「あの黒い瞳に吸い込まれそう……」

「イケメン……だと……。ふざけんなー!!」

「雑魚であってくれ。そしたら俺達が……」


 声量化け物共が……。耳塞いでもうるさいとはな。有名な大会の歓声みたいに暴走しやがって……人の耳を破壊する気かよ。


 しかし、その騒ぎは突如として収まる。教室内は、凶悪犯に人質とされたように大人しくなった。


 原因は――もちろん俺だ。俺が教室中に、威圧を撒き散らした。


 あー五月蝿かった。屑共の分際で一丁前に騒ぎ立てるな。そんなに騒ぎたいなら廊下か屋上で叫んでろ。もしくは、赤ん坊のように母ちゃんの前でオギャアオギャア言ってろよ。


「し、静かになりましたね……。では、質問タイムです。ただし、先ほどのようになって、アイザワ君を困らせたり、騒いだりしないでください。では、アイザワ君が指名してあげてください」


 全員俺の威圧に気圧された中、先生が先生らしく生徒達に忠告して質問タイムへ移行した。


 ――彼女はいますか? いない。

 ――好きなタイプは? 物事をハッキリと言ってくれる人。

 ――得意な魔法は? 実は、島国では魔法を教えてくれる人がいなくて、それで留学したんだ。

 ――東方の島国って何が有名ですか? え、えーと。……和風料理かな。


 こうして質問は進んでいるが、アイザワって正直おかしい。


 つまり、だ。アイザワいわく、東方の島国は魔法使いがいない、もしくは教えないケチの巣窟というわけになる。


 しかも、質問に対する答えも考えついたのを、そのまま言葉にしてる感じだ。本当に東方の島国からの留学生なのか? 


 まあ、今は詳しく詮索するつもりはない。関わりたいとも思わないしな。


「あれ……? リラ、リラじゃないか! それに、ミシェルにサラも!」


 は? リラだけじゃないのか? 


 アイザワが、三人の美少女と既に関係があると判明して、クラスは再び大騒ぎとなった。


「俺達もファーストネームで呼んだことないのに、ぽっと出のアイツが何で……」

「サーファ君から乗り換えたのかしら」

「サーファ君も弱々しさがなくなって格好良くなったけど、恐いし当然よね。アイザワ君の方が爽やかで格好良いから……」

「はぁー。アイザワ君狙ってたのにー」

「あの三人じゃ流石に……ねー」


 好き勝手言ってんなー。聞こえてるから。


 女子の中では、もう俺は過去の男で、三人はアイザワハーレムだと思われてるみたいだ。


 まあ、そんなことはどうでもいい。さて、当の本人達はどう反応するつもりだ。


「こんな目の前にいたのに。緊張で気づかなかったよ」


 アイザワが、俺達の机の前まで来ると、リラに親しげな感じで話し掛けた。


 対するリラは「え、ええ。そうね……」とよそよそしく答えると、何故か俺の方を向いた。


 いやいやいや。ちょっと待て。そこで俺を見る必要ないだろ。


 俺を君らの関係に巻き込むのはやめてほしい。


「君は確か、昨日の……。リラの幼馴染なんだよね」


 ほら見たことか。お前もお前だ、俺のことなんて忘れとけよ。つい舌打ちしそうになったぞ。というか、勝手に俺の話するとか意味不だ。


 俺はリラを横目で見るが、すぐにふいっと逸らされた。


「リラにはお世話になりました。君もオレと仲良くしてくれるかな?」


 俺はリラの保護者じゃないのだが。それにしても、爽やかな人懐っこい笑顔をする奴だ。こりゃあ、自称――私、顔基準じゃないわ的な女子が、真っ先に惚れそうだな。


 さりげなく手を差し出して握手を求めてくるが、絶対無理だ。


 鳥肌が立つ。コイツといれば、間違いなく面倒な奴が多く絡んでくるだろう。


 それに感覚でわかる。コイツと俺は根本的に合わない。


「ごめんだが、よろしくするならリラとだけご勝手にどうぞ」


 俺は手を握ることはせず、手を組んだまま冷たく言い放った。


 周囲からは「何あれ、嫉妬かしら」やら「アイザワ君が話し掛けてくれたのにー」などの声が耳に入るが、俺は……。


「黙れ屑共。お前らのような人間の屑に言われたくねえよ。その汚い口を閉じなきゃ、二度と口が開かないようにしてやる」


 俺の脅し文句に、騒いでた女子は、口を固く閉じざるをえなくなった。


 弱いのに吠えるからだ。そのまま青ざめて怯えてろ。


「何でそんなこと言うんだい。皆で仲良くしようよ。今のは君が悪いから謝らなきゃ。それに女の子に強く言うのは駄目だ」


 はぁ? 部外者が口挟むなよ。


 俺に敵意向けた時点で、女も男も関係ない――等しく同じ穴のむじななんだよ。


 お前に諭される筋合いもない。


「俺はあんな奴らを女子だと認識したことはない。イコールどれだけ罵ろうとも俺の勝手だ」


「し、信じられない……。こんな人がリラの幼馴染なのかい?」


「こ、これには理由があるのよ。リオルは、い――」


「言うな。イチイチ俺の事情をベラベラと他人に話すなよ。誰が好き好んで、あんな屈辱話を聞かせたいと思う? しかも信頼の置けない他人にだ」


 知り合ったばかりの奴に俺の情報を教えるとか正気かよ。それとも幼馴染の情報を許可なく話すほど、リラにとっては信頼の置ける相手なのか? 


「そんな言い方ないだろ。彼女は君を心配し――」


「馴れ馴れしいんだよお前。俺はお前と仲良くする気がないの。お分かりか? さっさと先生の指示を聞いて席に座れよ」


 俺はしつこく食い下がるアイザワを見上げると、口を開いて言葉に被せる。


「ああ、そうだね……。じゃあ、僕に席を譲ってくれないか? 彼女の隣は君より僕が相応しい。キレレイ先生もそれで良いですよね」


 静かに怒りを見せるアイザワは、俺にふてぶてしく言うと、先生を見て、同意を求めた。


 その言い方だとリラのことを好きなように聞こえるぞ。


「本人同士がそれで良いなら……」


「だそうだよ」


 俺に向き直ると、アイザワがどうだとばかりに、どや顔をしてきた。


 様になる馬鹿だなコイツ。


「なら、お前がリラを連れて別の席へ行け。ここは元々俺が座ってた席の隣にリラが来たんだ。お前の勝手な都合で退くわけないだろ」


「くっ。わかったよ。行こうリラ」


 こればかりは、どう考えても正論だ。


 アイザワは、リラの方に回り込むと、リラの腕を掴んで起立を促す。


「離して……。あたしは嫌よ。リオルの隣が良い。今離れたらこのまま距離が遠退く気がするから」


 リラはアイザワに掴まれた手を振りほどく。


 あらら可哀想に。


 リラがアイザワに恋してる線は今のところ消えた。この先はわからんけどな。


 リラの言った言葉は当たりだ。ここが俺達の分岐点となる。


「で、でも彼は! 君に酷い言い方を!」


 アイザワは机に手を置き、もう片方で俺を指差しながら、リラの方を向いて、必死に伝える。


「はぁ下らない……」


 俺は溜め息と共に肩を下に落とす。


「何だと!」


「リラ、結局コイツと今後、関わるつもりか? 簡潔に答えてくれ」


 そう、結局これだけだ。この返答次第で、今後の俺達が歩む道は完全に別れる。実に単純明快なのだ。


「ええ。そうなるわ。でも――」


 うん、もういい。十分わかったから。


「みなまで言うな。なら、俺はお前との関わりを消す――それだけだ」


「そ、そんな!?」


 俺の決断はリラにとって衝撃だろうな。俺の言ってることは、極論なのだから。実際、顔によく出ている。


 特A級魔物に襲われて以来、俺の価値観はガラッと変わった。自分が死ぬくらいなら他人を犠牲に、大切な者ができれば、他人よりも必ず優先する。


 例え大切な者と大勢の命でも俺は迷わないだろう。だからこそ、俺の内側に入れる奴には、厳しい選定をするつもりだ。よく言えば、慎重。悪く言えば、品定めだがな。


 何にしても第一印象で無理なら、可能性は限りなくゼロ。


 俺が大切な者を作るとしたら、俺に合う者だ。仮にそれで裏切られるなら、俺は本望だ。踏ん切りもすぐにつくしな。


「俺はな、別にお前の交遊関係に口は出さない――俺に被害をもたらしたり、または不快な気持ちにさせなければな。だが、コイツは確実に現在進行形で俺にとって害だ。これからも交遊を持つと言うなら、バイバイだ。お前も俺を切り捨てろ」


 俺の考えに賛同する者の方が少ないであろうことは、わかっている。わかった上での決断だ。もう選定は始まってるんだよ。


 幼馴染の豹変した俺を選ぶか、知り合って浅い中のアカシ・アイザワを選ぶかの二択だ。至極簡単なことだよ。


「む、無理だよ! あたし達幼馴染じゃない!」


「両方維持しようなんて傲慢が過ぎるぞ? 俺は事が重大な時、確実に俺もしくは俺の大切な者を、選択できる者しかもう信じられない。近所の人間、両親関係の人間、ギルドの人間、学園の人間、全てが薄っぺらい。こんなしょうもない奴らは、もうたくさんなんだよ」


「あたしは、リオルを誰よりも優先してるよ!」


 リラの中ではな。俺の中でリラは、隠し事を優先している。自信満々に答えられても説得力が欠如している。


「じゃあ、隠してること話せよ。リラがそれを話さないから、俺は恋だの何だのって疑いを向けてるんだよ」


「……」


 あくまで、話さないか……。その時点で、俺は優先されていないんだよ。


「王族、王城、王国、アカシ・アイザワ」


「――っ!?」


 俺はこれまでの出来事を参考に、リラが動揺しそうな単語の例を口に出してみた。


 何を隠してるかまでは、俺の頭では材料不足で答えを導き出せないが、リラが肩をビクンと大きく震わせたのを見て、王国が関係してるのは間違いなさそうだ。


 ちょうど良いじゃないか。俺と国だ。重大な選択を迫られた時、俺を選ぶかいなか。


「そうか……。これを最後にする。コイツと国の機密を優先するか、俺を優先して話すか選べ」


 ここで、俺を選べば、俺は一生リラを大切な者として守るだろう。嘘ならその限りではないが。


「……」


「答えられない……か」


 半ば予想してたことだ。リラは、大きな力に立ち向かう勇気がない。キリングタイガーの時が良い例だ。これはあの場にいる全員に言えることだが、あの苛めグループの話を完全に鵜呑みにしたのは、俺を助けに行って、キリングタイガーに立ち向かう勇気がなかったからだ。


 そうじゃなければ、俺を苛めてた奴らの説得力皆無な話を信じるわけがない。仮に説得力があり、信じたとしても、俺なら助けに行く。それが大切な者ならばな。


 結局は決断を苛めグループに丸投げしただけだ。


「ほら、譲ってやるよ。ここに座りたかったんだろ?」


 俺は席を立つ。どうせリラは、ここから退かないからな。


 席をアイザワに促した後、空いてる一人席を見つけて、列の一番後ろまで移動を始める。


「答えられないけど……あたしはリオルを大切に思ってる。それだけは本当だから……」


 俺の背にそんな言葉が弱々しく飛んできた。


 思ってることは思ってるのだろうな。俺にもそれはわかる。


 だけどそんなんじゃ、俺といない方がいい。中途半端な覚悟は身を滅ぼす。後で後悔されても責任とれないしな。


「二度は言わない。これが答えだ。そして明日から、もう俺に会いに来るな。サラに会いに来るなら、勝手にするといいさ」


 俺は止めた足を動かし、新たな席に着く。


「先生どうぞ。話の続きでも何でもしてください」


 俺が平坦な声で言っても、先生はしばらく対応できず、クラスメイトは、何が何だか状態だ。


 全員が落ち着くまで、少し時間を要していたが、何とか先生の話が始まり、切り替えたようだ。


「皆さんも知っての通り、今日から一週間後に、毎年恒例の学園最強決定戦が開始されます。優勝者が出たクラスには、賞金と先生の給料がアップするので、是非頑張りましょう!」


 先生は努めて明るく振る舞い、冗談めいて言った。


 賞金という言葉に、ほぼ全員が喜びの声を上げた。


 金……ね。もし、俺が決勝まで残って、相手が別クラスの場合、その時は…………。


 


 




 

 

 

 

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