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失礼隊長と粘着質な青髪と婚約者の登場

「違う。騒いでたのはそこに倒れてる奴だけ。俺達は不幸にも絡まれた善良な被害者だ」


 騒いでたのは一人。間違っても複数じゃない。濡れ衣着せられるのはマジ勘弁。


 むしろ加害者側を静かにさせたんだから感謝される方が理にかなってる。


「嘘を吐くな! 善良な者が誰かを殴るはずないだろ! 我々はこの町の警備兵、戯言は許さんぞ!」


 事実を隠すことなく素直に答えて、騒ぎの根源を被害者であるアネーシャが僅か一発で黙らせてやったのに何て失礼な奴だ。


 先頭切って前に出てきたこいつが隊長か。頭ごなしで態度がデカく失礼な奴というのもあるが、ヘルムの色が他の者が銀なのに対して青だ。


「そこまで言うなら善良の部分は仕方なく訂正してやる。だがな、一方的に騒いでたのは本当にそこの奴だけだ。行く手を邪魔されたから手早く排除したにすぎん。そこらの野次馬に聞けば分かる」


「少し待て」


「急げよ。こっちも時間が無いんだ」


 俺の言葉にうんともすんとも答えず無視。隊長を含めた警備兵の一部が聞き込みを開始した。残りの警備兵は相変わらず俺達に目を光らせている。


 ギルドカードで時間を確認したが、出港時間まで残り二十分を切っていた。靴で石畳を鳴らすくらいにイライラが募る。


「どうやら本当のようだな」


 聞き込みから戻ってきた失礼隊長。理解してくれたようで何より。


「だろ? もう用は済んだよな。俺達は行かせてもらう……まだ何かあるのか?」


 おいおい……通せんぼして何のつもりだよ。正当な理由も無いくせに進路妨害してんじゃねえ。いい加減にしろ。


 こっちの都合を一切考慮しない割に態度が無駄にクソ。謝罪の言葉もない。舐めてんのかこいつら。


「普通ならこれで通した。しかしながら今回は駄目だ。殴った相手が悪い。腐ってもこのお方……ケビン様はこの町の領主たるブルーノート家の次期当主なのだ。悪いことは言わない。お目覚めになられたら謝るのだ」


「はぁ?」


 まずテメエが俺に非礼を謝れ。禿げるまで石畳に頭を擦り付けてろ。お前の第一印象最悪だぞ。


「不満な気持ちは分かる。ケビン様のお父上がアクアマリンドに行っていて不在なことにはやむを得ぬのだ」


「それとこれと何の関係がある」


「実質この町の実権を代理で握っているのがケビン様なのだ。機嫌を損ねてしまうと……お父上はあんなにも立派であるというのに嘆かわしい」


 どこの国でもあるということか。権力を持つものこそが偉いという風潮が。


 だがな、権力に抗える方法ってのが世の中にはあるんだよ。それこそが力だ。果たしてお前らにとってどうすることが利口と言える選択なんだろうな。


 父は立派。その背中を見て育ったはずの息子は馬鹿。まあ、馬鹿息子に不当な命令をされて動くようなら高が知れてるよ。


「ここでは謝る必要性の無い相手に頭を下げなければ、迷惑者を撃退しただけのことで罪に問われるのか? あまり舐めないでもらいたい。正常な判断を下せない権力者の傀儡不正集団め」


「ぐぬっ……それでもだ。もしケビン様に命令されたら我々一同は君達を捕縛しなければならない。それは嫌であろう?」


 狼狽えた様子を見せるもそれだけか。権力者に逆らう気概はないと? 予想通りの反応だ。あくびが出そうになる。


「ああ嫌だな」


「では――」


「そんな不条理を押し通そうとするお前が、お前らが嫌で嫌で仕方ない。上等だよ。来るなら来い。その代わり五体満足のままで済むと思うなよ? お前ら全員完膚なきまでに潰し尽くしてやる」


「熱くなるな若者よ。冷静になりなさい。君達二人でこの人数相手に何ができる。君達が大人になって譲歩してくれれば丸く収まるのだ。それくらいの理解はある。こんなお方でもな」


 諭すように言う失礼隊長。全然心に響かない。呆れたように苦笑いしてられるのも今の内だけだ。


 取り囲んでる警備兵に関しては余程腕に自信があるのか失笑してる。俺は逆にお前らの慢心を内心嘲笑ってるけどな。


 こっちは清廉潔白の無実だ。内容を捻じ曲げられない限りな。戦闘になったら好き放題できる。


「どうやら話が通じんらしいな」


「ここ……は? 僕は一体何をして……そうだ!」


 お前がもたもたしてるから一番面倒な奴が目を覚ましやがったじゃねえか。


「目を覚まされたか!? さぁ、早く謝るのだ!」


 まだ言うかこの野郎。次、余計な発言をしたらお前は必ず沈める。これは決定事項だ。


「僕を気絶させられる程に強いなんて最高じゃないか! 益々惚れ込んだよ!」


「気味が悪い……」


「セコいぞ。俺を盾にするな」


 興奮してる青髪にドン引きのアネーシャは俺の背後に隠れる。


「君、彼女から離れたまえ! 彼女の美しい顔が見えないじゃないか!」


「だとよ」


「無理。見たくない」


「そんな照れ隠しも可愛いよ」


 青髪がウィンクしてきたので、俺は反射的に顔だけでなく体全体を反らすことで大袈裟に回避した。


 何の影響も及ぼさないと分かっていながら反射的に体が動いてしまうとは、ある意味恐ろしい奴だ。


「……ケビン様は一目惚れなされたのか。これは厄介であるな。ケビン様には既にたくましい婚約者がおられるというのに」


 たくましい婚約者だと? 微妙に引っかかる言い方だな。


「僕は君に決闘を申し込む! 彼女をかけて僕と勝負だ!」


 足を肩幅まで広げ、左手を腰に、右手の人差し指を俺に向けてポーズを決める青髪。


「――けふらっ」


 身体強化を発動した俺は青髪の望み通りに決闘を了承。同時に足を前へと動かす。一気に距離を詰めた俺は腫れて赤くなってる頬を狙い、その上から気絶させない程度に手加減して殴った。


「ケビン様!」


 失礼隊長が叫び、青髪に駆け寄る。


「してやったぞ。満足しただろ。お前の敗北で良いよな?」


「ひ、卑怯ひゃひょ。みゃ、みゃだ始みゃっへみょにゃひのに」


 青髪の頬は更に酷く腫れ上がり、両頬を引っ張られたみたいに上手く喋れなくなっている。かろうじて何を言ってるか分かる程度だ。


「甘いことを抜かすな。こっちは貴重な時間を削って本来必要もないのに構ってやってるんだ。それだけでもありがたいと思え」


 俺が話してる間に隊長が所持していたポーションを飲んだ青髪は復活した。頬の腫れは回復したようだ。阻止しても良かったが聞き取りにくい言葉を続けられても困るしな。


「君みたいな卑怯者に彼女を任せておくことはできない。警備兵の諸君! あの者を引っ捕ら――」


 俺は相も変わらず無防備な隙を晒し続ける青髪に接近。馬鹿みたいにべらべらと話してる途中、抵抗動作を見せる前に首を掴み、握る力をほんの少しずつゆっくり、ゆっくり強めていく。


「あまり調子に乗るなよ。何もかも権力で解決できると思ったら大間違いだ。これ以上喚くようなら殺すぞ。さっさとここを通すように言え。時間泥棒」


「無礼だぞ貴様! ケビン様を離さぬか!」


 お前が青髪の暴走を止めて俺達を通してれば平和的に解決してたんだよ。つまり、機嫌を損ねないよう保身に入ったお前の所為。


 護衛の仕方も本当は死んでほしいんじゃないかと思うくらいお粗末。今の状況なんか隊長としての判断を見誤りまくった結果だ。キレるんじゃなくて自責の念に駆られてろ。


「動くなよ無能が。こいつの首、ポキッとへし折るぞ。……で、お前の答えは?」


「嫌……だ。僕は……僕は彼女を僕の伴侶……として迎え、るんだ! 君……なんかより、僕の方が相応しいに……決まってる!」


 アイザワは俺の手首を両手で掴み、拘束から逃れようともがきながらも、無駄に強い思いを伝えてきた。


 熱弁しても意味なし。脈がないことにいい加減気づけ。アネーシャの表情見たら分かるだろ。


 まさかとは思うがこいつ……アイザワに限り無く近い人種か――いや、最早病気だ病気。命名するならアイザワ病。面倒なタイミングで自分の意見を曲げないところとかそっくりだ。


「そもそも俺の彼女でもねえよ。ただな、言えることが一つ。本人の意思を無視して独りよがりな重い想いを一方的に告げたところで……お前にあいつが靡くことはない」


「そん……なの!」


「否定したけりゃ勝手にしてろ。それより、今度はお前らに言うぞ。俺は絶対にこいつに頭を下げることはねえ。これ以上無駄な時間を過ごす気もねえ。さっさとどけ。どかねば強制突破、もしくはこいつをこのまま――」


 ガゴンッ!


 青髪の少し後方。上空から何者かが降り立った。着地点の石畳は見事に陥没している。背中を見せていたその者がこちらへと振り返った。


「今度は誰だ……」


 そこには奇妙な女? がいた。性別を疑ってしまったのは仕方のないことだ。水色ロングの髪で可愛らしい顔立ち。顔に似合わぬ違和感しかない体型。


 ロングスカートの高貴な純白ドレスを着ているのだが、あまりの筋骨隆々ムキムキ加減にぱっつぱつだ。背は俺より高めなこともあって迫力がある。肌色や耳の形を見る限り水人なのは間違いない。


 ここまで鍛え上げられた肉体を持つ女を俺は見たことがない。素直にかなりの衝撃を受けている。


「アリアドネ様……」


 様付けか。なるほど。おそらくこの女が青髪の婚約者。一体何をしにきたのだろうな。婚約者は別の女にお熱だが。


「アリア……ドネ、どうしてここに……」


「そんなこと今はどうでも良いことですわ。そこのあなたはどうしてケビン様の首をお絞めになられてるのでしょう。返答次第では許しませんわよ」


 声は野太いのかと思えば、意外と普通に年相応の高い女の子の声だった。やっぱ色々とバランスがおかしい。


「今度という今度こそ話が通じると良いんだがな」


 俺はこれまでの経緯を全て話してやることに決めた。これで駄目なら俺はこいつらを全滅させるしかない。穏便に終わらせるには事態を悪化させすぎてしまった。


 全員気絶させれば何とか船にも乗れるだろう。仮に指名手配されるようなら【オーシャンティス】の王族に冤罪を訴える。それでも無理ならそれはそれで良いさ。真実も見抜けない無能な国に用はない。


 今更後悔しても遅いが、絡まれた時にとことん無視。あるいは追いつけない速さで振り切るべきだった。そしたら朝からイライラすることもなく、平穏無事に出港までのんびり過ごせたのにな……。


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