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惨めな苛めグループ

 その後、結局リラと登校することになった。


 学園までは一本道で、住宅街のレンガで建てられた家々を通り、石畳の地面をいつものように歩いていた。


「平気そうだけど、怪我は大丈夫なの?」


 登校途中に心配そうな表情で、肩を並べて隣を歩くリラに問われた。


「完治したし絶好調だ」


 俺は何でもないという風に折れていた左腕を回しながら答えた。


「いつの間に成長したの?」


「使う予定もなかったのに、練習だけは一人でしてたからさ。魔法事態は得意なんだよ」


 俺は人前で魔法を本気で使ったことは一度もない。というより無理だった。岩とかの的になる物になら、本来の威力で発動できるから、自主トレの時だけが唯一魔法を本気で使えていた。


 流石に言魔法について、説明する気はさらさらない。


「ふ~ん。なるほど、そうだったのね。それとこれは興味本意なんだけど、キリングタイガーを討伐したのってやっぱり……」


 そんなに知りたいもんかね。その探るようなそれでいて確信めいた表情をするのはやめろよ……。それ、自分の中で答え出てる時の顔じゃないか。リラは俺の答えを期待するかのように、瞳をキラキラさせて待っているが――


「それはノーコメントで」


 誰にも答える気はない。相手にバレてたとしても意地でも隠す。力を持ったが故の面倒事に、今巻き込まれるのは得策ではない。


 復活したとされる魔王との戦力に勧誘、あるいは強制加入させられるのが目に見えている。俺はそんな未来はごめんだ。


 世の中、俺を苛めていた奴同様屑ばかり――とは思っていないが、俺の苛めを一度でも行った者を参考に予測を立てると、この国の人々は、本質的な屑も多く存在していることになる。そんな者達を守るために人生を捧げるのは真っ平ごめんだ。


 都合の良いことに、サラもリラもミシェルさんも学園の中では強いし、ミシェルさんはホワイト家という大きな後ろ楯もある。俺が守るべき者は実質皆無なのだ。


「……どうしてよ?」


 リラはがっかりして大きく肩を落とした。


「まあ、いつか話すよ」


 この『いつか』とは魔法の言葉だ。この一語だけで何年だって引き延ばせる。上手くいけば永遠に誤魔化し続けることも不可能ではない。


「本当でしょうね? このまま煙に巻いて逃げるだなんて許さないんだから」


 伊達に幼馴染を何年もしてるだけはある。俺の考え方が変わろうとも、察するとはな……。


「……」


 怪しむようなリラの言葉が図星のため、俺は顔を前に戻して足早になる。


 まさか『いつか』を一瞬で看破する実力者が身近にいたとは……。


「何で黙るのよ! ……って速いわよ! もう少しゆっくり歩きなさい!」


 リラは俺の急な歩きのスピードアップに面食らって、反応が遅れるが、後ろから普通に追いつくと、横に並んで普通に一緒に早足で歩いた。学園に着くまで、色々とガミガミ言われていたが、俺は適当に相槌を打って聞いてる振りをしていた。


 こんな俺とリラの登校風景を見ている周囲の視線を俺は感じ取っていた。学園内に入るとその数は増大していく。


 嫉妬の視線は常連だ。全然嬉しくない。今日も安定の招かれざる客が来そうな雰囲気だな。





 教室に入ると、珍しくリラではなく俺に視線が集まる。昨日の出来事がいまだに信じられないのだろう。俺が倒した苛めグループは、あれでも学年で二十番目に入るくらい強いと言われている。それをこれまで戦闘できなかった落ちこぼれの俺が、一方的にボコボコにしたのだから、この反応にも頷ける。


 その苛めグループの三人の内一人は、完全にビビっているが、残り二人は違うらしい。まあ、二人は地面に叩きつけただけだしな。左手で叩きつけた三番手方の歯は折れてない。やっぱり折れてた手では強化しても威力が足りなかったようだ。


「おい、てめえ昨日はよくもやってくれたな。俺の歯を返せ!」

「弱虫の癖に逆らうなんて生意気なんだよ!」


 昨日までこんな奴らに恐怖を感じていたんだな。虫酸が走る。俺はただただ冷めた視線で二人を見た。


 リラがいつものように、前に出て何かを言おうとしたが、俺が手で制した。もうこんな奴ら相手するのに、任せる必要はどこにもありはしない。


「空気が腐るから黙れ」


 俺は濃密な殺気を二人に向けて放つ。二人は尻餅をついてガタガタと震え始めた。大きすぎる殺気は教室中にも薄く広がり、他の生徒まで青ざめている。


 俺が殺気を覚えたのは昨日だ。キリングタイガーとの死闘で、自然と覚えたらしい。実際に人に向けて使うのは今日が初めてだから、加減に少し失敗したようだが、コイツらのほとんどには馬鹿にされたり、見て見ぬ振りをされてきたから、気にすることはない。


「リオルやり過ぎよ!」


 隣にいたリラに肩を強めに揺らされ、俺は殺気を霧散させた。


「おっと。すまん。これまでのストレスでついうっかりな」


「あたしまで巻き添えなんだけど……」


 リラは少し冷や汗を掻きながら、俺を責めるような視線を送ってくる。でも、流石だな。隣にいたというのに、殺気の影響をそれほど受けていない。学園四強美少女は飾りじゃないということか。


 学園四強美少女――その名の通り学園で上位四人のことだ。この学園では、年に一度だけ学園最強決定戦があるのだが、そこで強さを認められたのが四強美少女だ。要するに、去年の決定戦で準決勝と決勝に残ったのが女子生徒四人だったわけだ。もちろん俺は棄権している。四強美少女は、優勝リラ・ミラー、準優勝ミシェル・ホワイト、準々優勝サラ・サーファ、第一王女ステファニー・リンドバーグだ。


「まあ、それは置いといて」


 リラに向けていた顔を、殺気を直接飛ばした二人に戻す。


「置いとくな!」


 隣のリラからナイスなツッコミを入れられるが、取り敢えず放置して、一歩踏み出した。


「お前ら、次から不用意な発言すんなよ? 次は殺気だけで済むと思うな……ん? お前ら漏らしたのかよ。ダッサ」


 床には透明の小さな水溜まりが広がっている。二人とも顔を上げる気配がなく、ずっと下を向いている。


 いやー愉快愉快。何てスカッとするのだろうか。それにしても情けねえ。俺の殺気なんてキリングタイガーの本気の殺気に比べたら半分くらいだぞ。キリングタイガーに殺気ぶつけられたら失神確定だな。そしてそのまま胃袋へ旅立つな。


「皆さんおはようございます。……どうかしたのですか?」


 凄いタイミングで先生が入室してきた。生徒の浮かない表情を見て、訝しげな様子で質問を投げ掛けた。


「この二人がお漏らししただけですよ」


 俺は躊躇の色を一切見せず、隠す気ゼロで二人の生徒を指差し、自分が原因なのにも関わらず、白々しく報告した。


「何だお漏らしですか。……お漏らし!?」


 最初は先生も驚きの声を上げたのだが――


「そんなことよりも、昨日はよくも帰ってくれましたね! あの後ギルド関係者と学園長への説明が大変だったんですよ。今日はこの後ついてきてもらいますから!」


 先生は俺を発見すると、ドタドタと慌ただしく、教室の後方まで走り、俺の目の前まで来て矢継ぎ早に話してきた。


 先生……。昨日苦労したことは理解したが、結構な出来事を後回しにしたな。周囲の生徒も「えっ、まさかの放置」と言い出しそうな雰囲気だった。


「面倒だから、却下でお願いします」


 俺は駄目元で、ニコニコしながら即拒否をしてみる。


「はい、却下ですねって……なると思いましたか?」


「はいはいわかりましたよ。それよりも早くこのお漏らし二人をどうにかしてください」


「絶対ですよ! ゲテ君、ケリー君。教室はトイレではありませんよ?」


 俺に念押しした先生は、漏らした張本人達に振り向くと、水溜まりに腰を抜かしてしゃがみんこんでいた、くすんだ灰髪二番手のゲイル・ゲテとくすんだ金髪三番手のビリーケリーにずれたことを言った。


 俺はその言葉に不意をつかれ「ブハッ」と耐える間もなく吹き出してしまった。


 おおいにプライドを傷付けられた二人は「うわーん」と下を向いたまま、素早く立ち上がると教室から走り去っていった。これであの二人も大人しくなるだろう。やり過ぎ? 確かにそうだろうが、屑には屑の方法で相手してやるのが一番効果的だ。現に効果抜群のようだしな。


 綺麗事で、同じような事をしたら同類とか言う奴がいるが、それがどうした。俺が苛めの証拠を集めて学園に訴えてどうなる? そこまで重い罪になることはない。なったとしても自分以外の誰かが勝手に裁くんだぞ。どこに満足できる要素がある? 


 それに何で苛められた本人が、苛めてきた奴を誰かに裁かせるために労力を消費しなければならない。意味不明だ。それなら俺に害を及ぼす全員を潰した方が気分が晴れるだろう。


「ゲテ君! ケリー君! 後始末をちゃんとしなさーい! 先生は尿担当じゃないんですからね!」


 先生は羞恥で走り去る二人を追って廊下に出ると、立ち止まり、大きく息を吸って大声量で社会的な公開処刑を実行した。先生は意図してないのだろうが、確実に隣のクラス、そしてその先のクラスまで響いた筈だ。終わったかな……あの二人。


 まあ、あんな二人の行く先なんてどうでもいい。精々苦しむがいいさ。


「先生、後始末をしてくれる優しい生徒を見つけました」


 そう言った俺の笑顔からは、悪魔のような邪悪さが滲み出ていることだろう。


 先生は教室に戻ってくると「誰ですか?」と尋ねてきた。


「あの二人のお友達であるレント君です」


 俺は教室の窓際、一番後ろに座っている生徒を指差しながら、親切心で教えてあげることにした。


 レオン・レントは、俺に一番最初に恐怖を植えつけられた人物で、くすんだ赤髪の苛め中心グループリーダーのことだ。


 昨日まであんなに俺のことを、元気いっぱい馬鹿にしてたのに、身を潜めて自分の存在を消すかのように、大人しいから出番を作ってあげるよ。嬉しいでしょ? 遠慮なく感謝してくれて良いんだよ。ハハハハハッ。


「そ、そんなこと言ってな――」


 俺はレントを睨みつけて黙らせた。


 余計な口を挟ませて堪るか。お前は俺を苦しめてきたんだ。惨めな気持ちをとことん味わいやがれ。それに大事なお友達なんだから、処理してあげなきゃ。


「ありがとうございます。この後先生はリオル君を学園長室へ連れていかなくてはいけないので、助かりました。では、お願いしますね!」


 先生の頼みと俺に対する恐怖で、レントは元気なく「はい……」と頷く他に選択肢は残されていなかった。


 浄化系の魔法を使えないレントは、雑巾で処理していた。他の生徒は自分に飛び火がいかないように、黙って目を逸らしている。正直この教室の誰もが俺の標的になりえる。そしてその自覚のある者が多数存在している証明だ。


 俺は先生の後に続いて学園長室へと移動した。



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