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アーテルインフェルノドラゴンの本領

 ドガァン!


 漆黒の頑丈な鱗に覆われた顎部分を殴り、龍の口をガチン! 歯と歯を強制的にかち合わせ口内で火球が爆発した音が頭上から振動と同時に俺の耳へと響く。


「まだ終わらん」


 火球で自爆して怯んだ龍。俺は顎を打ち上げ空中から落下するまでに龍の長い首に拳打の猛攻を浴びせる。


 連打連打連打。殴れるだけ殴り、与えられるだけダメージを与え続ける。どれだけ効いているかは定かではない――が、そんなものは関係ない。


 一発一発に集中するだけだ。手を抜いて勝てる甘い相手ではない。


『調子に……乗るなぁぁぁぁぁ!!』


「ぐっ」


 重い……。咄嗟に腕で十字ガードしたのにも関わらず、その上から貫通する一撃。そのまま軽く吹っ飛ばされた。


 全力全開の強化済みな俺にここまでの衝撃が走るのは嬉しくない誤算だ。しかも、ただ虫を払い落とすかのような雑に振ってきた一発でだぞ。まともに何度も受ければ厳しくなる。


 今回の場合、攻撃は諸刃の剣。防御を疎かにして攻撃にばかり集中し過ぎると手痛いしっぺ返しを食らうことになるな。


『今度こそ食らえ』


 ――冗談じゃねえぞ!


 口回りが黒く焦げてる龍は、俺が空中で体勢を整えた直後、着地する前に大きく口を開き、再び火球を吐く準備に入っていた。火の塊が瞬く間に形成されていき、先程よりも大きな火球が完成しようとしている。


『口を閉じろ』


 俺は苦渋の決断だが一割の半分を消費し、今度は物理でなく言魔法の強制力を発動させる。


『ムグッ!?』


「危なかった……」


『クソ虫ぃぃぃ……』 


 火の耐性がそれなりにあるのか……。火球の自爆ダメージが二度も入ったというのにまだピンピンしてやがる。こっちはお前の攻撃一つ一つに危機感を抱いてばっかだってのに腹立つな。


「――チッ!」


 龍が一度の踏み込みで一気に俺へと肉薄し、巨腕を振り下ろしてくるが、俺は避けて一発顔面を蹴って離れる。大して効いてないみたいだが……。


『逃げるな!』 


「お前がのろまなだけだ」


 とは言うものの、あの図体にしては十分以上に速い。唯一弱点とするならやはり速度だが、それを補って余りある圧倒的な破壊力と耐久力。


 現状、数打って弱らすしか手がない。


 ブゥーン!


 俺目掛けて鈍い風切り音とともに尻尾が迫ってきた。それを掻い潜り、俺は龍の腹下まで移動。両足で地面を蹴り、腹を殴れる位置まで一気に跳躍。


「食らえ蜥蜴野郎! オラアアァァァァァァ!!」


 短い滞空時間が過ぎるまで俺は高速で抉るように龍の腹を全力の拳で打ち続ける。


『アガッ! アグッ! グアッ!』


 自分の拳打音と龍の苦痛な声が耳に届く。鱗に覆われてなく、硬さは劣るがそれでも十分に硬い腹部分を拳の皮が擦り切れても一点集中で殴り続ける。


 短い滞空時間が過ぎた瞬間、着地と同時に駆け出す。腹の下を一気に駆け抜け、龍の頭上まで跳躍。


 足が上がる限界まで思いっきり振り上げ、そのまま目にも止まらぬ速さで振り下ろす。


『ゴバッ!』


 龍の頭部と俺の踵の衝突音が鳴り響き、龍はここで初めて踏ん張りが効かず、崩れ落ちるようにドスンッ! 大きな振動音が付属し、地に伏せて動きが止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 俺は息切れを起こす。体は熱く上気し、大きく肩で息をする状態。


 信じられないことに、あれだけの戦闘を繰り広げても戦闘を開始してからの経過時間は少ない。俺の魔力がまだ六割残ってるのがその証拠。


 だというのに、この馬鹿みたいな体力の消費はなんなんだ。神経を張り詰めた状態での全力で打つ攻撃がここまで疲れるとは思ってもみなかった。


 可能であれば立ち上がってほしくないところではあるけど……。


「そらそうだわな」


 閉じられていた紅玉の瞳は限界まで見開く。充血した目はギョロギョロと周囲を見渡し俺の姿を視界に映した。


『クソ虫……クソ虫……クソ虫クソ虫クソ虫クソ虫クソ虫クソ虫』


「黙れ。無様な蜥蜴野郎が」


 強がってはみたが、もう今の俺には全能感などうに消失している。バルムドの時みたいに頭部消去してサクッと殺したいが、魔力不足で無駄に使い切り、そのまま不発に終わる可能性もある。それだけは何としても避けなくてはならない。


 これが言魔法の欠点。後戻りのできないリスキーなことはある程度の余裕がなければできないのだ。


 しかもコイツは圧倒的にバルムドよりも強い。弱ってなければ確実に不発に終わるだろう。かといって手もそんなに残されていない。


 はっきり言って……絶望的だ。


『龍王の僕にクソ虫の分際で屈辱を与えたな? お前だけは絶対に許さん。殺すよ? 殺すね? 殺したい。殺す殺す殺す殺す……コロオオオォォォォォォォォォス!!!』


「……黒い炎?」


 鱗の隙間から黒い煙が漏れでたかと思えば、そこから龍の全身を包み込むようにメラメラと燃え始めた。


 ……熱い。事前に強化してなければ火傷してるくらいの熱気がバシバシ伝わってくる。存在感も目に見えて明らかに増したな。


 俺はある程度底を見せたというのに、この龍は今から本領発揮かよ。ちっとも笑えないし、ホント嫌になる。


『人間風情には一度ですら見せたことのない最強の黒炎。特別に灰すら残さないこの炎で消滅させてあげるよ』


 元々の黒い全身に黒い炎を纏った龍は、高く冷たい声で俺に告げる。


「ぬかせ。俺がそれを見たのは二度目だ。特別でも何でもない」


『嘘を吐くな! 僕以外に黒炎使いなんて……まさか!? いや、あの面汚しは死んだはず……』


「お前も魔王軍なら知ってるだろ? 魔王軍幹部序列九位のバルムドだ。あ、死んだから元幹部か」


『僕の誇りである黒炎を……あんなちんけな火の粉と一緒にするな! 黒炎を使えるから特別に僕が目にかけて指導してやったのに……召喚されたばかりの勇者に殺された雑魚でゴミ屑な面汚し。二度とあんな奴と僕を比べるな!』


 そんなにギャーギャー怒るなよ。声の高さと大きさもいい加減調節しろ。耳にキンキン響く。自分の声の大きさは自分では気づかないってこういうことなんだろうな。それとも敢えてなのか? 嫌がらせの為に。


「最初から比べてねえよ。早合点野郎が。俺は二度目だって言っただけだ」


 それに言われなくても分かってる。バルムドと比較するまでもない大きな存在だってことは。


 気を抜けば一瞬であの世だってことも……。それだけ今の俺には目障りで強大な邪魔者だ。


『あんな奴の名前を出した時点で同じことだ! そしてもう話は沢山。死ね!』


「あっぶな……うぐっ」


 あの龍……とことんふざけてやがる。あんなこともできたとは。火球、爪、巨腕、尻尾振り回し、噛みつき、までなら何とか予想できたのに。


 つうか痛い。どんな力してんだ馬鹿力が。薄々勘づいてた……というか現実逃避したくて誤魔化してたけど無理だ。黒炎は元々強いあの龍を強化する役割もあった。


 にしても、仁王立ちしたかと思えば両手の上に黒い球体を出現させて投げてくるとか予想外も良いとこだ。額から冷や汗流すくらいには速かったし。


 で、それにまんまと気を取られた俺に追撃として巨腕の一撃。まだ防御した腕が痺れてやがる……。


 まず……あの球体は冗談抜きで食らえない。球体が当たった木は跡形もなく消滅。もう一個の球体が当たった地面も土ごと消滅し、一瞬で球体分の穴を作った。


 その悲惨な光景を見た俺はゾッとしたね。格上との命のやり取りって緊張感半端ねえ……。


『どうたい? 僕の黒炎は。ビビっただろクソ虫』


「うんビビったビビった。コワイヨ。だから手加減してくれ」


 イラつかせてもう一度隙を作る。自分の強さを過信しまくる相手の隙は比較的作りやすい。何をされても大丈夫、対処できると思ってる場合が結構多いからな。


『いい加減その減らず口を叩けないよ――』


「俺は率直に本心を言っただけだ!」


 俺は時間制限的にも目の前の反則的な存在より余裕がない。まばたきした時を狙い、話してる途中の顔面まで飛び、本気で蹴り抜いた。


『その程度かい? 痒いな、むず痒いよ』


「はは……マジか」


 俺が放った渾身の蹴りはまったく効かなかったらしい。黒炎強化恐るべし。俺は顔をひきつらせて空笑いするしかなかった。


『マジ、さ!』


「――かはっ」


 張り手のような一発に反応が遅れ、俺はまともに重い一撃を食らい吹き飛ぶも、龍は追撃の手を止めないらしく、飛ばされた方向にまで追ってくる。


『まだまだいくよ! ほらほらほらほらほら!』


「逃げる隙なしかよっ!」


 そんなデカい図体のくせして何て速さの連続攻撃してきやがる。とても現実とは思えない。悪夢なら早く覚めやがれ! 


『逃げる? 寝言かな? 寝るのはまだ先だよ。苦しめなきゃいけないからね。そーら!』


「ゲホッゴホッ……はぁーこれはマジでヤバい。死ぬかもな……」


 俺は龍の猛攻を防御し続けたが、大きく振りかぶられた巨大な一撃で呆気なく吹っ飛ばされ、地面に落下して何十メートルも転がり、ようやく今止まったな。


 たぶんどっかの骨折れた。体中痛いからどこが折れたかは特定できんけどさ。


 血も吐いた。キリングタイガー以来例え魔族の幹部バルムド戦でも吐かなかったのにな。あの龍は序列三個分上らしいし当然の結果なのかもしれんが。


 魔力的にはまだ五分持つ……けど、勝てる未来があんまり浮かばない。これは致命的だ。弱気とか強気とかそんな次元じゃない。


「それ、でも……それでも勝たなきゃな……」


 ちょうど五分……か。ここで使うのは正直はばかられるが、背に腹はかえられない。国の領土すら出てないこんな辺境の地で死ぬより何倍もマシだ……ということで致し方ない。


 あの老婆には感謝しなくては。最後の望みに懸けられるチャンス――贅沢を与えてくれたのだから。


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