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絡む相手を間違えた者の末路

 陰鬱な空気が蔓延してる村をぶらぶら歩く。


 自分達よりも強い者に屈した末路がこれか。魔王軍の侵略が始まればこんな光景――いや、これ以上の光景が日常茶飯事になるのだろう。


 そうやって歩いていると、もう村の端まで来ていた。俺は反転してもと来た道を辿る。


 村の中央付近まで戻ってくると、喚き散らす声が響いてきた。俺はその方向に足を進める。


 そこには結構な数の村人が集まっていた。とは言え、二十代を過ぎた者がほとんどだ。子供は守る為に家の中か。


 俺は喚き散らす者のもっと近くまで足を運んだ。


 そこには、今朝の襲撃者とまったく同じ格好をした奴がいた。


 やはりな。でもたった一人だけか。んじゃ別に俺が予想してたほどの害虫じゃなかったな。


 多数で来たら騒がしくなってうざいから叩きのめそうと思ったのに……結果はただの雑魚が一人。実に残念だ。


 一人だけならそこまで俺に影響を及ぼすことはないな。放置だ放置。放置で決まりだな。まあ、せっかく来たんだし、野次馬心で見物していくが。


「どうか、どうかお願いしますのじゃ。今回は今回だけはこれで勘弁してくだされ!」


 道案内してくれた老人が土下座して頼み込んでいた。老人の前にあるのが差し出す予定の食料か。そんで盗賊は小型の収納ポーチで運ぶわけか。どうせあれも盗品だろうな。


 まず一言。コイツら外道だな。この村を骨の髄まで絞り取る気満々じゃん。そもそも食料だってそこそこ並べてあるぞ。頻度は知らんが明らかに求め過ぎだ。そりゃ村人も痩せるわな。


 いよいよ盗賊の数が気になる。大体こんなにも気づかれないもんかね。その辺は盗賊にしては徹底されてると思うが。


「あ゛? ざけんな。きっちり約束通り、日暮れまで待ってやっただろうが」


 あーコワイコワイ。怖いわー。何だよあの口調。


 目も三白眼だし。布で隠してなかったら人相も相当悪いだろ。


「これ以上は皆々が餓死してしまいます。どうかご慈悲を……」


 老人は頭を下げ続ける。ただし、村人を大切に思う心は盗賊に何一つ伝わってない模様。


「そんなん知るかよ。このカス。死ぬなら勝手に死ねよ。その分増えるだろ」


「ふざけるなお前! いい加減にしろ。ぶっ殺してやる!」


 村人の中では腕が立ちそうな青年が怒りを爆発させ、今にも突進しそうな勢いだ。周囲が必死に止めなければ、今頃殴りかかってる頃だろう。


「おいおい良いのか? 俺を殺したとバレりゃ、お前ら全員殺されるぞ」


「くっ」


 下衆な盗賊の言い分を聞き、悔しさを顔一杯に滲ませながらも青年は大人しくなる。目だけは盗賊を鋭く射ぬいたままだが。


「アッハ、こら傑作だ。おい、もう一回言ってみろよ。誰が誰を殺すって? 失礼なこと言いやがってよ。土下座しやがれ」


 弱点を容赦の欠片もなく突いてくるこの腐りきった性根はある意味凄い。この盗賊が同じような立場になった時の反応が知りたくなってしまうな。


「い、嫌だ!」


 当然青年は断る。首を縦に振るだけでも、それは立派は敗北宣言だ。悪党に頭を下げるなんてプライドが許さないだろう――通常なら。そう……通常ならばな。


「まだ立場が分かんねえのか? 土下座しねえとお前の家族皆殺しな」


 青年は躊躇しつつも、屈辱にまみれてゆっくりと地面に膝をつく。


「わ、分かった…………すみませんでした」


 家族を人質にされては誰も動けない。この青年が怒りに任せて暴力を振るわないのも、村人が誰も反撃しないのも、盗賊に攻められた先に勝てる未来が見えないからだ。


 勝てると仮定しても、争いによる多大な被害を思えば二の足を踏んでしまうのだろう。だからこそ動けない。


「聞こえんなぁ?」


 嘘吐け。布で顔の全体像を隠せても、声の弾みが少しも抑えられてないんだよ。


「すみませんでした!」


「惨めだ、なぁ!」


「ぐはっ」


 盗賊は土下座中の青年の顔を迷わず靴先で蹴り上げた。


 青年は鼻と口を押さえて呻いている。痛みに表情を歪めており、指の隙間からは血が流れていた。


「見たか? もう分かってると思うが、逆らった者には容赦しねえぞ。分かったな?」


「で、ですが、本当にこれが限界なのじゃ。村が無くなれば、あなた方も困るのではあるまいか?」


「んだよ、分かってんじゃん。ま、そんじゃ今日は女を連れてくしかねえか」


「ま、待ってくだされ。それはあまりにも!」


 老人の必死な抗議の様子から推測するに、まだ村人を連れていかれたことはないと。


「うるせえ。ボスが納得して許してくれるんだ。むしろ助かったと喜べよ」


「あ……お前。お前こっち来い。美人じゃねえか。きっとボスもお喜びになる」


 老人との会話を続けながらも、見える範囲の女を物色してふるいにかけていた盗賊。目をつけられた可哀想なセミロングの女性は、強引に腕を掴まれて引っ張られた。


 目がギラギラしてやらしい。盗賊は好みの女性を発見し、変態に進化したみたいだ。


「い、嫌! 誰か、誰か助けて!」


 変態盗賊を生理的に受け付けないのか、女性は身を捻ったりしてどうにか振り払おうと必死に抵抗を試みる。


 しかし、現実は非情だ。素の力では決して敵わない。そして、盗賊は女性が抵抗すればするほど興奮して目が血走っている。


「お前ら、助ければどうかるか分かるよな?」


「お待ちくだされ! その子は今朝出稼ぎに行った息子の婚約者なんじゃ!」


 朝すれ違った痩せ型で薄汚れた衣服の男のことだろう。あんなボロボロの格好なのに、異変に気づく者がいないのが不思議だ。


「うるせえクソジジイ!」


「ぐわぁ」


「お義父さん!」


 理不尽過ぎた。小柄な体で止めに入った老人の脇腹を……今思いっきり蹴ったぞ。


 この外道具合には笑うしかない。


「あ゛? てめえ何笑ってやがる。つうかてめえ誰だよ。見ねえ顔だな。新しい村民か? それなら歓迎してやるが」


 絡まれるの本日二回目だな。今回は自分から興味本位で元凶に近づいたから状況は少し違うが。


 まあ、近くにいたから絡むって思考はとてもじゃないが理解し難く、意味不明としか思えんけど。


「た、旅のお方……忠告したというのに……」


「旅人ねぇ……。てめえ今笑ったことは水に流してやる。その代わり今すぐ全裸になれ」


「きもっ、お前そっちの趣味かよ」


 何でコイツは大衆の面前で自分の危ない趣味を暴露したんだ。ある意味勇者だな。魔王軍に特攻させたら英雄になる逸材だ。


「んなわけねえだろ! てめえに耐え難い屈辱を与えんだよ。さっさとしやがれ!」


 今更照れ隠ししやがって。もうお前の趣味は皆にバレた。もっと開放的になれよ。


 気持ち悪いけど、気持ち悪いけど、趣味は人それぞれなんだし。受け入れられるかは別だけど。


「やなこった。雑魚の言うことは聞かない主義なんで」


「上等だコラァ! てめえらそいつを今すぐ引っ捕らえろ。じゃなきゃ連帯責任にすんぞ!」


 怒り心頭な盗賊は地団駄を踏み、俺を指して怒鳴りながら命令した。


「動くな。触ったら潰す」


 俺は村人の方向に殺気を撒き散らせる。村人はピクリとも動かない。動き出そうとはしたが、足がすくんでるのだ。


 そりゃそうだ。人間には本能的な危機察知能力が生まれながらに備わってるのだから。


 大体お前らの下らない都合で俺に害を与えるとか調子乗んな。そんなんだから盗賊みたいな小者しかいない雑魚集団の一人にいいようにされんだよ。


「――おいお前らあくしろ! チッ、使えねえ奴らが」


 あくしろって何だよ。早くしろって意味か?


 あんまり笑わせんなよ。変態、勇者、道化。随分と多芸な奴だ。


「一対一で勝てる自信のない雑魚はよ、早く大好きなボスのきっちゃねえ乳首でも吸いに帰れ。変態趣味野郎にはぴったりだろ」


 俺は盗賊を嘲笑してやった。どうせ嗤われたい願望があるんだろ? 叶えてやったぞ。


「ぶぅっ殺ぉぉぉぉぉす!!」


 馬鹿だコイツ。本気で俺をただの旅人だと思ってるらしい。身体強化もせずに突っ込んでくるとは。


 俺は遠慮なく身体強化で迎撃しよう。


「……あ? あがぁぁぁぁぁ!」


 盗賊の拳を片手で掴み、そのまま一思いに握り潰した。盗賊は自分の拳を確認した瞬間、激痛に叫び声を上げる。


「さっきまでの威勢はどこへ? 君は誰? 知らない子だなぁ」


 俺は挑発の意を込めて軽口を叩くも、盗賊は痛みでそれどころではない様子。


「痛いだろ? サクッと殺って楽にしてやるよ」


「――お、お待ちなされ。その者を殺してはなりませぬ!」


 俺は老人の叫ぶ声には一切耳を貸さず、鋭い蹴りを盗賊の首に命中させた。


「あ、悪い。もう殺ったよ。止める理由は知らんけど、少し遅かったな」


 盗賊なんて冒険者からしたら魔物と同一で討伐対象だ。盗賊に人権なんてない。強奪、性犯罪、弱者の大量殺人――こんなことしてんだから捕まればほぼ死刑。


 人間からしたら、魔王軍だけで手に余る。盗賊なんて足を引っ張る邪魔な存在――というのが、少なくとも人間の中では共通認識だ。


 俺もそれに関しては似た考えだ。旅人メインではあるが、一応は冒険者。よって手心を加える理由はない。


 旅を快適にする為に一応大まかなルールは最近決めた。食事の場では不味くなるから殺さんし、旅の途中では気分次第で見逃すこともある。一々相手にしてたら霧ないし。


 二度目からのちょっかいは相手の利用価値次第だが、基本は例外なしで潰す気でいる。


「なんて……ことを」

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