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旅、始めました

 王都を飛び出した俺が、広大な平地を抜けて森道に入る頃には既に日が暮れていた。


 辺りは薄暗く、若干の明るさを認識できる程度。


 道中、王国領土の五大都市――【ソードディア】と【グラッパワ】へ続く二つの大きな分かれ道を通り過ぎた。


 次に行く国は一応決めてある。王国の五大都市は魔王軍に侵略されなければ、いつでも行けるし、他国の方が興味ありだ。寄り道する気はない。


 あ~でも今日は想定外の所為で意外と疲れた。


 疲れもそうだが、まずこの森を抜けないことには始まらないし、小さな村でさえも行き着かない。


 初の野宿……か。取り敢えず目先のことを――テントを設置する場所を探すとしよう。


 適当に探し回っていると、良い感じに開けた場所を発見した。


 ボックス収納から取り出したテントを設置した俺は、そこかしこに散らばっている落ち枝を拾い集める。


 十分に集まった枝を、一箇所に置く。


「あ……そういえば、火系の魔道具持ってねえや」


『着火』


 ぼわっと枝が燃え、火の粉が飛び散る焚き火が完成した。


「困った時の言魔法ってね」


 一応は使用を制限したいって気持ちも少なからずあるが、こういう場合は例外で良いか。


 俺が頼り過ぎて自惚れるかどうかも結局は自分次第だ。そん時は甘んじて痛い目を見るとしよう。


 ボックス収納から、更に椅子と食料の一部を取り出す。椅子に座り、鮮度の保たれた魚三匹に割かし長い棒を刺していく。調味料を振りかけるのも忘れない。


 そんじゃ焼き上がるのを待つか。


「……っと、その前に軽い運動とすっかね」


「グルルゥゥゥゥゥ」


 尖った歯を覗かせ、鼻をひくひくと動かし、涎をポタポタと垂れ流すD級魔物――黒い毛並みのウルフが五頭、奥の茂みを揺らしてのそのそと警戒混じりに姿を現した。


「鼻の良い魔物はこれだから嫌になる。食欲旺盛は大いに結構。しかしな、人様の飯をかっさらおうなんてふてぇことはダメダメだ」


 ここ辺を血で汚すのも魔物を引き寄せる原因になりそうだ。何よりも死体が転がった場所で飯は食いたくない。適当に格の差を思い知らせて追い返すのが無難か。


「グルラァァァァァ!」


 ウルフ五頭が一斉に行動に出た。


「止まれ」


 殺気を放ちながら言うと、本能で力量差を悟らされたのか、ウルフ五頭は急にスピードを緩め、ピタッと止まる。


 俺は小刻みに震えるウルフの目の前まで、威圧感を放ちながらゆっくりと歩く。


「帰れ」


 俺はウルフが来た方向を指しながら言う。それだけで、ウルフは尻尾を巻いて逃走した。


 言葉は理解不能でも、ジェスチャーと殺気あるいは威圧感のセットなら分かるみたいだな。


 危機管理力のある魔物は好きだぞ。プライドだけが高い自称実力者よりも、無駄な戦闘を回避してくれる可能性があるから。


「焼け具合も頃合いだろう」


 俺は焚き火地点まで戻り、魚オンリーな食事を楽しむ。森での食事は新鮮だし、焼かれた魚はホロホロウマウマで最高だな。


 食と言えば、最近気づいたことだが、俺は病気になっても治せるすべがある。


 つまり、食生活を気にしなくても良いのだ。美味しい物だけを食べることも、逆に今回のように手を抜くことも自由自在。これほどまで旅人に向いてるとはな。


「言魔法の利便性を改めて認識したところだけど、今日は早めに就寝するか」


 無駄に疲れた戦闘、魔力半分以上消費、遅れを取り戻す走り。思えば初日にしては中々にハードだった気がする。正しくはハードにさせられた、か。


 寝ると決めた途端になんか眠たくなってきたな。


 俺は大きなあくびをして目を軽く擦る。


「旅初日はこれにて終了」


 魔物対策としては……特に問題ないか。襲ってきたとこ勝負ということで。しつこければ何か考えれば良い。


 中が殺風景なテントに入り、俺は暖かな寝袋に包まれた。 





 目が覚め、テントを出ると、日の光が出迎えた。


 焚き火は既に消えている。


 昨日はぐっすり眠れたな。結局魔物も邪魔しに来なかったし。まあ、そんなボンボンボンボン魔物に出られても困るが。


 さてと、早く朝食を済ませて旅を続行するか。


 朝食後、持ち物すべてをボックスに戻した俺は、のんびり木々を見渡しながら歩いている。


 そういやさっきすれ違った男……病気か? って思わせるほど異常にやつれてたな。着ていた衣服も相当ボロかったし。


 ここら辺はまだ都市に近い部類に入る。近くに暮らしてるのなら、裕福じゃないにしても、普通の生活は送れるはずなんだが。


 どれくらいか先に村があるのは確かだろうが、何だかきな臭い気配がする。長居はしないが、注意はしとくか。


 それから暫く平和に歩き続けていたのだが、目元以外の顔を布で覆い隠し、みすぼらしい格好をした変な奴ら三人が、片手にナイフを握った状態で木々の影から飛び出してきた。


「身ぐるみ全部置いてきな。そしたら命までは奪わねえからよ」

「運がない。一人だけでここを通るとは」

「こりゃ今日は楽勝だな。まだガキみたいだし」


「……」


 コイツらってもしかして……盗賊か? うわぁマジかよ。本物の盗賊とか初めて見たぞ。ある意味感激した。


 でも確か盗賊ってあれだよな。魔力の総量がヘボい者の集まりで構成されてて、冒険者を目指してたのに大して活躍できなかった者の成れの果て。農業や商業は嫌だっていう奴らばっかだろ。


 そして、人から盗んで楽しむ性根の腐った落ちぶれ集団を、ちょこっとだけ強いボスが自己顕示欲を主張する為に束ねてるっていう……可哀想。


「おい、無視かよ坊主」

「きっと震えてるんだよリーダー」

「声も出せないのか。だが、好都合」


 軽薄な笑みでニヤニヤ俺を挑発してるみたいだけど、確か身体強化と弱い魔法一発だけで魔力の総量が尽きる赤ん坊魔力しかないんだよな。


 その余裕がどこから来てるのか教えてほしい。実に不思議な奴らだよ。


 けど、面倒だからスルーするか。俺は何事もなかったかのように会釈をして通り過ぎた。


 あちらさんも会釈を返してくれる。これは本当に予想外。ご丁寧にどうも。


「――ってちょっと待てやぁぁぁぁぁ!!」


 息ぴったりだなおい。でもな、お前らに付き合う義理はない。


「ぐっ!」

「べっ!」

「らぁっ!」


 俺の肩を掴んで無理にでも止めようとした一人に裏拳を食らわせる。呆気に取られてる二人の頭を掴み、ゴッツンコさせた。


 しぶといことにまだ意識があるようだ。追ってこられるのも面倒な俺は身体強化を発動し、一人一人を順番に持ち上げて森の茂みに投げ飛ばした――思いっきり。


「良い旅を~」


 とは言え、十メートルちょっと飛んだ程度だが。


 これでもう当分は追ってこないだろ。あんな小物連中は殺す手間も惜しい。極力穏便且つ速やかに解決するに限る。


 んじゃま、行きますか。

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