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俺の変化とクラスメイト達の反応

 激闘を終えた俺が、【ノースレイの森】を出て最初に目にしたのは、我先にと逃げたクラスメイト達の姿だった。


 全体的な雰囲気がどんよりと暗かったが、森の出口からの足音に気付いたことで、俺へと一斉に注目が集まる。


 困惑、安心、焦燥、驚愕などの色々な感情を宿した視線が向けられるが、その全てを無視した俺は一度立ち止まり、明るく綺麗な青空を見上げた。眩しい陽光を全身に浴びることで、再び生の実感を噛み締める。一日も経っていないというのに、随分久しぶりに森の外に出た気分だ。


 いつまでも余韻に浸っていたいけど、残念ながら次に進まなければならない……。


 俺は俺を間接的に殺そうとした者達を探すことに集中した。


 見つけたぞ……。俺が生きていることが、目を見開く程に衝撃か? その憎たらしい顔を悲痛に歪ませてやる。


「リオル!」

「リオルさん!」

「お兄ちゃん!」


 クラスの人波をかき分けて前方に現れた女子生徒三人が、涙を溜めて俺の下へと駆け寄ろうとする姿も見受けられるが――


 俺は女子生徒三人へと歩みを進めてその横を……通り過ぎた。同時に『己を五割まで強化せよ』と小声で魔法を発動させる。


 俺はキリングタイガーとの激戦を終えて尚、魔力が残されていた。まるで運命が俺に囁いてくるようだ――奴等を痛めつけてしまえ……とな。


「――アガッ!?」「――バギャッ!?」


 俺に無視された三人が「えっ」と困惑気味に振り向いた時、俺は既にクラスメイトの後方に移動し、くすんだ灰髪とくすんだ金髪をした二人の頭を掴んで、歯が折れるであろう強さで地面に叩きつけていた。


 ダメージをもろに受けた二人は、顔面を手で覆って痛みにわめいている。


 他が騒ぎ出す前に苛めグループのリーダー格――くすんだ赤髪野郎のがら空きな腹に、重い拳を振り抜いた。口から汚物を吐き散らす前に、くすんだ赤髪に隠れたこめかみを狙ってハイキックを命中させると、顔面から落ちるように調整する。そして後頭部をグリグリと踏み潰してやった。


「爽快だな。お前らはいつもこうやって俺で楽しんでたよな。やっと俺もお前らの気持ちが、ちょこ~っとだけわかった気がするよ。ざまあねえなぁ」


 突然起こったこの光景に誰も反応できず、唖然としている。この場は一瞬で沈黙に支配された。死んだと思っていた俺が、生還したのもさることながら、その矢先にこんな状況だ。もっと言えば、俺が力を振るって傷付けた姿を、誰も一度ですら目撃したことがなかったのに、このタイミングで暴力の瞬間を見たのだから、全員かなりの衝撃だろうよ。


「リオル君何をしているのですか! 早く足を退けなさい!」


 先生が生徒を掻き分けて、前に出てくる。やっぱり先生が一番正気に戻るのが早いな。


「俺の足は退きたがってません!」


 俺は更にグリグリと踏む動作を見せる。そして先生と同じ感じの声の張り上げ方で反論した。


「なっ!? そ、それ以上は教師として見過ごせません! 私も本当に怒りますよ!」


 見過ごせない、ね……。


 教師として俺を助けにこなかった癖によく言う。まあ、今争う気はないから大人しく従っとくか。


「はーい。少しは満足したし、ま、いっか」


 俺は足をどかしてしゃがむと、リーダー格のくすんだ赤髪を掴んで持ち上げた。


「コイツ……。加減された攻撃でのびてんじゃねえ、よっ!」


 意識を失っていたので、顔面をゆっくり強めにバチンッと音が響くように往復ビンタしてやった。わざわざ起こしてあげる俺、超優しいー。


 頬を真っ赤に腫れさせたリーダー格が、意識を取り戻して俺を確認すると怯えの目をしたので、ニコニコしつつ威圧しながら「もう抵抗しない期間は終わった。次からちょっかい出して、大怪我しても自己責任だからな」と言ってビビらせて、強化を解除した後、先生の近くまで歩いた。


「まず、私たちの為にありがとうございました。ですが、教師としては言わせてもらいます。人を助けるのが目的でも、自分を犠牲にするのは駄目です。それと、何があったかは知りませんが、暴力はいけませんよ」


 俺は先生の言葉に腹を抱えて大笑いした。


「な、何がおかしいのですか!」


「だって、先生が面白いことを言うから」


 俺は、笑い涙を腕で拭きながら答えた。


「私は真面目です!」


「なら笑えないな……。苛めを受けていた俺がこんなカス共助けるために、自ら囮になるわけないでしょ」


 俺は声のトーンをガラッと変えて、イラつき混じりにそう言った。


「い、苛め?」


 その聞き返すのでさえ、今の俺にはイライラを加速させる要因でしかない。


「そう、苛めさ。毎日起こる誹謗中傷や殴る蹴るの暴行。朝のこともそう――あれはからかいじゃなくて質の悪い苛めですよ」


「……」


 先生はショックを隠せずに閉口してしまう。てかよ、少しは疑問を持てよ。一学生が、あんな化け物に立ち向かうために自ら残るわけないだろ。


 それと先生は判断ミスをしている。先生は生徒が遅れないように、移動中一番後方にいるべきだったんだ。本当に生徒を守るためならな。まあ、結果的には俺が犠牲にされたことで全員助かったが、俺からの信頼は急降下の一途だよ。


「そこで転がってる奴らに何を言われたか知らないですが、俺は時間稼ぎの生け贄として、魔法で閉じ込められ放置された。これが本当の真実ですよ」


 俺の言葉で周囲がざわめき始めた。


「アイツら過剰だろ」

「最低野郎共だな」

「信じられないわ」


 都合の良い掌返しに俺は「はぁ」と溜め息を吐いて呆れた。俺は知ってる――このクラスのほとんどが、俺を軽視して笑っていたことを。


「ふざけんなお前ら! お前らも苛めを見て楽しんでたから同罪だろうが! 今回のことだって、アイツを犠牲にしなけりゃ、お前ら全員死んでたんだぞ! 俺達にもっと感謝しやがれ!」


 グループの二番手であるくすんだ灰色髪の奴が、口を押さえるのを中断して減らず口をたたいた。俺はそんな言葉より、奴の前歯が綺麗に消えていたことに、人知れずストレスを解消していた。口を開く度に二本分の空白が目に映りこむのだが、俺には滑稽さが目立って見えた。


「お前ら三人と一緒にするな!」


 ほぼ同類同士の癖に低レベルの醜い論争するなよ……。


「うるさいのよあんたたち! それよりあんたどういうことよ! 日頃からリオルに暴力振るってたって。今回のことも生け贄にしたって! 胡散臭い話だと思ってたら本当に全部嘘じゃない! 何があいつの覚悟を無駄にしたくないなら、助けに行くな、よ!」


 俺がほとほと呆れていると、リラが不毛な争いに介入して、二番手の前歯無し男くんに怒気を含めて詰め寄っていた。


 苛めグループの目的としては、自分達が落ち込んだリラ達を慰めて、好感度を上げる予定だったんだろうが誤算だったな。弱い頭を捻りに捻って、やっとの思いで浮かんだ浅い考えなのに、全て水の泡なって可哀想に。


「そ、それは……。そ、そんなことより! アイツ怪我してるぜ! 近くに行ってやったらどうだ?」


 問い詰められるとボロが出るのと、リラが学園で三本の指に入る強さを持つことから、逆らわず口八丁で、方向を変更させる二番手男。元から皆無な好感度を下げたくない、とかも考えてる可能性があるな。


「くっ、覚えておきなさい。あたしはあんたたちのこと、だいっ嫌いよ。この屑集団!」


 リラはハッキリそう言うと俺の下へと、白制服の短めのスカートを翻しながら足早にやって来る。男子生徒は、ほぼ全員精神的ダメージを受けていた。哀れだな。


「リオル大丈夫なの? どこか痛む? 制服もこんな血塗れでボロボロになって……」


 リラが俺の全身を見ながら、眉尻を下げて心配そうな声音で聞いてくる。


「大丈夫ではない。あばら骨数本と左腕が折れてるからな」


「大変じゃない! 今すぐ治療するわね。拳は皮が剥がれてるじゃない!」


 回復魔法が得意なリラに現状を教えると、俺の右手を掴んで治療しようとしてきた。


「治療は不要だ。自分でできる」


 俺はリラの手を軽く払って、拒否を示した。今は自動回復も発動してるため、あまりじっくり見られると不都合なのだ。


「ダメよ! リオルは回復魔法得意じゃないし、サラは回復魔法の適性がないじゃない!」


 俺に振り払われて一歩下がるも、リラはすぐに近寄ってきて諦めない。


「もう上達したから問題ない。それに殴られて回復殴られて回復を繰り返してくうちに、痛みの耐性も幾分かできたから平気だ」


 そもそも俺が魔法を苦手という認識が間違っている。殴られた後、苛め集団の下手くそな回復魔法じゃ治らないから、自分で回復魔法を使っていた。ただ今回は、魔力消費の少ない自動回復で完治させるがな。回復速度も早いし明日の朝までには治っているだろう。


 攻撃魔法も実戦で使えるレベルには達している。性格が邪魔して使う機会を自ら潰していただけだ。


「何であたしに殴られてること言わなかったの……。言ってくれたらあんな奴らあたしが!」


 強いリラならそう言うと思っていた。だがな、リラに言っても無限ループになるだけだ。幼馴染だとしても、学園で一日中一緒にいることは不可能だし、介入されればされるだけ被害が増すことは予想できていた。結局は自分が強くなる他ないのだ。


「言おうと思ったさ。でもな、リラ達も理由の一端なのに言ってどうするんだよ。言ったら俺に関わらないでくれたか?」


「ど、どういうことよ! あたしたちが原因で暴力を受けていたっていうの……」


 告げられた真実に、リラは動揺を声に出し、その後に続く声の言葉尻がだんだんと小さくなる。


「本来ならリラ達には何の落ち度もない。助けてくれたことにも感謝していたさ。でもな、結果的にリラ達の人気が俺を苦しめた。俺が庇われるから、仲が良いから、たったそれだけの理由で俺は暴力を振るわれた。このクラスからも数人、他のクラスの奴、学年の違う奴にまで殴られたことがある」


「そ、そんなことって。あたしたちの所為でリオルが苦しんでいただなんて……」


 俺に淡々と語られた内容に、リラは動揺を隠せず、顔色も悪くなったように感じる。少し後ろにいるミシェルさんも同じ感じだ。


「まあ、もう今更気にしたって後の祭りだ。これから俺に牙を剥く者は潰していくしな」


 そう言って俺はクラスメイトの方に視線を向けて、残り少ない魔力に威圧感を込めて飛ばした。クラスメイトは顔を青ざめさせたり、尻餅をついたりしている。俺が苛めグループをボコボコにしたのを見ていたから、効果は抜群な筈だ。


「リ、リオル。一体どうしたの? 森で何があったの? 森に入る前のリオルは、()なんて使わなかったし、傷付けることが苦手だったじゃない!」


 俺の豹変具合がショックなのか、俺の肩を掴むと、少し見上げる形で真っ直ぐ瞳を合わせてくる。その表情からは、疑問を解消しようする必死さが窺えた。


「死の淵や圧倒的恐怖を経験したからさ。俺は自分の弱い部分を捨てた。捨てなきゃ今頃俺はキリングタイガーの腹の中だ」


 俺はリラの手を肩から外させると、言葉に経験した重みをそのまま乗せて答えた。


「も、もしかして、リオルさんキリングタイガーを討伐なされたのですか……?」


 今まで黙っていたミシェルさんが、長めのスカートを揺らしながら、リラの隣まで来ると、声を震わせながら半信半疑という風に聞いてきた。


「それは想像にお任せするよ」


「そんな……ありえない」

「あんな弱虫だった奴がどうして……」

「ハッタリさ、ハッタリに決まってる」


 俺の余裕そうな表情と声音を聞いて、再び生徒が騒がしくなった。今までの俺を知っているから、特A級魔物を倒せる筈がないと否定的な意見が大半だが、俺の放った威圧感を受けて、倒したと思う者もいるらしい。まあ、コイツらの評価なんてどうでもいいことだ。


「もう俺は帰る。疲れたからな。先生さようなら」


 俺はここで強制的に話を切り上げて、全員から背を向けると、勝手に歩を進めた。


「ま、待ちなさい! まだギルド報告とか事情聴取が残っ――」


 俺は先生から呼び止められる声を無視して、帰路についた。


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