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勇者発表前の前日、王城にて。

 勇者パーティー発表前日の午後。


 王城内部、謁見の間。


 玉座に座るフレデリックと二人の訪問客が向かい合っていた。


「して、話とは何だね。ホワイト家当主の貴殿が唐突な訪問とは珍しい。重要なことなのであろう?」


 白銀の髪、整った顔とそれに似合う無精髭を生やしたスラッと背の高い壮年の男――エドワール・ホワイトが国王の問いに答えるべく口を開いた。


「ええ、私と私の娘にとっては重要なのことです」


「さようか。早速ではあるが聞かせてもらおう」


「無礼を承知で申します。私の娘を勇者パーティーから外して頂きたい」


「な、なんと!?」


 エドワールの発言は、フレデリックが思わず前のめりになるほど、かなり大きな衝撃を与えた。


「私の娘は勇者パーティーに最初から抵抗があったようです。それなのに……私と妻が勝手な期待を押し付けてしまった。優しいこの子はそれを受け入れざるを得なかった。そして……ある日を境に娘は少しずつ暗くなっていきました。原因を訊いたって悲しみを含んだ笑顔で返されるだけ。当たり前だ。私が、私達が原因だったのだから」


 父親であるフレデリックの懺悔を見て、同じ白銀の髪を持つ娘のミシェルは、小さく「お父様……」と呟いた。


 思い出していたのだ。事情聴取を終えた昨日、夜遅くにも関わらず、王城に泊まらないで家に帰った時の出来事を。


 相手が相手だけに仕方ないとはいえ、ミシェルは勇者パーティーを引き受けたのに、昨日無様に敗北して結局は愛しの人――リオルに助けられた。


 その後、リオルが去る後ろ姿を見て、ミシェルは狂いそうなほど強く胸が締めつけられた。


 自分は何故勇者パーティーを引き受けたのか。そんなのは決まってる。今までと同様、両親の為。両親の期待する笑顔が見たいから。


 じゃあどうして私は……泣いてるの? 結果的に今日彼にバレてしまったけど、機密を守った私は両親と国には顔向けできる。だけど、彼には? 彼には……もう。そんなことを思いながら、ミシェルは自分に対して苦悩した。


 耐えられなくなったミシェルは、こうして今まで抑制していた気持ちを両親に打ち明けたのだ――契約魔法に触れない程度で。


「貴殿の申し出は分かった。よっぽどの原因があるのであろう。しかし、それを聞かねば判断できぬ。勇者パーティー発表は明日なのだぞ」


 フレデリックの言葉は、威圧感を含んでいた。それは、下らぬ理由であれば絶対に許さん! そう感じさせるものがある。


「それは私からお話します」


 話すのはエドワールではなく、口を挟んだミシェルのようだ。自分のことは自分で言う。これはミシェルの覚悟だ。


「申してみよ」


「私は勇者パーティーの誘いを両親の為に引き受けました。……ですが、引き受けてしまったことで、とても大事な人と絶望的に距離が開きました。もう修復は不可能かもしれません。それでも私はその人と……。自分勝手なのは重々理解していますが、どうか辞退させてください。お願いします!」


 ミシェルは真剣な口調で言い終えると、深々と頭を下げる。


「本気……なのだな?」


「はい」


「ホワイト嬢は国民と関係修復不可能に近い一人を天秤にかけて一人の方を選ぶ。そう断言しているのと同義であるが、その言葉の意味することがどういうことなのか……分かっておるな?」


 並の者なら息苦しさを感じるほど、フレデリックは威圧感を強め、脅すように覚悟を問う。


「はい。承知の上です」


 ミシェルは冷や汗を少し流したものの、顔色と口調は一切乱さず、堂々としたたたずまいで答えた。


「……うむ、良かろう。ホワイト嬢の思いの強さに免じて、今回だけ特別に許そう。勇者パーティーの面々には、余から諸事情により脱退することになったと伝えておこう」


 頷いたフレデリックは柔和な笑顔を浮かべ、意外とすんなり認めた。


「あ、ありがとうございます!」


「寛大な措置、感謝致します。この度のご恩には必ず報います」


 ミシェルは先ほどとは違い、感謝の気持ちで頭を下げ、エドワールは緊張を解き、こちらも頭を軽く下げて礼を言った。


「よいよい。ホワイト家には代々国を支えてもらっておるし。貴殿からも尽くしてもらっている」


「ありがたきお言葉です。国王様」


「しかしながら、困った。早急に代わりになるような者もおらぬしな。どうしたものか……」


 腕を組んだフレデリックは、困惑の色を顔に浮かて目を閉じたまま、う~んと低い声で唸る。


「国王様、その点においては心配ご無用です」


 困り果てていたフレデリックは、ミシェルの声に目を開けた。


「代役となってくれる方が既に見つかっています」


「しかし、急成長が見込めてホワイト嬢並みに才能がある者でなければ……」


 フレデリックは人差し指と親指で顎を挟み、不安そうにぼやく。


「それについては大丈夫です。性格には少し難ありですが、その方は私以上の才があると思います。現時点では私を含めた勇者パーティーメンバーの誰よりも強いですよ」


「そのような者……それは一体誰なのだ?」


「バーン家の長男、ルドガー・バーンさんです。ホワイト家と同格のバーン家ですから素質については十分過ぎるかと」


「あのバーン家の問題児か……。確かに彼ほどの者であれば、戦闘狂でもあるし、人材的には申し分ないと言えるが……」


 フレデリックは考え込む。売られた喧嘩は強ければ買い、弱ければ徹底的に無視。家のことより強い奴と戦いたい。そんな性格だからこそ、長男で優秀にも関わらず、自ら当主の座を放棄までした――それがルドガー・バーンという男だ。


 協調性が欠片でもあれば良いが、無ければ目も当てられない。そこに拭いきれない不安を感じて難色を示している。


「バーン家とは私が午前中に交渉済みです。あとは国王様のご返答次第で受け入れると確約してくれています」


「本人は本当に納得しているのだね?」


「彼曰く、強者と戦える場を用意するなら、喜んで引き受けるそうです」


 エドワールの言葉で決心したのか、フレデリックは諦めの溜め息を吐いた。


「仕方ない。他を探すには時間も足らんしな。夕方にここへ来るように伝えてくれるかね。顔合わせと明日についての話があるとな」


 フレデリックの言葉をエドワールは了承する。


「最後に改めて礼を言います。この度は娘の為にありがとうございました。それでは失礼します。行くぞミシェル」


「はい、お父様。国王様、色々と大変な時期にすみませんでした。本当に感謝しています」


 エドワールとミシェルは踵を翻し、コツコツと足音を鳴らしながら謁見の間を出ていった。





「本当に良かったのですかい?」


 玉座の裏から黒いローブを身に纏った者が忽然と現れ、フレデリックの隣まで移動した。


 どうやら気配を殺してずっと玉座の裏に潜んでたらしい。


「あれで良い。今はあれがベストであった」


 フレデリックは国の為にも二大貴族といざこざを起こして関係性を崩したくはない。


 幾ら信頼を勝ち取ろうとも、二大貴族――特にホワイト家の方は敵に回せない。ホワイト家の当主の人柄が良いのは周知の事実。関係を拗らせて国民にそのことが漏洩すれば、せっかくここまで築いてきた信頼が揺らぎかねない。


 もしもそんなことになれば、国はすぐにでも魔王軍の手に落ちてしまう可能性だろう。


「それにな、バーン家の長男でもそこまで問題はない」


「何故ですかい? 扱いにくそうでっせ」


「素行の問題は確かにある。しかし、初めは彼を選ぶことも考えていた」


「じゃあ、何故選ばなかったんですかい?」


「男なら女の方が嬉しいと思ってな。だが、あの勇者は単純に扱いやすい。特別な措置なしでも、余と国と国民の為に都合よく働いてくれそうだ」


 フレデリックがパーティーを女で固めたのは偶然ではない。もちろん第一に才能も条件だ。


 しかし、その中の誰か一人とでも親しい関係になれば、首輪になると思っていた。仮に裏切った時の保険である。


 もっとも、フレデリックは良い意味で裏切られ、アイザワはもっと簡単な存在だと認識を改めたみたいだが。


「可哀想な勇者様。こんなブラック過ぎる王様の為に働かなくてはいけないだなんて」


「ハイド……君よりマシさ。君は永遠のスパイなんだから」


「そうですね。あっしは王様には逆らえない。二重スパイ辛い」


 ハイドという名前の怪しいこの者は、半年ほど前にこの王城に忍び込んだスパイだ。


「君が間抜けなのが悪い。さぁ、そろそろ君も定期的報告だろう? 行ってくると良い。バレたら永遠にさようならだが」


 フレデリックが間抜けと言ったのは、本当に間抜けだからだ。ここに侵入した時、まず一番に宝物庫に侵入し、物色していたのだ。


 そんな時、喉が渇いていたハイドが、何を思ったのか、近くに置いてあった小瓶の液体を飲み干したのだ。


 その飲んだ液体というのが、王家の人間が大昔に作ったと伝えられている伝説級の禁薬【永久奴隷の王水】だ。


 効果は王家の血を引く者に対して永久的に絶対服従。中でも王様が優先される為、最初の出会いが運良く? フレデリックだったこともあり、フレデリック限定の使いっぱしりとなったのだ。


「性格悪いっすね。まあ、上手くやりまっせ。まだ死にたくないんで」


「そうかい。生きてた時は有用な情報を期待してるよ。君のような下っ端には無理かもしれないが」


「へいへい。まあ、頑張りまっせ。隠密だけがあっしの取り柄なんで。じゃあ、下っ端はもう行くっすね」


 ハイドは自画自賛するだけあって、気配と共に一瞬で姿をくらまし、謁見の間にはフレデリックだけとなった。


「ああ、頼んだよ。魔族のハイド」

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