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勇者パーティーのお披露目

「嘘だろ。何で若者ばかりなんだ?」

「一人を除いてまだ皆十代じゃないか」

「バーン家の問題児だと。どうしてあんな奴が選ばれたんだ……」


 一人メンバーが代わってる……だと? どういうことだ。俺は群衆とは別の意味で困惑していた。


「皆のもの、静粛に。言いたいことも多々あるであろうが、ここは余の顔を立ててくれ。質問なら後で受けよう。……では、一人ずつ自己紹介を」


 敬愛する国王の言葉により、一旦群衆のどよめきが収まると、一番左端のサラが前に出た。


「サラ・サーファです。わたしは見ての通り、まだまだ未熟です。そんなわたしに不安を抱くでしょうが、選ばれた以上は精一杯頑張りたいと思っています」


 サラは無難に終わり、後ろに下がる。群衆の拍手はまばらだ。


 入れ代わるようにしてミラーが前へと出る。


「リラ・ミラーです。あたしは……あたしの一番大切な繋がりを壊す一因となった魔族を許しません」


 ミラーの短い言葉や瞳には、憎悪らしきものが宿っていた。


「わたくしは第一王女、ステファニー・リンドバーグです。皆さんの不安は分かります。わたくしも不安ですから。そんな不安を取り除く為、国一丸となって魔族に立ち向かいましょう。その先に明るい未来がきっと待ってます」


 国の顔である王女もパーティーと知り、群衆は困惑の色を濃くする。


 王女が終えたら、次は炎を連想させる赤い髪の青年が、大きなあくびをしつつ頭を掻きながら、気だるそうに前へと出た。


「……ルドガー・バーンだ。おれは強い奴と戦いてえだけで、弱い奴には興味がない。国を救うとか崇高な目的は微塵もねえから変な期待はしないこったな」


 バーンは最後に鼻で笑い、後ろに下がって腕を組む。他のメンバーには微妙な顔をされ、群衆に至っては文句の嵐とブーイングを浴びせる始末。本人は我関せずとばかりに目を閉じて無視。


 弱者のうるさい騒音くらいにしか感じてなく、興味の対象外としてるからこそ、あんな態度を取れてるんだろうな。


 薄い眉につり上がった鋭い目。一見ガラの悪い男にしか見えないが、強者に似たような雰囲気を纏っている。


 あれがホワイト家と連なる二大貴族――バーン家の長男か。貴族とは到底思えないほど口が悪い。噂では次男に家督を継がせると聞く。中々に面白い奴が新加入したものだ。


 勇者パーティーには嬉しいことじゃないか。評判は見ての通りあまりよろしくないが、今Sランク冒険者に最も近いとまで言われてる男だ。戦力増強には打ってつけだろ。


「オレは勇者のアカシ・アイザワです。異世界から召喚されました。オレは魔族を許せない。人間とは違う残酷な存在だと身にしめて分かりました。目の前で一人の教員が殺されたんです。彼は何もしてないのに……。オレはもっともっと強くなります。この国の助けになり、魔王軍の侵略を阻止し、いつの日か必ず倒すと誓います!」


「何と立派な言葉じゃ。まだ若いというのに関係無いわしらの為に……」


 アイザワの真剣な言葉は群衆の胸を強く打ったらしく、この広場は万雷の拍手に包まれた。


 ここにいる全員は、アイザワが魔族ナインのバルムドを倒したと思い込んでる。だからこそ、こんなにも滑稽な感動劇が繰り広げられた。


 真実を知る俺からしたら、かなり違和感だらけの光景だが、それでも上手く成り立っている。勇者という称号は条件が整えば強力になるな。まあ、俺から見たら完全に諸刃の剣だけど。





 広場中に鳴り響いてた拍手の音が止むと、勇者パーティーは後ろに下がり、再び国王が前に出て口を開く。


「さて、勇者パーティーの紹介はこれで終わりである。しかし、皆のものには疑問があるであろう。今からその疑問に答えようではないか」


 群衆の一人が挙手し、国王が発言を促す。


「勇者様は仕方ないにしても、どうしてパーティーメンバーが若いのでしょうか?」


「実に簡単なことである。Sランク冒険者は各都市の防衛に専念させねばならん。侵略行為が行われた時の為にな。騎士団長と宮廷魔導師も同様に。Aランク冒険者では単純に力不足なのだ」


 この国王の返答に、俺の少し前に立つ秀才風の男が挙手しながら話始める。


「失礼ですが、それは学生の彼女達にも言えるのでは?」


「彼女達は類い稀なる素質を秘めておる。娘のステファニーは王家にのみ使える特別な光魔法を十代で習得しておる。普通は二十代半ばでやっとなのだ。加えて魔族への威力は十倍と強力。千年前の古い伝承では、魔王へ多大なダメージを与え、勇者が聖剣で倒したとされてもおる。他の者達も負けず劣らずの才能がある。だからパーティーメンバーにしたのだ」


 おいおいちょっと待て。あれの十倍は半端じゃないぞ。王家の魔法を身をもって体験した俺だから思うことだが、威力を更に上げられるなら、魔族ナインクラス……もうエイトか? にすら重症もしくは死を与えられる可能性が高い。


 更に他のメンバーも強くなる素質があり、どんな手かは知らないが、そのことを検査系の方法で調べたのだろう。


 これで益々ホワイトがパーティーから外れた要因が深まってしまったが……いや、別に知らなくても良いか。どうせ俺が知っても意味のないことだ。


 国王もこれ以上重要なことをペラペラ話さないだろう。おそらくだが、さっきのは潜んでるかもしれない密偵への牽制だ。安易に手を出すと、痛いしっぺ返しを食らうことになると。


 そうじゃないにしても、あれこれ質問されたからといって、重要なことを嘘なしで答えるとは思えない。そのことを、あの演説が見事に証明している。


 バーンへの批判もそろそろ起こりそうだ。別にそんな下らないことに興味ないしな。


 俺は混雑しまくってる人の間を縫って、何とか苦労しながらもこの場から立ち去った。





 あれから一週間が過ぎた。サラは一度も家には戻ってない。理由は何となく分かってる。


 俺と気まずいからってのも前提にあるだろうが、あの演説兼勇者パーティー発表時に俺が立ち去った後、勇者パーティーを祝福する為のパレードが一週間後――つまり今日開催されると伝えられたらしいのだ。


 発表直後だから、色んな起こり得るトラブルを想定し、ある程度周囲が落ち着くまで、家に帰さない方が良いと判断されたという可能性もある。


 兎に角今日は、王都全体がお祭り気分で騒がしくなりそうだ。全然興味無いから俺にはどうでも良いことだけど。


 俺がこの王都を出発するまで残り二日にまで迫った。


 ちょうど良い。今日はギルドで思う存分依頼を受けよう。資金稼ぎのラストスパートだ。


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