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国王の演説

 日差しが照りつける午後。王城前広場は非常に大勢の【ウルファス王国】の民が、国の重大発表を聞く為に集まり、今か今かとざわつきながらも待っていた。


 王都【アラドス】の国民だけで無く、王国領土である五大都市のお偉いさんも来てるらしい。


 俺も午前中に依頼を達成し、この場に集まる群衆の一人と化している。俺がここに足を運んだのは、どんな発表の仕方をするのかという純粋な好奇心からだ。


 俺は噴水前のベンチに座ってるが、前方に設置されてる大きく高さのある演説ステージが見える。うじゃうじゃ密集するほど多い民衆の前で演説するって中々に強メンタルだと思う。


「王様だー!」

「フレデリック様ー!」

「王様バンザーイ!」 


 この位置からじゃ見えないが、どうやらフレデリック現国王が登場してきたらしい。国王の登場に群衆が一層騒ぎ出す。


 現国王って結構国民の心を掴んでるのか。見た目はシルバーブロンドのオールバックで、五十代なのに四十代手前に見える若々しさがあり、愛想も良いから人気ではありそうだ。


 政策にしたって六年くらい前に亡くなった、前国王よりかは優秀だと思う。前任者が微妙だと、それよりもマシな政策をすれば人気が上がるのは必然。前任者が優秀な場合じゃない方が引き継いだ後は楽なのだろうな――信頼を得やすいという点では。


 前国王は良くも悪くも現状維持の人だった。それに比べて表向きとはいえ、民の声を真剣に聞き、それを参考に政策を行う姿勢を見せてくれるのだから当然なのかもな。中でも税の徴収額を減らしたり、悪どい貴族を財産没収した上で牢獄行きにしたのも理由に入るだろう。


 演説ステージにはいつの間にか八名の者が登壇し終えていた。国王の後ろ左右に待機してる二人は、護衛を任されたであろう騎士団長と宮廷魔導師か。国王の護衛はやはり豪華だな。


 その後ろに五人。白のローブに身を包み、フードを目深にかぶった謎の者達が横一列に並んでいる。


 考えるまでもない。あれは勇者パーティーだ。国王の演説後に正体を明らかにする手筈なんだろう。


「そろそろ国王が話し出しそうだ。静観するか」


 国王は一通り群衆に向けて柔らかな笑顔で手を振り終えると、真剣な顔つきへと顔を引き締めた。整った顔立ちの柔和な笑顔から仕事用の厳格な顔になる。その変化を感じ取ったのか、群衆の騒がしさも少し落ち着く。


 表情ひとつで重い雰囲気を出すとは、国王の威厳は凄いな。


 魔王と同じ王なだけある。仮にも人間の代表者なのだから、国民からしたら無能じゃ困よな。そう考えれば、このくらい当然とも言えるが。


「皆のもの、多忙な中よく集まってくれた。心より感謝する。早速ではあるが、本題に入ろう。心して聞いてほしい。……魔王軍が侵略行動に移る日は近いやも知れぬ」


 国王が真っ直ぐに突きつけた残酷な現実に、群衆の反応は様々だ。泣く者、肩を抱いて震える者、虚勢を張って強がる者、ただただ絶望に打ちひしがれて青ざめる者、現実を受け入れない者。


 国王は、始まる前から敗北気分で弱気な群衆を見つめながらも、悪い空気のまま重い口を開く。


「残念ながら……事実である。根拠のひとつとして先日、ノースレイの森で本来生息するはずのない特A級魔物が確認された。幸いにもその日のうちに討伐され、犠牲者はゼロであったが。ギルド関係者は既に聞いておろう? 余はそれが魔族の仕業だと推測しておる」


 キリングタイガーの件は必ずしも間違いとは言い切れない。生息地からもだいぶ離れている。誰かが連れてこない限り辿り着くことはあり得ない。何の為に送り込んだのか理由は不明だが。


「もうひとつの根拠、これに関しては最早否定しようもない。一昨日、対魔物学園に魔族ナインを名乗る序列九位の幹部が現れたのだ」


「そ、その魔族はど、どうなったのでしょうか?」


 群衆が恐怖に陥るが、一人の小太りな中年男性が緊張しながらも、誰もが抱いたであろう疑問を代弁した。


「倒された。我が国に召喚されし勇者によって!」


 群衆は絶望の淵から突然の希望をもたらされたことで「勇者だって!?」「いつの間に召喚を?」「あの怪物と噂される一角を落としたのか!」などの驚きの感情を強くしている。


「召喚したのを黙ってたのは申し訳ない。しかし、召喚したばかりの勇者を公表すれば、真っ先に狙われると思った。勇者と言えど最初から強くはないのだ。だから、立派に成長してから公表するつもりだった。……内密にしてたのに何故バレた? 皆のものの疑問はここにもあるであろう」


 そこの言い方次第では国民の不信を招きそうなものだが、さぁどう答える。


「正確にはバレておらんのだ。おらんかったと言うべきか。魔族は()()()()()()に来た。学園に降り立ったのは、未熟な者が多いのと教師陣は生徒を人質にすれば動けないという理由からである。実に狡猾な手を使い、情報を仕入れようとしたものだ。侵入を許してしまったこと自体余の責任なのだ。本当に申し訳ない!」


 頭を深々と下げる国王を見て群衆は「そんなことない! 悪いのは侵入してきた魔族だ!」「王様は良い王様ですから、謝らないでください!」「卑怯な魔族が悪いんだ!」国王を次々と擁護し始めた。


 日頃の政策で信頼が厚いお蔭なのと、国王自ら謝る姿勢で民を味方につけるか……。とんだやり手だな。堂々と嘘をでっち上げてるのに、一定以上の不信を抱かせない。国のトップらしい演説だな。面の皮が何重にも厚そうだ。


 まさかここまで国王の人気が高いとは。これで国王の嘘は、国王への信頼度が落ちるまで嘘と思われることはない。無いとは思うが、もし真実を知る者が否定したとしても、否定する者の方が潰されるだろう――この件に限らず。


 今回に関しては、俺にとって好都合だから何の問題もないが。


「皆のもの、ありがとう。不甲斐ない余だが、今回は学園に通わせておる、まだまだ成長途中で更なる向上が見込めた勇者のお蔭で難を逃れることができた。しかし、勇者が魔族の幹部を倒した事実はすぐに魔族側に伝わるだろう」


「だが、不安に思うことはない。信じるのだ! 余は本気で信じておる! 魔王軍の侵略行為が始まろうとも、ウルファス王国のSランク冒険者及び他の多くの実力者、そして勇者とそのパーティーの力があれば、魔王軍と互角以上に渡り合い、必ず勝利する日が来ることを!」


「う、うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「俺も、俺達も微力かもしれないけど、そう信じて戦うぜ!」

「フレデリック様ー! 俺の命を預けます!」


 これが人心掌握術か。ここまで強力な効果発揮の場面を見せられると、ある意味もう魔法の領域だわこれ。種類は集団催眠系の怪しげなやつ。


 ある程度群衆が落ち着いてくると、次は今日の真なる主役達の発表へと移っていく。フードをかぶった者達が国王に促され、前へと出てきた。


「皆のもの、この者達が勇者とそのパーティーである。さぁもう良い。フードを脱いで顔を見せてあげなさい」

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