表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/57

新たなスタート。ギルドの小者

 俺は自宅への道を帰っている。日も徐々に暮れ始め、青かった空はじわじわと朱色に染められつつある。


 冒険帰りの者、夕食の買い物をする者、これから飲みに行く者。【アラドス】へ魔族の幹部が侵入していたとは思えないほど、平和な光景が広がっていた。


 まあ、そう遠くない未来では、見られなくなりそうだが。今回の件は間違いなく何かしらの引き金となる。幹部を殺したことで何の変化もない方がおかしい。


 魔族と衝突する日は着実に縮まった――そう考えるのが現実的だ。均衡が破られる日は近い。矛先が向かない限り、俺には関係ないが。


 ……やっと、やっとだ。これでしがらみからも解放された。疲労感はあるが、それでも足取りだけはいつになく軽い。


 勇者パーティーにすべてを押し付けることにも成功した。あの契約魔法は当分の間、破られることはない。何故なら、代表者をアイザワにしたからだ。


 俺は適当にアイザワを指名した風に言ったが、それには一つ狙いがあった。契約魔法は一般的にはあまり知られていないのだ。教員が驚きを露にしたのも、知識に無かったからである。


 あれは結構古い部類の本で知った魔法だ。俺は読書量は多い方だと自負している。いつか蓄えた知識が役に立つ日が来るとは思っていたが、まさかそれが今日だったとは。


 図書館の棚に並べられている莫大な本の中、偶然発見したその本にはこう記されていた『契約魔法の解除方法はただ一つ。それは、代表者の死。この方法以外で破る方法は存在しない。誰かが契約魔法を完璧に理解し、新たに作らない限りは』と。


 実質、アイザワが死ななければ解かれることはない。これからは本腰を入れてアイザワを鍛えるだろうし、護衛も騎士団長や宮廷魔導師クラスが任されるはず。バルムドにお墨付きを貰ったあの三人も才能的に強くなる。


 つまり、俺が面倒事に巻き込まれる可能性はほぼゼロ。バレることはない。例え俺だと結びついたとしても証拠は出ない。俺がこの国に縛られることはない。


 十日だ。十日後、出国する。その時こそ真の自由であり、新たな俺の始まりだ。





 俺が学園を辞めた翌日。


 昨日サラは帰ってこなかった。おそらくだが、事情聴取を受けていたのだろう。俺の身代わりご苦労様だ。


 これからについてだが、まずは資金準備だな。両親の遺産もあることはあるが、まだまだ心許ない。サラと半分にすれば、三百万コルタずつ。多そうに思えるが、金はあればあるだけ良い。戦闘経験にもなるし、ギルドで稼ぐ。


 ギルドにはランクアップ試験があり、ランクを上げるには試験を受けなければならない。Cランク冒険者からは固定給料もつくが、国が危機に陥ると強制労働の義務が発生する。国の為に命を懸けるとか俺には無理。


 幸いだったのは、Fランクの俺でも高難度の依頼を受けられることだ。その代わり完全な自己責任であり、死んでも文句は言えないがな。


 俺は円錐型の大きな建物に足を踏み入れる。相変わらず、ワイワイガヤガヤと賑わってるな。良い意味でも悪い意味でも。


 俺は自分に送られる視線を無視し、依頼書が張り出されている場所まで向かった。ここで注意だが、俺はBランク依頼までしか受けない。強いという印象を与え過ぎて、目をつけられるのを避ける為だ。


 俺が依頼書を眺めていると、冒険者二人の中々に興味深い話が流れてくる。


「おいおい聞いたか、例の話」


「あれか、明日の午後から重大発表を広場でするって話」


「ああ、それだ。いったい何だろうな」


「さあな。まあ、明るい話が良いよな。最近は魔族とかの暗い話ばっかだしよ」


「そうだな……」


 耳に入ってきた会話から推測は可能だった。


 勇者パーティーのお披露目だ。国王もこのまま隠し通すことは不可能だと判断したはず。それにこのタイミングは発表するのにベスト。魔族に不安を抱く国民に、とーっても良い報告ができるだろうし。


 国王は真実が分かっていたとしても、勇者パーティーの活躍にする必要がある。勇者パーティーも勇者パーティーで自分達が倒してなくとも、倒したと言わなければならない。


 どんな偽り演説をするか楽しみだ。俺も明日暇なら見に行ってみるか。


 まあ、明日は明日。今日は今日。依頼はこれに決めた。俺は紙を剥がし、一番近くに座る受付嬢に渡した。


「あの、失礼ですが、あなたはFランクですよね?」


 栗毛の若い受付嬢が、俺を見るなり怪訝そうに確認してくる。どうやら俺はこの受付嬢にも知られてるらしい。


 大した知名度だな。ちっとも嬉しくない。


「そうだが何か?」


「本当に良いのですか? あなたが受けたら生存率は絶望的だと思われますが」


 ランクで判断すると目が曇るぞ。まあ、少し前の俺を知ってるなら先入観の所為で仕方ないとは思うが。


「構わない」


「しつこいようですが、もう一度確認します。本当によろし――」


「ソフィちゃんこの坊主がどうかし……おいおいマジかよ。ぶははっ、これは笑えるぜ。お前みたいなのが依頼を受けるとか何の冗談だぁ? 臆病小僧のサーファジュニア!」


「……」


 依頼書を勝手に奪い取り、俺を嘲笑してきた、このハゲ! もとい体格に恵まれた、顔の厳ついスキンヘッド男。


 うざったい奴が現れたもんだ。この大男の所為で無駄に注目を浴びてしまったんだが。


 つうか、ジュニアってなんだよ。そんな呼ばれ方今まで一度もされたことねえよ。


「どんな低ランクの依頼を……は? はぁぁぁぁぁぁ! 小僧お前とうとう自殺すんのかよ。Bランクってふざけ過ぎだろ」


「お前には関係ない。さっさと失せろ」


 コイツ、ホントに消えてほしい。お蔭で鬱陶しいひそひそ声が増えた。


「何だとテメエ! 随分と偉そうな口叩くようになったじゃねえか。臆病小僧の分際でよ。俺はお前と違ってランクはC。しかも、あと少しでBランクだ。格が違うんだよ格が。口の聞き方には気をつけな。でなきゃ次は泣かすぞコラァ!」


 あーやだやだ。ランクで強くなった気でいる奴はこれだからみっともない。


 耳元で叫ぶのも止めろ。唾を飛ばすな。もしかして地味な嫌がらせか? 汚ねえな。口の締まりが悪い奴め。


「早く了承してくれ。それがあんたの仕事だろ」


「無視してんじゃねえ! 舐めやがって。こうなりゃ痛い目見せてやる」


「駄目です。ここは暴れる場所ではありません。あなたも挑発しないで。謝ってください」


「黙れ。いい加減仕事しろよ。職務放棄は減給だろうが」


 俺に謝れとか意味不明なこと言いやがって。絡んできたのはあっちからだろうが。不当に謝らせようとすんな。


「優しいソフィちゃんの好意を無駄にしやがって。ソフィちゃん、少しも心配するこたぁねえ。先輩からのありがたいアドバイスだ。常識知らずの生意気小僧へ、な!」


 拳を振り上げてどうするんだ? お前ごとき野蛮人が俺を殴れると思うなよ。


『止まれ』


『俺を一割強化せよ』


 俺は小さく呟き、言魔法を発動。


 大男の動きを止め、自分を強化。


「あばよ、Cランクの小者野郎」


「ぐわぁぁぁぁぁ!」


 大男の無防備な腹を強めに蹴ると、痛みによる叫び声を上げながら吹っ飛び、壁に激突して意識を落とした。


 やっと耳障りな奴が消えたか。将来ハゲないか心配してしまうほど不快の塊だった。


「これでも受ける資格はないと?」


「い、いえ……申し訳ありませんでした。依頼を受理します。お気をつけてくださいませ」


 俺は足早にギルドから出た。少し目立ち過ぎた気もしないが、あの程度なら大丈夫だろう。ギルドマスターも以前言っていたしな――絡んだ奴の自業自得だ、と。


 依頼内容はCランク魔物――パンチングコングの群れ十二頭の討伐。報酬は三十万コルタ。依頼達成はギルドカードで証明するんだったよな確か。


 冒険者の報酬額は高いのは、ソロに比べてパーティー組が多いのと命懸けという理由からだ。


 強い者が得をする。まさに弱肉強食だ。豹変前の俺は実力主義な面に馴染めなかった。今は全然平気だがな。


 環境が無理矢理にでも人を変える……ということかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ