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学園よ、さようなら、永遠に

「サーファすげぇ!」

「サーファ君、ありがとう!」

「サーファ、今まで本当に悪かった。自分が恥ずかしいよ。何で俺はサーファの苛めを止めなかったんだ。少し前の俺を殴りてえ! これからはもうやらねえって誓う!」

「私もごめんなさい! そしてありがとう!」

「僕が勇気を出して止めてあげられたら。こんな僕達を助けてくれて本当にありがとう。これからは反省するよ!」


 感謝と謝罪の声が多くなってきた。こんなにも俺に罪悪感を持ってた奴らがいたなんて……。


「サーファ! サーファ! サーファ!」 

「サーファ!」

「サーファ!」


 今度はサーファコールが巻き起こり始めた。ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。


 お蔭で俺は再確認できたよ。お前らの身勝手な調子の良さが。圧倒的な手のひら返しの上手さが。例え間違ってようとも、優勢な方の味方になるその姑息さが。


 そして、そんなお前らのこと……俺は大大、大嫌いだ。


 お前らの本質、しかと見せてもらった。


 これで心置きなく、ここを去れる。


「あは、あはははははははははっ。マジで滑稽……滑稽過ぎるよお前ら」


 俺は場内にいる者達を全力で嘲笑った。続く言葉は、徐々に低い声に変化し、周囲を睨みつけ、そのまま見渡した。


「謝罪に感謝、サーファコール。自己満足してるところ悪いけど、お前らのことはとっくに見限ってるから。これから反省するって? だから何? 反省したって過去は変えられないよ? それに俺は今日付けで自主退学することだし。お前らとの関係は今日をもって、本当にただの他人で終わるんだよ」


 静まり返った奴らを無視し、俺はバルムドの翼を再度召喚した大ハサミでちょんぎり、すぐにハサミを消す。


 俺が翼と三本の角を回収したところで、一人の男性教員に声を掛けられる。


「待ってくれ。考え直してくれないかい。これまでの君の不遇には同情するが、今君はこの学園に必要な存在なんだ。それに退学届けだってまだ書いてないだろ?」


 ()ね。つまり、今日魔族と戦闘する前までは、学費だけ払ってくれる財布君的な存在だったわけだ。


「上部だけの同情はいらない。それに俺はあんた達なんてどうでも良い。頑張って勇者を育ててくれ。今のままだとすぐに死んでしまうぞ。それと、退学届けはここに」


 俺は内ポケットから『退学届け』と書かれた白い封筒を取り出す。


「少し落ち着くんだ。学費だって払ってるはずだ。もったいないだろう。せめて今年だけでも……」


 どんだけ~。うざったいなホント。俺が苛めを受けてても、知らない振りをし続けた教員の言葉とは思えないね。


「確かに無駄な金を払ってたってことになるのか。うん、良いよ」


「本当か!」


 何を勘違いしたのか、教員の声と表情にあからさまな元気が戻る。どんだけめでたい頭をしてるんだか。


「早とちりし過ぎ。人間の醜い部分を見せてくれた勉強代として、もう学費は良いと言ったんだよ」


「だが、退学届けは学園長に渡さないと……」


 粘るねぇ。もうこの際、ねばーる教員と名付けようか。ねばーる教員は無駄に粘ることが好きだから、本当に困るな~。


「渡してくれるよね? まあ、別に破っても良いけど、俺はここにはもう二度と通わないから。あ、そうだそうだ。大事なことを忘れてた」


『契約魔法発動・対象範囲は、この闘技場内で俺とバルムドに関する出来事を知った者達』


 俺が言魔法で契約魔法を唱えると、この場内にいる者全員の体が白い光に包まれる。


 この光自体には何の害もないから平気なのだが、そんなことを知らない者達の多くはパニックに陥っている。


「な、何だ!? 何をする気だ!」


 そんな奴らを代弁するみたいに、ねばーる教員が危機迫った表情で怒鳴った。


「俺が今から言うことに同意してくれればどうにもならないよ」


「もし……拒否すれば?」


「まあ、まず全員に聞いてもらう。全員俺の話を黙って聞け! 今回の魔族を倒した功績は、勇者パーティーが解決したと報告すること」


 場内にざわつきが起こる。


「宮廷魔導師になれるレベルの功績を君は譲る気なのか!?」


 何をそんなに驚く必要がある。あんなもの給料が良いだけの名誉職だろ。面白味の欠片もないし、国に忠誠を誓うも同義。


 俺は愛国心なんて持ち合わせてはいない。それどころかこの国に関しては見限っている。


 何の理由で勇者の件を秘匿したのか知らないし、興味もないけどな、秘匿なんてするべきじゃなかった。勇者が強くなるまで守る為だとしてもだ。希望である勇者は、可能な限り大衆での敗北や死は許されないが、それならそれで方法は幾らでもあった。


 今回俺が手柄を渡さなければ、勇者に対する信頼性や国の威信は、がた落ちになる可能性大だ。そうなると、俺が祭り上げられそうだからこんな契約魔法を発動したんだけどな。仮にそうなっても拒否してたが。


 まあ、どうにしたって内通者が潜んでることに気づいてないのは致命的だがな。勇者がバレたことこそが、内通者の存在を明らかにしてる。

 

「そんなものに興味はない」


「そ、そんなもの……」


「俺が倒したという事実は、どんな手段を用いようとも、この場の者以外に伝えてはならない。伝わりかければ、強制的に口が閉じる。しつこく破ろうとすれば、激痛に襲われる。今回はお前らの命を救ってやったんだ。まさかとは思うが、拒否なんてしないよな? 代表者が了承すれば、契約成立だ」


「代表者とは誰のことなんだい……?」


「そうだなぁ、勇者で良いんじゃないか。立派なお前達の代表だろ? 因みに拒否すれば……どうなるかな? さて、早く誰でも良いから勇者の了承を取ってこい」


 冷静に考えれば、今の俺にここにいるすべてをどうこうする力は残っていないと分かる。俺が疲れてない風を装って、余裕さを醸し出してるのもあるが、あの戦闘を見たからこそ俺には逆らえないはずだ。


 ここにいる全員の前でバルムドに勝ったことは、それだけ大の影響を与えることができたのだろう。


「本当にそれ以外に害はないんだね?」


 俺は頷いて見せる。


「ああ。そもそも嘘を吐いたら契約が成立しない」


「分かった。少し待っててくれ」


 俺が目を閉じ、待つこと数分。ボロボロのアイザワの説得に成功したらしい。


「勇者アイザワ。了承するな?」


 倒れたままのアイザワを見下ろし、最終確認をする。


「……する」


 聞き取り難いほどに小さかったが、了承を得られた俺は小さく笑う。


「契約成立だ」


 白い光のオーラが同化するかのように、全員の体内へと染み込むみたいにして消える。


 あ~最悪。もう魔力一割ちょっとになっちまったじゃねえか。ちょっと気だるい。はよ帰ろ。


「じゃあ、もうここに用はない」


「リオル……」

「リオルさん……」

「お兄ちゃん……」


 身近だった者達の弱々しい声が聞こえた。彼女達は疲労で、一歩も動けない状態だ。


 俺は一瞥だけして、このあちこちがボロボロの場内から去ることにした。


 世話になったな、クソ学園。

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