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バルムドとの決着

「人類の希望となる武器よ、聖なる導きにより、今ここへと降臨を願う、聖剣召喚」


「ま、まさか、その詠唱は!? そんな、そんなことありえねぇ……。お前は勇者じゃねえだろぉ!」


 バルムドに余裕がまったく見えない。顔には緊張が走り、焦りまくってるらしく、虚勢を張るように怒鳴ってくる。


 俺が思ってた以上に聖剣に対する恐怖心が、大きく植えつけられてるようだ。闇に属する魔族だからこそ、あれだけのダメージになったのだから、気持ちは分からなくもないが。


 アイザワは俺より断然未熟だ。もしも、俺が聖剣を使えたとしたなら、あれ以上の力を発揮することは容易に予想できる。バルムドの恐怖心が増大しても何ら不思議じゃない。


 まあ、ただの虚言だけど。そもそも、魔力を消費して召喚できなかったら最悪過ぎる。今は試す時じゃない。


「ああ。言ってみただけだ。束の間の緊迫感を楽しんでもらえたかな? 俺は楽しめた。ありがとう」


 俺は沸点の低いバルムドを煽りに煽る。怒れば怒るほど冷静な判断もできないタイプだろうし、自分のストレス発散にもなるからだ。


「き、貴様ぁ。どれだけこの俺様をコケにすれば気が済む!」


「飽きるまで。と、まあ、冗談はこの辺までで。とっとと始めますかね」


『解体特化の大バサミ召喚』


 俺は何歩か下がってから解体専用のハサミを召喚する。両手で一メートルほどのハサミを握り、何度か閉じて広げるを繰り返す。その都度、シャキンシャキンという爽快な音が響く。


「ふっ、何だその弱そうな鉄は」


「今のうちに精々好きなだけ笑うと良い。その余裕は今だけの大切な感情なのだから」


 俺は不敵な笑みを意識して浮かべ、ゆったりともったいつけるように、一歩一歩ゆったりと確実に距離を詰める。


 シャキン、シャキン。間を少し空けながら、音を響かせるのも忘れない。


 自分で言うのもなんだが、まさしく地獄の処刑人である。


「おい、これ以上俺様に近づくな」


 余裕そうだったバルムドは顔色を変えた。ようやく危機感を抱き始めたらしい。


「……」


 俺は黙って歩み寄る。止まるはずもない。これからが楽しい楽しいショーの本番なのだから。


「近づくなって言ってんだろうがぁ!」


 強がって吠えることしかできないとは、せっかく君達が魔王様からもらった魔族ナインの名前が泣いてしまうぞ?


「な~んの心配もしなくていい。すぐに終わる簡単作業だから」


 バルムドの前へと完全に辿り着く。そして刃を広げて構えた。


「ま、まさか……」


 そのまさかだ。有言実行さ。


「立派な角だ。さぞ、ここまで生えるのに苦労……してないか。『解放』したら再生するんだもんな」


 角は傷じゃないから、再生対象外の可能性もあるな……。


 ま、いっか。どうせ、今日がバルムドの最期の日になるんだし。ここで逃がして変に後から復讐されるとかも嫌だ。


 ここで必ず仕留める。だが、その前に少しだけ遊ばせてくれよな。


「や、やめろ! やめろやめろやめろやめろおおぉぉぉぉぉ!! 角は俺様達の立派なプライドであり、象徴だ! そんなことしたら絶対に殺すからなぁ!」


 元々殺すつもりのくせに何を今さら。


 それにしても、声が大きい。しかも、今も尚脅し口調とは。立場を理解してないらしいな。


「そんなことって、どんなこと?」


 チョキン! 


 あ~あ。あんまりにも耳障りだから手が勝手に仕事してたよ。


 ごめんねごめんね~。


「嘘……だろ?」


 右の角、ゲットだぜ! 


 さぁさぁ、お次はどっちかな!


「現実さぁ。そして二本目だい!」


「ま、待て! 待つん――」


「待たない、待てない、待ちたくない。せーの、よいしょお!」


 左の角も、ゲットだぜ!


 バルムドは、わなわなと小刻みに震え出す。


 寒いのか? な~んだ。ただ怒ってるだけか。まぁまぁそんなに怒るなよ。元の一本角に戻っただけだろうに。


「て、てめぇぇぇぇぇ――」


 チョキン!


「あ……。大声出すから、ラストの一本もちょんぎっちゃったよ。自分から俺に角を差し出すなんて立派な心持ちだな。魔力も宿ってるようだし、その心に免じて有効活用してやるよ。角なし魔族のバルムド君」


 バルムドの足元には、立派な角が見事に三つ落ちており、角があった部分は円形ハゲみたいになっていた。


 ふむ、実に面白い。これが解体の魅力か。


 さてさて、次はその大きく立派な翼かな。それも良い素材になりそうだ。


 あれ? 今思ったけど、このハサミ最強じゃん。角を簡単に落とせるとか。武器、俺に要らなくね?


 あ、だけど、召喚する度に毎回魔力を消費すんのもデメリットか。


「……許さん」


「ん?」


 俯いてボソボソとどうした? もしかしてショックを受けちゃったのか。似合わないぞ。むしろ喜べよ。


 ご褒美だろ。誇りである角を俺に献上できたんだからさ。何の不満がある。これだから最近の無駄に歳だけ取ったバルムドは駄目なんだ。


 どうせ、今日までの命なんだ。俺の好意を無下にするなよな。


「貴様だけは、貴様だけはぁ、絶対に許さんぞぉぉぉぉぉ!」


 怒りの叫び声を発したバルムドを黒い魔力包み出すと、拘束してた物が強引に千切られた。


「おっと、危ない。まだそんな力を隠してたのか」


 俺は後ろに軽く跳躍し、バルムドの次の動きを注視する。


『黒炎強化』


「黒い炎を纏ってる?」


 バルムドがメラメラと黒く燃えてるのだ。この少し離れた距離でも炎の熱が伝わってくる。


「下等種族。お前はもう終わりだぁ」


「速い!?」


 俺は即座に判断して後ろに素早く飛び退く。


 速度が増した。それだけじゃない。殴られた床が触れる瞬間から熱で溶けてる?


 どんだけ熱いんだよ、あの禍々しい黒炎。迂闊に接近戦もできやしない。奥の手を出させる前に殺せば良かった。


 あー面倒くさい。スラムにいそうなチンピラのくせして、鬱陶しい野郎だ。


 しゃーない。非常に残念だけど、遊びはもう終わりだな。


 魔族の幹部だからって、人間達を――いや、俺をそこらの文句しか言えないカス人間共と同じくくりにするとは愚か者が。お前が強かろうとな、驚きはしても、それが全力ならば、俺の勝機は絶対的に潰えない。


『潰れろ、潰れろ、どんどん潰れろ。相手の抵抗を許さないほどに』


 俺は言魔法の重力を何度も発動し、上から押し潰しにかかる。


「ぐぎゃあ!」


 一発目を耐えたバルムドだったが、二発目で膝をつき、更に上から重ねることで、うつ伏せで床にめり込ませた。


「一発で効かないなら重複させてやれば良い」


「な、なんだこれ、は……? 押し潰されてる……だと」


 バルムドは力を入れ、何とか顔だけ上げると、苦し気な声で困惑する。


「ほう、まだ喋れるのか。凄いな。普通ならもうぺしゃんこであの世に旅立ってるはずなんだが。最下位でも幹部なだけあるな」


 俺はこの重力に少しでも逆らえるバルムドのパワーに驚く。


「下等種族ごときがぁ。俺様を、俺様をぉ……見下すなぁ」


「どこまでもプライドの高い奴だ。でもな、もう終わらせる。これ以上無駄な魔力を消費したくないんでね」


「何を勝った気でいやが――」


『潰れろ』


 立ち上がろうと行動を起こしたバルムドを、どこまでも無慈悲に再度潰す。


「ぐあぁ!」


「もう喋らなくても良い。すぐあの世に送ってやるから。もしかしたら、お仲間もたまに来るかもしれない。その時は歓迎してやるんだぞ?」


 バルムド、お前は確かに()()()()()()()()()()()()強かったよ。でも、あれから更に強く成長した俺よりは下だった。ただそれだけのことだ。


『頭部指定・デリート』


 バルムドの首から上が完全に消え去り、糸が切れたように動かなくなる。


 終わったー。ふぅ~。強化解除。纏ってたオーラが霧散。


 残量魔力は二割ってところか。意外に使ったな。動きを封じた敵をデリートしたのに、頭部限定でも三割ほど持ってかれた。敵が強かったってこともあるだろうけど、ままならないな。


「……助かった?」


 静まり帰った場内で、誰かが言葉を発した。その声は大きくもないのに、やけに鮮明に響いた。


「うん、助かったんだ俺達」


 それに同調する声もまた、鮮明に届く。


「やった、やったぞ! まだこれからも生きれるんだよ俺達!」


 あちらこちらからに少しずつ伝染していき、やがて安堵と歓喜の声が場内全体に響き渡る。


 そしてその声は、魔族の幹部からここの人間すべてを間接的に救ったことになる、俺への歓声へと移り変わっていく。


 だが、俺の心境は……。

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