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Aブロック準決勝、ただし俺は不戦勝

「流石にあれはやりすぎじゃない?」


 俺が観客席に戻る途中、次に試合があるであろうリラとバッタリ鉢合わせした。


 ガッツリと目が合った俺だが、リラには特に用もなかったので、何も言わずに横を通り過ぎようとしたら、すぐに呼び止められたのだ。


 俺としては幼馴染とはいえ決別した相手であり、話すことはこれっぽっちもなかったのだが、無視しても色々と面倒そうだし、急いでもなかったので、手短に話すという条件で了承した。


 内容は先程の試合についてだった。てっきり決別した時の話をすると思ってたから意外ではある。


「そうか? 俺は別にそうは思わない」


 俺はいつもと変わらない普通の口調でリラの問いに答えた。


 確かに刺激的だったかもしれないが、教師陣も止めなかったし、問題ないということだろう。


「あそこまで殴り続けなくても……」


 何を心配しているのか知らないが、リラは暗めの声音となる。


「何だよ。文句あるのか?」


「そうじゃないわ。ただ、リオルならもっと簡単にで――」


「だったら! だったらお前がアイツを暴走させないように手綱をしっかり握っとけよ」


 うじうじと要領を得ない話をするリラに、俺は少し大きめな声を被せた。


「それは、アカシが勝手に……」


 勝手に、ね。暗い表情で言うリラに、苦労してるんだな――なんてことは思わない。


 自業自得だ。自分が関わると決めたなら、ちゃんと常識ないあの馬鹿を教育しろよ。手遅れの頭をしてても応急処置くらいできるだろ。


「それなら関係を断てよ。それが無理なら見張っとけ。アイザワが俺にストレスを溜めさせた結果があれだ」


 実際にアイザワがあんな奴じゃなければ、俺はすぐに気絶させて試合を終了させていた。


 あれは理不尽に絡まれた無意識の恨みだ。拳が勝手に動く感覚は今日が初めてだった。


 それだけ俺はアイザワに嫌悪感を抱いているわけだ。アイツが気絶してからようやく自覚したよ。


「でも、あんなにしたら、リオルは皆に畏怖の目で見られ続けることになると思う。それでも本当に良いの……?」


 そんなくだらないことを気にしてたのか。無駄な心配ご苦労さん。


「大いに結構じゃないか。何で俺の苛めを見て見ぬ振りしたり、苛めてきた奴らに良い印象を与える必要がある? それに俺はもうすぐ……いや、何でもない」


 危ない危ない……。咄嗟に口が滑るのを何とか押さえ込めたな。


 これを伝えると面倒だ。


「もうすぐ何? 一体何なの!」


 リラが必死な顔で俺に詰め寄ってきた。これだから幼馴染は困る。


 少しでも変な空気や言葉を出すと、勘づくんだからさ。


 まったく教える気はないけど。


「それより早く行けよ。もうすぐ試合だろ」


 俺に食い下がろうとするリラに優先すべきことを促す。


「でも!」


 尚も食い下がるリラに俺は溜め息を吐いて提案した。


「どうしても話したいなら勝ち上がれ。これが俺の最大限の譲歩だ」


 こうは言ったが、俺は真実を話すとは一言も言ってない。つまり、何を話すかは俺の自由なわけだ。はぐらかすことも可能である。


「わかった……。あたし絶対に勝つから。行ってくるね」


 リラは俺にそう言い残すと、決意を瞳に宿して、堂々と歩きながら入場門の方へと去った。




 リラと別れた俺は、相変わらず一人で観戦していた。


 あの試合の影響か、周囲は俺を恐がっており、更に距離が離れた。


 文句を言ってくる女子生徒が幾人かは来ると思ったが、思い過ごしだったようだ。


 それにしても周囲の奴らは復讐されるとでも思ってるのかね。心当たりある奴ばかりだからビクビクしてるんだろうけど。純粋な恐怖心なだけの奴も混じってはいる。


 復讐する気は毛頭ないが、それを教えるつもりもない。精々ママとパパのことを思い浮かべとけ。少しは恐怖も緩和されるんじゃないか。


 そんなことよりも、俺の次の試合はAブロック準決勝みたいだ。


 俺ここまで最短だろ。まだ二回しか戦闘してないぞ。ある意味恐怖は無駄を省いてくれる武器にもなるんだな。


 試合を見てれば生徒の質も上がってきてるのがわかる。俺がいなければアイザワでも、ギリギリブロックの準決勝まではいけたかもな。


 とか思ってると、あっという間に準々決勝は終わっていた。


 この後、少し時間を空けて準決勝が行われる。


 さて、俺の対戦相手は誰かな。どれどれ…………棄権かよ。


 俺のあの試合……そんなに恐怖だったのか。実力差も感じた上でだろうが……マジかー。ここまで来てヒヨるなよ。


 こうしてブロック決勝進出一番乗りな俺は、見事な不戦勝となりました。




 準決勝開始の時間となった。


 これから、今日一で注目される戦いが、Aブロック準決勝で行われる。


 俺の対戦相手が棄権のため、実質Aブロックは一試合だけ。


 対戦カードは、去年の覇者――リラ・ミラーと去年の準々優勝者――サラ・サーファとなった。


 この二人のどちらかとAブロック決勝で戦うことになる。


 片方は俺の中では決別した幼馴染、もう片方は家族だけど関係に亀裂の入った義妹。


 両者の実力は、ここまで勝ち上がってきたのと去年の実績が証明している。


 どのレベルなのかしっかりと見させてもらおうか。


 まず入場してきたのは、桃色の髪が特徴的なサラだ。


 サラは少し緊張した面持ちをしている。昨年Aブロック決勝で敗れたから意識しているのだろう。


 対する逆から堂々とした足取りで入場を始めたリラは、トレードマークの茶髪ツインテールを小さく揺らしながら舞台まで歩いている。


 学園の人気者とも呼べる二人の入場に、観客席のボルテージは上昇し、ワーキャーと煩い状態だ。


 両者が所定の位置まで来て止まると、早速試合開始の合図が出された。


 まず二人はほぼ同時に身体強化を施す。


 サラが先手とばかりに詠唱を完了させ、手を払いのけるような動作をして火の魔法を発動させる。


 火の中範囲魔法『熱風』のようだ。その名の通りに、火傷するほど熱い風がリラに向かって勢いよく流れた。


 範囲が広い魔法だからか、リラは避ける選択肢を捨てて水の防御魔法『ウォーターバリア』を展開。判断通り、熱風から身を守ることに成功していた。


 直後、反撃だ! とばかりに『ウォーターバレット』を発動させる。リラは指を銃の形にして、水の銃弾を次々とサラに撃ち込んでいく。


 サラは銃弾が着弾するであろう軌道を先読みし、紙一重で右に左と避けている。これは、身体強化で動体視力と反射神経も上昇しているからこそ可能な芸当なのだ。


 サラは避けつつ、いつの間にか詠唱を完了させると『岩落とし』という大きな岩を敵に落とす魔法を発動させて、それを上空からリラ目掛けて落としにかかった。


 やむを得ずリラは、ウォーターバレットを中断して、回避行動に移る。


 ドシャンッ! という床に衝突するけたたましい音が響き渡ると、先程までリラがいた場所は、岩によってクレーターができていた。


 サラの追撃は尚も止まらず、『フレイムバレット』をリラに立て続けに撃つ。燃え盛る炎の小さな銃弾の嵐がリラに襲い掛かった。


 リラは再び『ウォーターバリア』を展開して攻撃を凌いだ。


 ここで一度戦闘が中断され、二人の間に会話が発生した。


 だが、何を話してるかは聞き取れない。


 そもそもの距離が遠いのと、観客が盛り上がってるからだ。


 二人のハイレベルな戦闘に、熱を上げて歓声を上げる者達がどんどん続出して、最初よりも観客席は騒がしい。


 そして、まだまだ盛り上がるだろう。


 何故なら、今の二人はまだ小手調べなのだから。本番はあくまでも次。会話を挟んだのもその為だろう。


 ……ほらな。


 会話が終了した様子の二人は、自分の得意な属性で強化を施した。


 リラは光の属性強化で、サラは火の属性強化だ。


 リラは、あの初心者とはまるで違う段違いな神々しい光のオーラに包まれている。魔法に触れてきた月日の差がこれだ。


 見てるかアイザワ。このレベルに達してもないのに、自分がどれだけ恥ずかしい奴だったのか思い知っとけ。お前には手遅れかもしれないが、それでも良い薬だ。


 サラは赤いオーラに包まれている。燃え盛る炎のような荒々しい迫力があり、強者の雰囲気が伝わるかのようだ。


 まあ、ここまで持ち上げてなんだけど、学生にしては凄いってだけだ。まだまだ伸びしろがあるのは当然だから、これからどんどん強くなるだろうが、それでも今の段階でこれなら……。


 二つの属性強化を比べると、スピードは光でアタックは火だ。


 熟練度にもよるが、基本的にはスピード対アタックの勝負となる。


 リラは光輝く『ライトソード』を作り出した。ライトソードは光魔法で、剣を具現化する魔法。


 剣を生成したリラが床を強く蹴ると、スピードを生かした動きでサラを翻弄しにかかった。


 舞台を縦横無尽に動き回り、残像ができる程の速さで徐々に接近していく。サラは受けの姿勢でリラの接近をじっと待つ。


 どうしてもスピードで劣ってしまうのを理解しているからか、サラは無理に追いかけることはしない。神経を研ぎ澄まして待つのが一番だと思ってるのだろう。


 リラがついに仕掛ける時が来た。ここ一番のスピードを発揮して、リラの姿が掻き消えると、一瞬でサラの後ろに急接近した。


 光剣をサラの背中を斬りつけようと斜めに振り下ろす。サラはすんでのところで感知したらしく、床を蹴って前に飛んだ。


 リラは追撃しようと踏み出すが、前に飛んで着地して振り向いたサラが、もう一度床を蹴って、今度はリラに拳を振るうべく目前まで接近していた。


 サラの拳は振るわれるが、光剣で防いだ。防いだまでは良かったが、火力に押されて止まらないリラは、押し返すことを断念して、途中でサラの拳を受け流すことに切り替える。受け流すと同時にリラは飛び退いた。


 賢明な判断だな。受け流すだけなら確実に一発貰っていた。


 攻防も見事。流石、四強同士の戦いだ。中々に見応えもある。


 飛び退いたリラは、今度は小細工なしにスピード勝負を仕掛けた。


 一太刀一太刀丁寧に素早く斬りつけていくリラ。


 一方で、サラは光剣を上手く躱し続ける。


 サラは反撃のチャンスをまったく与えてもらえない。


 徐々にサラが押され始めた印象を受ける。致命傷は受けないものの、捌ききるのが難しくなったらしく、所々に浅い傷が増えてきた。


 サラは打開の手として魔法を使いたいが、詠唱する暇がなく、避けるのに手一杯という感じだ。


 そんな時、何故か一瞬だけリラに隙ができたように見えた。その隙を逃すまいと、サラは握り締めた拳で、リラの腹に重そうな一撃を振り抜いた。


 そして命中し、サラの逆転劇の始まりだ――とは残念ながらならなかった。


 爪が甘い。今のはリラの巧妙な誘いだ。


 簡単に言うと、サラが攻撃したリラは、実態のない幻のようなものである。


 サラが夢中になって避けてる場面。おそらく、誰にも聞き取れない声で、詠唱を完了させていたリラが、怪しまれない程の微妙な隙を作り、サラに攻撃される直前に魔法を発動させると、本体は後ろに回り込み、光の幻で作り出した偽者は、リラの狙い通りに攻撃されたのだ。


 サラの拳が振り抜かれたリラの幻は、霞のように消え去る。


 そして、サラは背後という致命的な隙を晒してしまう。


 ハッとなって、後ろの気配を感知した時にはもう遅く、サラの首には光剣が添えられていた。


 サラが諦めて敗けを認めると、教員の声で試合が終了した。


 観客席の歓声は物凄く大きい。


 やっと面白いと思える試合を観戦できた。こう見ると、本当にこの学園は強さのピンきりが激しいな。


 先生方、弱い奴はもう少し鍛えた方が良いですよ。こんなんじゃ魔王の手下によって、虫を潰すように殺されるのが目に見えていますからね。


 こんな調子で魔王との戦争が始まれば、学園からも多くの無駄死に要員が出そうだ。


 知ったことではないがな。


 次はAブロック決勝か……。そこを勝てばA・B統一決勝。


 やっとまともな相手と対人戦の経験値を得られる。シャドーの作り出したイメージには限界があるからな。


 リラとは初めて戦うわけだし、四強で一番の実力者が本気を出せばどれ程なのか楽しみだ。


 頼むから期待外れにだけは終わらないでくれよ。

 

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