9話:とりあえずの区切り
「帰ってきましたね」
やはり自分の街に帰ってくるとどこか安心感がある。
「あっ……」
リリーが小さく嬌声を上げる。俺が隣に立っているリリーの尻を揉んでいるからだ。もしかしたらこの安心感は街に帰ってきたことからではなくリリーの尻に触れていることからきているのかもしれない。
チラリとランカを見るとやはり顔を赤くしてこちらを見てくるだけで、特に引いてる様子はない。不思議だ。
御者のおじさんと別れ、まずはギルドへオーガの討伐完了を伝えに向かう。そういえば今回も御者のおじさんの名前を知らないし、声すら聞いていない。彼も生粋の仕事人に違いない。
通常、討伐完了を証明するには倒した魔獣の死体の一部を持ってくる。今回はオーガの耳を切り取っていたのを持ってきた。
また、魔獣の死体は売ったり武器や防具の素材に出来るので普通はそれを持ち帰ることが多い。だが俺達は3人しかいないし、運び屋も雇っていなかったので持ち帰ることは諦めて、死体に他の魔獣が群がらないよう燃やして処理した。
ギルドに到着して中へと入る。
「デスンの街のギルドはこうなっているのね!」
ランカが物珍しげに中を見渡す。
「デスンに来るのは初めてなのか?」
「ええ、ずっと実家を拠点にしていたから。一応お嬢様だからお父様が遠くへ行くことにあまり良い顔をしないのよ。今回許してくれたのはきっとお父様はレアを信用しているからね」
ポタンさんは俺のことを信用しているのか。そこまで仲良くなるほど話した記憶がないが、ランカがそう言うのならそうなのだろう。雑談を交わしながら受付へと進む途中、ボブとマイケルに出くわす。こいつらいつもギルドにいるな。
「よー兄弟!なんだ今日は2人も女を侍らしてんのか!羨ましいねえ!」
「かーー!!何でお前ばっかり!」
ボブは冗談のようだが、マイケルは本当に悔しがっているように見える。
「ランカはそういうのじゃないよ。ていうか一応ナリトの街の貴族のお嬢様だからな」
「一応は余計よ」
「こいつらボブとマイケルっていうんだ。ほとんどギルドで飲んだくれてるだけだからあまり相手にしなくて良い」
そう言って2人の脇を通り過ぎようとするも、通路を塞がれる。
「おいこら!んな言い方はねえだろー!俺達はほとんど飲んだくれてるわけじゃねえよ!いつも飲んだくれてんだ!」
「がはは!違えねえ!」
「ま、なんにせよだ。嬢ちゃん、なんか困ったことがあったら俺達を頼りな」
そう言って、2人は去っていった。
「なんなの?あの2人」
「気にするほど大した者達ではないです。忘れた方がマシですよ」
相変わらずリリーはあの2人に辛辣だ。
受付でオーガ討伐の報酬を受け取り、ついでに帰りに出くわした黒い魔獣の事も話す。諸々の手続きを終え、ギルドを後にする。
「そういえば私、当分の間どこに住もうかしら?」
悩んでいる口振りの割には、こちらをチラチラと伺って何かを期待したような視線を向けてくる。なんとなく言いたいことを察して、呆れた視線を返す。
「まあうちは無駄に広いし部屋は余ってるけど」
リリーの方を向いて、目で相談する。
「確かにうちに住むことは可能です。ただ四六時中私達のイチャイチャを見る羽目になっても気にしないと言うのならですが」
「きっ、、気にしないわ!それに一緒に住んだ方が何かと便利でしょ。私、この街は初めてな訳だし」
ランカがうちに滞在することが決まった。
「じゃあうちに帰る前に夕食を済ませたりいろいろと街の中を案内したりするよ」
「ええ、お願い」
いろいろな店を案内して回り、武器屋の前で立ち止まる。
「そういえばオーガに剣を折られたんだった。ちょっとテキトーに買ってくるから待ってて」
2人を残して武器屋に入って行く。
♢♢♢
「なかなかかっこいいでしょう?」
「へっ?いや、確かにかっこいいとは思うけど。でもやっぱりリリーさんがいるし」
突然リリーさんに話を振られて私は慌てる。
「なんの話ですか?私は武器屋の外観について聞いたのですが」
「なっ!」
私は自分の顔が赤くなっていくのを感じる。と、同時にそんな聞き方をされればレアのことだと思うの当然だという思いが湧いてきて、リリーさんを軽く睨む。
ニヤニヤとからかう笑みを浮かべるリリーさんが目に入る。
「リリーさんこそ良いの?私が本気を出したら取られちゃうかもよ?」
「ふむ、私達のキスを見て顔を真っ赤にしながらも興味津々なランカさんの本気とやら気になりますね」
「くっ!ベ、、別に興味津々ってわけじゃ、ないわけでもないけど」
ダメだ、勝てる気がしない。早くこの心を締め付けられるような状況を終わらせたい。
「お待たせ、それなりの剣が買えたよ」
この状況に救世主が現れた。
「神よ!」
「なに?どうかしたの?」
「なんでもありません。次へ向かいましょうか」
レアの探るような視線を気にせずに歩き出した。
♢♢♢
「へえ〜!ここがレアとリリーさんの家なのね!なかなか広いわね!」
案内を終え、家に着くとランカがそう感想をもらす。
「両親も住んでたからね。2人で暮らすにはかなり広いんだ。」
中へと入り、家の中を案内し、最後にこれから当分の間ランカが寝泊まりするための部屋に向かう。
「この部屋を当分の間使ってください。掃除はしてあります」
そう言って俺とリリーは部屋を出ようとする。
「レア、リリーさん!いろいろとありがとう!私頑張るわ!これからよろしくね!」
ランカは覇気のある声でそう口にし、深々と頭を下げた。
「こちらこそよろしく」
そう言って今度こそ部屋を後にした。
ランカの部屋を出た俺達は隣にある自分達の部屋に入る。ドアを閉め、2人でベッドへと並んで腰掛ける。
「珍しいですね。私達に対してドン引いたりせず、普通に接してくれる人は」
「そうだね。すごく貴重な友達だ」
「友達、ですか?」
そうだと頷いて、リリーとの距離を詰める。ここ最近、依頼から始まりランデリオン家へのお泊りなどで致せていない。つまり、だ。溜まっているのだ。いろいろと。腕をリリーの腰に回し、キスをする。
「久しぶりだね」
「ええ、もう我慢が効きません」
リリーをベッドへと押し倒す。
その日は久しぶりすぎて朝まで続いてしまったとだけ言っておく。