7話:ランカのお礼
日が昇り移動を開始してから、それなりの時間が経過して俺達はナリトの街の入口の門に到着した。
「門番のところに行って手続きをしてくるわ。ここで待ってて」
そう言って、ランカは小走りで門番のところへと行った。
「レア様、今がチャンスです」
そう言うとリリーは俺を抱きしめてキスをしてくる。
別にランカの前だろうが構わずするくせに何を言っているのだろうか。もちろん大歓迎であるが。
「アム……チュク………チュム……」
ピチャピチャと音をさせて舌を絡ませ、リリーの歯の裏を舐め、唾液を啜る。おいしい。
ふと視界に気まずそうにしながらもジッとこっちを見つめる御者のおじさんが目に入る。申し訳ないとは思いつつも、やめられない止まらない。
リリーの目がトロンとしてきて俺の理性もそろそろ限界だと感じ始めた頃、
「い、いつまでやってるのよあなた達。ずいぶん前から私戻ってきてるんだけど」
顔を赤くしながらもジトっとした目をこっちを見つめてくるランカが言った。
「プチュ……では行きましょうか」
口を離し、ハンカチを取り出して口元を拭きながらリリーは何事もなかったかのようにしれっと言う。
馬車から荷物を取り出して、御者のおじさんとは門で別れた。彼の名前も知らないし、声も一度も聞かなかったがそんなものだろう。彼はきっと仕事人なのだ。
さようならおじさん。
街の中は俺達が住んでいるデスンの街よりも大きく、活気づいている。
「私の家は街の中心にあるわ。ここからそう遠くない所ね。家に着いたらお父様に紹介させて」
「お父さんはこの街の領主だよね?俺達みたいな平民に会ってくれるの?」
「お父様も命の恩人に対しては礼節を持って接するわ」
街の中を3人で歩きながら会話を交わす。街の中を歩いているのだから、もちろんアリスとは腕を組んでいる。
そういえばランカは、恥ずかしそうに見てくるだけでドン引いたりしないな。そんな女の子は珍しい。
しばらく歩いていくと、大きな城に到着した。ランカに気づいた門番が近づいて来る。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま」
ランカが挨拶を返すと、門番は後ろにいる俺達へと視線を向ける。
「この方達は私の命の恩人よ。これからお礼をするために城に招待したわ。丁重にもてなして」
ランカはそう説明すると、門番は了解しましたと頷いて俺達へと会釈をする。会釈を仕返した俺達は、門の中へと入っていくランカについていく。
城の中へと入ると老執事が近づいてきて頭を下げる。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま、ヤジマ」
そう言うとランカはその老執事に門番にしたのと同様の説明をした。
「お父様に説明してくるからこの方達を応接室まで案内して」
そう言ってランカはその場を後にした。
老執事に案内されて応接室に入ると、ソファーに促され座る。もちろんリリーとぴったりとくっついて座る。
「改めまして、お嬢様を救って頂きありがとうございました。私は執事のヤジマと申します」
ヤジマさんは頭を下げて礼を口にした。
「俺はレア。こっちのメイドがリリーです。でもそんな簡単に俺達のことを信用して良いんですか?」
そう言うとヤジマさんは苦笑する。
「お嬢様は純粋で素直でいらっしゃいます。そんなお嬢様のおっしゃることであれば、我々は信用致します」
なるほどそういうものなのか。
「つきましてはご夕食をあなた方にご馳走させて頂くということで」
「お願いします」
「では準備が出来るまで少しの間、ここでお寛ぎ下さい」
そう言って頭を下げるとヤジマさんは部屋から出て行った。入れ替わりで入ってきた若いメイドが、紅茶を注いでくれた。
「レア様、お疲れですか?」
紅茶を飲みながらリリーは俺に尋ねてきた。
「魔力は全然平気だけど、移動が疲れたよ。アリスは?」
「私は平気です。では」
そう言ってリリーは自分の膝を叩く。膝枕をするという合図だ。断る理由はない。即座に頭をリリーの膝の上に乗せる。ああ、柔らかい。
「夕食までの間、一眠りどうぞ」
そんな言葉を聞きながら、意識が微睡む。
「……ア様……レア様……」
自分を呼ぶ声が聞こえて目を覚ますと、リリーが俺の顔を覗き込んでいるのが目に入る。心なしか口回りがしっとりと濡れている気がする。理由をなんとなく察して気にしないことにした。
「レア様、夕食の準備が出来たようです。行きましょう」
周りを見渡すと案内係らしきメイドがいる。ソファーから立ち上がり彼女について行く。
応接室を出て、廊下を歩く。壁にたくさんの絵画が貼られているのを横目に2.3回角を曲がると立派なドアにたどり着いた。
「こちらがご夕食の場所です。中で旦那様とお嬢様がお待ちになっております」
案内してくれたメイドにそう説明されて頷くと、メイドはドアを3回ノックして、中から男の返事があった後にドアを開ける。
中に入ると長いテーブルの上にたくさんの料理が並んでおり、ランカと、ランカと同じ赤い髪色のヒゲが特徴的な男が座って待っていた。ヒゲ男が笑みを浮かべる。
「よく来てくれた。私はこの家の当主のポタン・ランデリオンだ。この度は娘が世話になったようで感謝する。どうぞ座ってくれ」
軽く会釈し、俺は席に着く。リリーは俺の後ろに控えていたが、ポタンさんから座って一緒に食事をしてくれという言葉を聞いて、座った。
「どうぞ召し上がってくれ」
そう言われて俺とリリーは料理に手をつける。
「しかし、ランカから聞いたがレア君はその歳にしてすでにギルドのAランクに所属しているそうな。いやあうちの娘もなかなかに才能があると思っていたが上には上がいるようだ」
ポタンさんは愛想良く話しかけてくる。
「俺なんてまだまだです」
「やはりギルドでのSSランクを目指しているのかな?それとも将来的には騎士団に?魔法がすごいなら宮廷魔術師も視野に?」
そう問われて俺は考える。強くなりたいが、俺は何になりたいのだろうか。
困っていると勘違いしたランカがフォローしてくる。
「お父様、そんなに矢継ぎ早に質問していたらレアも困るわ」
「おお、すまない。別に問い詰める気はないんだ。ただそれだけの才能があるのなら騎士団に推薦するのもやぶさかではないと思ってね」
「お父様、それは性急すぎよ!」
「ふむ、それもそうか。ところでお前はどうするのだ?オーガが討伐出来なかったのなら騎士団に入るには入団試験を受けなければならないぞ」
それを聞いたランカはテーブルを叩いて立ち上がり宣言する。
「お父様、そのことだけどとりあえずしばらくはレアの元で魔法の使い方を学ぶわ!」
それを聞いたポタンさんもテーブルを叩いて立ち上がる。
「なっ!だが今更お前の破天荒ぶりには慌てないぞ!とりあえずそれは認めるが18歳までに結婚するにしろ騎士団に入るにしろ身の振り方を決めてもらうからな!」
似ているなこの親子。
ランカのとりあえずの大まかな今後が決まった後は、明日からの予定を話し合って、明日ランカは俺とリリーと一緒にデスンの街へと行くことが決まった。
事務的な話が終わった後は、雑談を交わして夕食はお開きになった。ポタンさんは陽気で話しやすい人だった。
お開きになった後は客室へと案内された。
部屋を2つ用意するか聞かれたが1つにしてもらい、借りた寝間着へと着替えてリリーとベッドに入り込む。さすがに情事は出来ないがたっぷりとキスをして満足したら、リリーの胸に顔をうずめて気持ち良く寝た。