3話:移動
街の入口の門へと着く。道中たくさんの冷やかしにあったが今更だ。行商人らしき人を見つけて近付いて行く。
唐突だが、この世界に人間以外にもいくつかの知的生命体がいる。エルフやドワーフ、獣人などだ。エルフやドワーフは誰もが想像出来るあれだ。
獣人というのは様々で犬がそのまま人になったようなものや人に猫耳や尻尾が生えたようなものまでいる。
行商人らしき人はどうやら前者で、チワワのような顔にものすごい筋肉の体をしている。違和感がすごすぎる。
そんな人に向かって交渉をしに行く。
「行き先が途中まで一緒だから良かったら馬車に乗せて行って欲しい。俺達はギルドに所属しているのでもちろん護衛はするし、護衛料はいらない」という旨を伝える。
すると横から褐色の髪の毛の目つきの悪い男が飛び出てくる。
「おいおいおい!俺達ワイルドモンキーズ7人が護衛をするっていうのにどういう了見だ!テメーみたいな芋がいると邪魔だから帰れ!」
男の後ろにはその仲間と思われる者たちがいる。6人の男たちだ。全員山賊のような格好をしていて、いかにも世紀末だ。
「もちろん邪魔はしない。ただ俺達はギルドランクがAとSだからあんたらも多少は楽ができる。悪くはないと思うけど」
そう言ってチワワマッチョを見る。チワワマッチョは気まずそうにしながら答える。
「俺はクリスさんたちがいいなら構わないが。どうする?」
クリスと呼ばれた護衛の男は俺達を見下ろす。
「てめーらがAとSランクだあ?ホントだろうな?ホントなら俺らも楽できて文句はねえが」
俺達はギルドカードと呼ばれる身分証を提示して、同行することを認めてもらえた。
ギルドに所属していてランクが高いとそれなりに信用してもらえる。このようないきなりの交渉であってもそれは変わらない。
行商人は3つの馬車を持っていてうち2つには積荷が載せられている。後の1つは人専用ということを聞かされた。それぞれの馬車に御者が付いている。
馬車によってできた列の前後左右に1人ずつの護衛がつき、交代で行くことに決まった。
最初はワイルドモンキーズとやらの男達4人が護衛することになった。俺とリリー、チワワマッチョにワイルドモンキーズの外を護衛していない余った3人が、人専用の馬車へと乗り込む。
馬車が出発し、少ししてから改めて自己紹介をした。
まず最初はチワワマッチョからだ。というかそんなにマッチョなら護衛はいらないだろうと心の中で思う。
「俺の名前はワチだ。ここいらの農産物を王都で売ることを生業にしている。見ての通りの外見だが腕っ節は強くない。あんたらがいてくれてさらに安心できて良かったよ」
次いで褐色の髪の毛の護衛団のリーダーが自己紹介をする。
「俺はクリスだ。ギルドランクは全員B。他の奴らの紹介は、まあテキトーにしといてくれや」
どうやらあまり馴れ合うつもりは無いらしい。こっちとしても別に気にしないが。
「俺はレア。こっちがメイドのリリーだ」
男達全員がリリーをじっと見つめる。どうやらあまりの美しさにびっくりしているらしい。よくあることだ。
そろそろ休憩する頃合いかという時、護衛団の1人の如何にも軽薄そうな金髪の男がリリーに話しかける。名前はケックというらしい。さっきテキトーに自己紹介した。
「ねえねえリリーさんは、レアくんのなんなの?」
リリーは素っ気なく答える。
「メイドです」
「メイドー?てことは付き合って無いんだよね?彼氏いないなら俺とかどう?それなりに将来有望だと思うけど?」
「結構です」
「いやいやいやー、もう少し考えてよー。ね、とりあえずもっとおしゃべりしようよー」
「結構です」
「そう言わずにさ、俺いろいろとうまいよ?」
この手の如何にもありがちなナンパはリリーがキレイすぎるために絶えない。しつこいナンパにいちいち相手をするのが面倒なリリーと俺はよく使う手段を用いた。
それすなわち、男の目の前でいつも通りにするということだ。
リリーは俺を見上げキスを要求してくる。もちろん応える。男に見せつけながら舌を入れ、唾液をすする。
「チュム……アム……ピチャ……」
リリーの目がトロンとして頬に赤みがさし始める。これ以上やると止められないので一旦口を離す。
「あっ…」
リリーは残念がりながらも一旦口を離してケックを見る
「私とレア様はこういう関係でもありますので」
ケックは唖然としていた。ざまあみろ。もちろん他の男達も唖然としていた。
それ以降誰も俺とリリーに話しかけることはなく、また道中魔獣に襲われることもなく平和にサンニの森へと到着した。